第305話

 ただ、認識阻害で『僕』の存在感は薄めておいた。お面との相性もよく、視聴者は司会役をほとんど意識せずに済む。

 この手の企画なら、SHINYのメンバーは慣れたものだ。

 里緒奈がカメラに向かって得意げに微笑む。

「みんな、やっほー! 今日は同じ芸能事務所のKNIGHTSとコラボ! 最新のゲームで対決しちゃうわよ! ねえ? 恋姫ちゃん」

「はしゃぎすぎよ? 里緒奈。美香留もラジコン弄ってないで」

「え? もう始まってんのぉ?」

 新メンバーの美香留は素として、キュートや菜々留も軽快なトークだ。

「KNIGHTSとは最近、きゅーとたち、仲良くなったんだよねー? えへへっ」

「コラボができて、ナナルも嬉しいわ。ほら、易鳥ちゃんも」

 しかしKNIGHTSのほうは、朗らかな郁乃でさえぎこちなかった。こういった配信系の企画は初めてらしい。

「えっ、えぇーとぉ……そ、そうデス! KNIGHTSとSHINYで!」

 カメラの後方で綾乃がカンペを出す。

 それをチラ見しつつ、依織も調子を合わせた。

「さっきまでみんな、ホムラ・サーキットでレースクィーンやってたの」

「あんなに近くでレース見たの、リオナも初めてよ。ほんとすごかったよねー」

 すかさず里緒奈がフォローに入って、トークを繋げる。

(録画を編集して流すやつだから。易鳥ちゃんもリラックス、リラックス)

(う、うむ。これくらい、別にどうってこと……)

 ただ、SHINYに任せっ放しでいては、KNIGHTSに恥をかかせるだけのコラボになりかねなかった。そこで、司会の『僕』が適度にバランスを取る。

「KNIGHTSも今年の夏は色々と企画を用意してるとか?」

「も、もちろんデス! 今までのKNIGHTSと思わないでください。ひひひ」

 宍戸直子の指導を受けている成果か、易鳥たちも徐々に馴染んできた。今夏発売の新作ゲームについては、依織と郁乃が紹介する。

「専用のラジコンを使えば、お家の中もサーキット場に早変わり……だね」

「今日は来週から展示される、こちらの試遊台で遊んじゃいます!」

 『僕』も司会としてトークに加わった甲斐はあったか。上々の滑り出しだ。

 その間もカメラがアイドルたちの艶めかしいスタイルを、これ見よがしに撮影する。

(むむむ……男性のカメラマンにこれを撮らせるのって、なんだかなあ)

 そんな独占欲が『僕』の脳裏をよぎった。

 しかし仕事は仕事。里緒奈たちもカメラの視線に耐えながら、レースクィーンならではの魅力を存分にアピールする。

「この恰好で運転するとか、ありえなくない? ゲームがメインなんだから、座談会用のジャージでもさあ」

「アイドルの企画なのよ? メインはレンキたちでしょう」

「あー、ここは編集でカットしてもらわないとデスね」

 アイドルの配信企画らしく空気も緩んだところで、いよいよ対決となった。

 筐体は3つなので、同時に対戦できるのは3人まで。そしてSHINYは5人、KNIGHTSは3人――さらにマネージャーを足して、合計で9人。

 そこで、

「3人ずつ競争してもらって、上位の一名が決勝戦へ進出となります」

「じゃあ、SHINYとKNIGHTSで団体戦みたいなことにはならないのね?」

 5対3ないし6対3ではSHINYに有利すぎるだろう。

 逆に罰ゲームのリスクを考えた場合、KNIGHTSのほうが有利となる。

 レースの組み合わせも決まった。


   第一レース:里緒奈、菜々留、易鳥

   第二レース:恋姫、キュート、依織

   第三レース:美香留、郁乃、美玖(綾乃)


 『僕』の予想では、決勝レースは里緒奈とキュート、それから美香留もしくは郁乃といったところか。とりあえず、代理の綾乃が勝ち進む展開はないはず。

 あらかじめ台本を用意してある……とはいえ、テレパシーでフォローも。

『みんな、さっき練習で使ったマシンを選ぶんだぞー』

『オッケー! まっかせて』

 里緒奈が得意そうにウインクする。

 まずは第一レース、菜々留と易鳥もゲーム筐体へ乗り込んだ。

「本当に運転するみたいね。ナナルにできるかしら」

「えぇと……こっちがブレーキだったか?」

 一通り練習はしたものの、ゲームに不慣れらしいことは誰の目にも明らか。菜々留はまだしも、マギシュヴェルトに自動車は存在しないため、易鳥のほうは戸惑っている。

 もちろん企画者の綾乃は知る由もない事情だった。

(これはSHINYに有利かもなあ……)

 一方、ほかのメンバー(綾乃以外)はコースの中へ。

 コーナーを跨いで四つん這いになったり、膝立ちの姿勢でレースを待つ。

「へ? ミカルちゃん、このポーズで応援するのぉ?」

「レンキ、すごく嫌な予感がするんだけど……」

 ラジコンのカメラを通して、その魅惑の光景が運転席のモニターに映し出された。シートの感触を確かめながら、里緒奈が納得する。

「うわあ~、アイドルコースって感じ? 郁乃ちゃん、目線こっち!」

「あ、そーいうことだったんデスね」

「綾乃さんは侮れないな」

 郁乃や依織も理解できたようで、カメラ目線を意識し始めた。

 第一レースの三人が最初に目指すのは、キュートのお尻だ。キュートは肩越しに振り向き、アイマスクの脇からスタート地点を窺っている。

「り、里緒奈ちゃん? 恥ずかしいから……はぁ、早くぅ」

 ボディスーツをお尻に食い込ませた格好で。

「ほんとにこれ、綾乃さんが考えたの? Pクンじゃなくって?」

「そんなことよりレースだ、レース! 勝つのは絶対、イスカだからなっ」

「ナナルも負けないわ。それじゃあ……」

 里緒奈、易鳥、菜々留がそれぞれキュートのお尻を見据え、ハンドルを握り締める。

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