第300話

 やがてKNIGHTSの面々が装いを新たに現れた。

「あっ、にぃにぃ! 見つけたデス」

「待って、郁乃。あにくんへの挨拶はイオリが」

「あ、挨拶はイスカの仕事だ。イスカはリーダーなんだぞ?」

 郁乃と依織を連れ、易鳥が先頭で仁王立ちになる。

「いよいよだな、シャイP。昨日の意趣返しも兼ねて、こてんぱんにしてやろう」

 郁乃が首を傾げた。

「意趣返し? 何かあったんデスか? にぃにぃ」

「うん、まあ……ちょっと目覚まし時計がね」

「説明するだけ面倒だし、無駄なパターンっぽいね」

 依織はわかってくれている。それだけ易鳥がわかりやすいということだ。

 そんなことより『僕』はKNIGHTSの格好に目を見張る。

「うんうん! よく似合ってるよ、易鳥ちゃん! 依織ちゃんと郁乃ちゃんも」

 中央の易鳥が得意満面に踏ん反り返った。

「だ、だろう? 少し露出が過剰な気もするが……うむ」

「あにくんに褒められたら、易鳥はブリーフでもモモヒキでも受け入れるよね。多分」

「引き立て役だからって、そんなに下がるな。お前たちも前へ出ろ」

 依織の冗談も聞こえていない様子で、メンバーを横に並べる。

 KNIGHTSはミニのベストとスカートを合わせた、爽やかなスタイルのレースクィーンだった。ニーハイブーツも凛々しく決まっている。

 確かにおへそやフトモモなど、露出は多かった。

 しかしそれ以上にスタイリッシュな魅力を引き出し、易鳥たちを可愛くとも格好良い、無敵のレースクィーンに仕立て上げている。

「マントがあると、もっとよかったんだが。このブーツは気に入ったぞ」

「天音騎士の正装で履くのと似てるから、だね」

 今やKNIGHTSのマネージャーを自負する綾乃も、感嘆の息を吐いた。

「女子高生でこれを着こなしますか……」

 宍戸直子からは助言も。

「脚を閉じなさいな、易鳥。立つ際のポージングも教えたでしょう?」

「お、憶えてるとも。こうだろ?」

「それは内股に寄せすぎデス」

 KNIGHTSは歌唱力だけ、などという評価は過去のものになりつつあった。もとより器量よしのメンバーが揃っているため、ビジュアル面の強化は容易い。

(こりゃあSHINYもうかうかしてられないぞ……?)

 里緒奈たちも着替えを終えた頃だろう。


                  ☆


 SHINY用の控え室にて、里緒奈はただ立ち尽くしていた。

「……………」

 その姿見から菜々留は顔を背け、恋姫も真っ赤になる。

「ほ、本当にこれで外へ出るのね? ナナルたち」

「みっ水着より面積が少ないじゃないの!」

 まさにアルファベットの『V』を思わせる、際どいボディスーツだった。

 しかもストラップは肩に掛からず、脇の下をくぐっている。そのせいで今にも巨乳が零れそうで、胸の谷間など丸見えだ。

 能天気な美香留も、このデザインには口の端を引き攣らせた。

「ミカルちゃん、これならまだ下着のほうが……て、抵抗ないんだけど……?」

「確かにラブメイク・コレクションのほうがましよねー。これじゃ」

 里緒奈は肩越しに姿見で背面もチェックし、溜息を重ねる。

「ま、まあ……体操部に対抗できると思えば?」

「S女の体操部も、レオタードはあんなに攻めてるものねえ」

「あ、あんなの着てるから、P君が興味を持つのよ」

 そんな中、仮面の少女はまんざらでもない様子でボディスーツを整えていた。

「えへへ……でもぉ、これならお風呂じゃなくても、お兄ちゃん、きゅーとをぎゅ~ってしてくれるんじゃないかなあ?」

「……っ!」

 途端にメンバーの顔色が変わる。

 彼に抱き締めてもらう際の条件は、ふたつあった。

 ひとつは彼のほうが裸であること。里緒奈たちとて、彼の身体を触ったり撫でたり舐めたり吸ったりしたい。ソーププレイのどさくさに紛れて、やることはやっている。

 一方でふたつめの条件は、自分たちが裸ではないこと。こちらもじかに身体の線を擦りつけるほうが気持ちいい……が、さすがに丸裸では抵抗がある。

 それに、彼との情事はいつだって入浴中だった。あくまで『背中を流してあげる』という名目のために。

 けれどもこのレースクィーンの恰好なら、一線を超えられる可能性があった。

 美香留がじとっと里緒奈を見据える。

「里緒奈ちゃん? また抜け駆けしようとか考えてない?」

「ななっ、なんのこと? リオナは別に……れ、恋姫ちゃんほど? エッチなこと考えてるわけじゃないしぃ?」

「ちょっと! レンキだけスケベ扱いしないで!」

「あらあら……そんなこと言って、本当は恋姫ちゃんも期待してるんでしょう?」

 恋姫は怒りで誤魔化そうとし、菜々留はマイペースにはぐらかすものの、このボディスーツに自分と同じく『価値』を見出しつつあるようだった。

 姿見の前で里緒奈は考え込む。

(上手くふたりきりになりさえすれば、お兄様と一気に進展……だとしたら、問題はお兄様の変身よね。何とか男の子になってもらわなくっちゃ)

 やはり恋人候補の一番手として、今後のステップアップで出遅れるわけにはいかない。

「ところで美玖ちゃんは? また別行動なの?」

「最近は毎回そうよね。マネージャーはマネージャーで忙しいんでしょうけど」

「美玖ちゃんのことはいいってばぁ。早くお兄ちゃんに見せに行こっ」

 里緒奈たちは控え室をあとにして、屋外のサーキット場へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る