第310話

 やがて15分が過ぎ、収録を再開。

 決勝レースにキュート、易鳥、それから美玖の代理として綾乃が出場する。

「実質的にキュートと易鳥の対決ですね。私は後ろを走ってますので」

「ごめんね、綾乃ちゃん。決勝まで付き合わせて」

 キュートと易鳥は筐体の前で火花を散らした。

「さっきの約束、忘れないでよね?」

「天音騎士の名に誓うとも。もっとも、勝つのはイスカだが」

 演出で『VS』と差し込むなら、この場面だろう。

 しかしほかのメンバーが見当たらなかった。レースクィーンはハイレグがあと4人、ミニスカがあと2人いるはずなのに。

「……あれ? みんなは?」

「ほぉら、あそこにいるでしょう? ウフフ」

 オカマさんの宍戸直子がほくそ笑む。

 コースの一部はくり抜かれたように途切れていた。そこに6人のレースクィーンが仰向けで寝転び、ぎゅうぎゅう詰めになっている。

 つまり彼女たちのカラダそのものがコースというわけで。

「あ、あとで仕返ししますからねっ? P君!」

「最下位決定戦だってあるのに、この仕打ち……あにくん、憶えてて」

「なんか僕のせいにされてるんですけどっ? 宍戸さん!」

 6人は交互に頭を逆にして、これまた絶妙にフィットしていた。

 綾乃がしれっと流す。

「私は反対したんですけど。直子さんが、プロデューサーの判断には従いなさい、と」

「綾乃ちゃんまで僕のせいにしないでくれるかな? ねえっ?」

 この大型新人、恐ろしい子……っ!

 とはいえ配信動画の構図としては面白かった。

 余所のアイドルだったら物議を醸しかねない内容だが、そこはSHINY。ファンも好意的に受け止めてくれるはず。

「はあ……わかったよ。ちゃんと特別手当ても出すから、我慢して」

「あら、そう? それならナナル、頑張っちゃおうかしら」

「絶対よ? Pクン。ぜ~ったい!」

「ちょ、動かないでください? 里緒奈ちゃん……こっちも狭いんデスから」

 レースクィーンたちがおとなしいうちにゲームを始める。

 キュートと易鳥、綾乃がそれぞれ筐体に乗り込んで、ハンドルを握った。司会の『僕』はお面をつけなおし、実況に力を込める。

「ではでは、決勝戦! 勝つのはSHINYか、それともKNIGHTSか? 運命のファイナルレース、スタートです!」

 スタッフも固唾を呑んで見守る中、カウントのブザーが響いた。

 3、2、1――スタートと同時に爆音が弾ける。

「いっくよー! きゅーと、発進!」

「そう簡単にイスカに勝てると思うな? 勝負っ!」

 キュートも易鳥も気合十分にアクセルを踏み込んだ。

 ラブホ権を巡って、気持ちが前のめりになっているのだろう。

(……待てよ? 美玖のやつ、僕とラブホでどうしようっていうの?)

 今になって大変なことに気付いてしまったが、決勝のレースは『僕』の不安などお構いなしに進む。

 ゲームの腕前では妹に分があるはずだった。キュートのマシンが一台分、前へ出る。

 しかし第一コーナーを抜けた先で、デコボコの悪路が待ち構えていた。

「ち、ちょっと? もう来ちゃったんだけどぉ?」

「ひゃあっ? く、くすぐったいわ……!」

 二台のマシンがレースクィーンたちのお腹を次々と乗り越えていく。

(いや、さすがにこれは……)

 司会の『僕』も思わず絶句してしまった。

 SHINYのメンバーは薄生地越しに、KNIGHTSのメンバーはおへそをじかにタイヤで蹂躙され、悩ましそうに悶えるのだから。

 頭の中でけたたましいエマージェンシーコールが鳴り響く。

『子作リセヨ! 子作リセヨ!』

(だ、だめだ……ここで前屈みになったら、僕の認識阻害が……!)

 その悪路が思いのほか大きな障害となり、レースはわからなくなってきた。

「あ、あれ? そっちじゃないってばぁ」

「きゃっ! こら、どっちのよ? このラジコン……!」

 さしものキュートも直進できず、恋姫の巨乳に激突したり。

「ど、どうしてスカートを穿いてないんだ? まっすぐ走れないだろう!」

「Pクンに言ってったら! ってぇ、そこちがっ?」

 易鳥も里緒奈のフロントデルタにタイヤを取られて、苦戦する。

「よ、よし! エロコースを抜けたぞ!」

「変なコース名つけないでっ!」

 その後も周回のたびにエロコースで足止めを食らう、二台のマシン。

 男性スタッフは自重するも、女性スタッフは手拍子を取るほどに盛りあがる。

「おっぱい! おっぱい!」

「~~~っ!」

 真っ赤になるレースクィーンたちの多感な表情も、見応え抜群だ。

 そしてファイナルラップ――ラストとなるエロコースで、アクシデントは起こった。

「も、もう無理デス!」

 郁乃が半身を起こした拍子に、易鳥のマシンが浮きあがる。

「ああっ?」

 それがキュートのマシンと衝突。キュートのほうもひっくり返って、

「ひ――ひゃううううっ?」

「ち、ちょっと? やぁん……止めてえっ!」

 易鳥のマシンは依織の。

 キュートのマシンは菜々留の、フトモモの合間へ潜り込む。

 あとはもう……おわかりですね?

 タイヤの猛烈な回転が、薄生地越しに自主規制――。

 依織も菜々留もフトモモをきつく閉じ、敏感そうに腰を震わせる。

「んああああ~っ!」

 菜々留の反応はお風呂で見たことがあった。イッ、イイイ……。

 決勝レースは途中から過激なお色気PVとなり、収拾がつかなくなる。

 司会の『僕』も唖然とするばかりだ。

「え、ええと……」

 キュートと易鳥のマシンはクラッシュも同然。

「……あ。これじゃ走れないよねー」

 エロコースが途切れたところで立ち往生しているもう一台を、美香留が見つけ、向こう岸へと運んでいく。

 おかげで、マネージャーの代理がゴールできてしまった。

 すなわち優勝はキュートではなく『美玖』のものに。

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