第301話

 ところが、そこで予想にない人物と遭遇してしまった。

「こっちだよ、みんな!」

 変身を解いたプロデューサーだ。

 相変わらず自覚の足りない美男子が、SHINYのメンバーを迎える。

「その……す、すごい恰好だね」

 刺激的なレースクィーンの一行を前にして、彼は視線を泳がせた。アホなぬいぐるみの時とは一転、年頃の男の子らしい反応が新鮮で、初々しい。

「おっおぉ、お兄様のせいよ? あとで埋め合わせはしてもりゃっ、あぅう……」

 しかし里緒奈たちのほうは彼以上に余裕がなかった。

 恋姫や菜々留も腰が引けている。

「お、お兄さんのお望み通りのハイレグですよ? これで満足ですかっ?」

「待って? 恋姫ちゃん。それ、今は逆効果……」

 そう言いながら、ふたりは同じ恰好の里緒奈を押し、盾代わりにした。

「ちょっと、ちょっと? 押さないでったら」

 先頭に立つ羽目になった里緒奈は、赤面しつつ、両手でハイレグのV字を隠す。

 一方で、美香留とキュートの妹コンビは外からまわり込んで、彼に接近。

「おにぃ……じゃなかった、Pにぃ! 今日はそっち(人間の姿)なんだ?」

「お兄ちゃんっ! 我慢できなくなったら、キュートに言ってね?」

「え? えぇと……」

 悩殺的な妹たちに挟まれ、彼はしどろもどろになる。

(しまったわ! また妹ズに先を――)

 とは思うものの、この恰好ですぐに動けるほど豪胆な里緒奈ではなかった。

 お尻への食い込みもレースクィーンの破廉恥さを強烈に自覚させる。

(で、でもこれじゃあ……)

 ぬいぐるみが相手なら怖気づくことはないと、高を括っていたのだ。ところが男の子のほうの彼が出てきてしまって、こちらは動揺してばかりになる。

 恋姫が無念そうに呟いた。

(いつものぬいぐるみだったら、蹴り飛ばせるのに……)

(お兄たまが煽ってくるものねえ。でも、今のお兄たまは……)

 菜々留のまなざしは熱を帯び始める。

 男性としての彼は、スクール水着やレオタードで『うっわ~い!』などとはしゃぐわけがなかった。優しい瞳で里緒奈たちを見詰め、はにかむ。

「みんな、すごく可愛いよ。ちょっと露出過剰かもしれないけど……うん」

 彼になら見られても、むしろ見せてあげても――そんな乙女の妥協が働いてしまった。里緒奈は身体から腕を解き、レースクィーンのスタイルを披露する。

「んっ、んもう……お兄様ったら。リオナたちにこんな恰好ばかりさせて……」

 恋姫と菜々留も目配せしつつ、おもむろにボディラインを露にした。モデルのように背筋を伸ばし、頬を上気させて微笑む。

「キュートも美香留も、く、くっつきすぎよ? お兄さんを困らせないで」

「い、今だけよ? お兄たま。ナナルのレースクィーン……」

 対抗して、美香留とキュートは爆乳で彼に迫った。

「おにぃはミカルちゃんが一番っしょ? ね?」

「お兄ちゃんの一番はキュートなのっ!」

 一途な上目遣いと胸の谷間アピールに参ったのか、彼は視線を脇へ逃がす。

 その視線を追いかけ、ようやく里緒奈たちはKNIGHTSの面々に気付いた。

「……あ。易鳥ちゃん、いたの?」

「最初からいたぞっ!」

 ミニスカのレースクィーンが声を荒らげる。

 その常識的な風体を目の当たりにして、恋姫が瞳を濁らせた。首を折るように曲げ、プロデューサーをぎょろっと見上げる。

「……P君? どうしてKNIGHTSはスカートなんですか……?」

「急にホラー調になるの、止めてくれないかなあ」

 菜々留は我が身をかき抱き、小さくなった。

「Pくんったら、意地悪ねぇ……ナナルたちにはこれなのに」

「ハイレグ以外のコスチュームもあるんじゃないの!」

 里緒奈も照れ隠しの不満を彼にぶつける。

(着てあげるのはいいけど……や、やっぱりこんなの、恥ずかしすぎ……っ!)

 迂闊に脚を開こうものなら、スースーした。巨乳が零れないように押さえもする。

 そんな有様も、KNIGHTSの郁乃や依織にとっては他人事らしい。

「すごいデスね、SHINYは……イクノちゃんたちの完敗デス」

「勝負するまでもなかったね。もう、そっちの完全勝利で」

「そっちはミニスカで済んだからって、冷たくない?」

 それに対し、美香留が鼻で笑った。

「ふふんっ。こーいう大胆なの、小心者の易鳥ちゃんには着れないもんねー」

「な、なんだとぉ? それくらい、イスカにだって余裕で……」

 依織が易鳥に、菜々留が美香留にどうどうと言い聞かせる。

「真っ先に逃げるひとが簡単に煽られないで」

「美香留ちゃんも挑発しないで? 面倒なことになるから」

 ふたりの機転のおかげで、ハイレグ大戦を回避することはできた。

 研修生の綾乃と、初対面のオカマが歩み寄ってくる。

「あなたたちも大したものだわ。並大抵のアイドルじゃ、そんなの着られないもの」

「コスプレ企画が盛りあがるわけねえ。でもアナタたち、出番はまだ先よ?」

「……え?」

 一様に目をぱちくりさせる里緒奈たちに、オカマが続けた。

「上着でも羽織ってればいいじゃないの」

 その通りだった。

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