第298話

 翌朝も『僕』は人間の姿で目を覚ます。

「うふふっ、お目覚めになりまして? ご主人様」

「ん……陽菜ちゃんか。おはよう」

 初日こそ驚いたものの、メイドさんと一緒の朝に『僕』も順応しつつあった。いつの間にやら全開になっているパジャマのボタンを閉め、軽く伸びをする。

「別に朝は来てくれなくてもいいんだよ? 大変でしょ、陽菜ちゃんも」

「いえ。登校のついでになりますもの」

 陽菜の言うことはもっともだ。

 彼女の自宅からS女へ通うなら、ゲートとともに寮を経由するほうが早い。早起きのついでにギャラも出るのだから、まさに三文の徳といったところ。

 と、そこへもうひとり乱入してくる。

「起きてるか? 久しぶりに起こしに来てやったぞ!」

 どういうわけか、KNIGHTSの易鳥がSHINYの寮へ推参。

 そして扉を開け放った瞬間のポーズで、硬直する。

「……………」

 ちょうどメイドの陽菜が『僕』の布団をのけようとする場面だった。『僕』たちのほうも口を噤んで、侵入者の反応を待つ。

「こっ、ここ……これで勝ったと思うなよ? お、憶えているがいいっ!」

 定番の負け惜しみを吐き捨て、易鳥はドタドタと逃げていった。

「あのぉ、お兄さん先輩? 今のかたは……」

「……知らないひとだよ」

 近いうちに寮のセキュリティを強化しておくべきか。



 『僕』はプロデューサー業の傍ら、教師としても大忙しだ。

 SHINYがボーカルレッスンで授業を抜けた分は、きっちり補習もして。

「レースクィーンの件、許したわけじゃないのよ? Pクン」

「わ、わかってるってば」

 放課後はクラブ活動でまた忙しくなる。

 しかし『僕』は水泳部へ直行せず、先にチア部へ寄ってみた。

 新たにチア部のメンバーとなった美香留が、楽しそうに『僕』を迎えてくれる。

「おにぃ! こっち来てくれたのぉ?」

「美香留ちゃんがどんな感じか、見ておきたくってさ」

 チアのユニフォームは爆乳のボリュームではち切れそうになっていた。そのせいで裾が上へ引っ張られ、可愛いおへそを覗かせている。

 ミニスカートも丈が短すぎて、フトモモを付け根の近くまで晒していた。

 スカート丈はほかの部員も同様で、どのアングルにしても危なっかしい。これでダンスなどしようものなら、パンチラどころかモロパン必至。

 と思いきや、美香留が自ら平然とスカートを捲しあげる。

「おにぃ、おにぃ! これ、見せても大丈夫なパンツなんだってー」

 見せパンというやつだ。

 しかし……頭では『見せパン』とわかっているつもりでも、『僕』のほうは意識せざるをえない。そこが『スカートの中』であることに変わりはないのだから。

 おまけに、ほかの部員たちもこぞってスカートを捲りあげた。

「P先生ぇ! 私のはこんなのー」

「私はピンクにしちゃった。どーお? P先生」

 白昼堂々と催される、チアガールたちのおぱんちゅショー。

 二年生や三年生も『僕』にパンツを披露してくれる。

「ほらほら、おいで? P先生」

「エッ? む――むぐぅ?」

 さらには、その三角形でぬいぐるみの『僕』をくすぐる部員まで出てくる始末だ。

「アハハッ! P先生ってば、恥ずかしがってる~!」

「えー? 嬉しがってんでしょー?」

「だっ、だめだめ! それはミカルちゃんがしてあげるのっ!」

 美香留も負けじとスカートを掴んで、『僕』にパンツを擦りつけてくる。

 いや、『僕』をパンツに擦りつけるというべきか。 

 こういう時、いつもなら美玖や恋姫あたりがローリングソバットで介入してくるはずなのだが。今回はそれもなく、『僕』はチアガールのパンツで揉みくちゃにされる。

(ひい~~~っ!)

 解放されたのは、チア部のコーチが笛を吹いてから。

「まったねー! P先生」

「おにぃ! ミカルちゃん、チア頑張るからっ!」

「う、うん……無理はしないでね(あと僕に無茶もしないでね)」

 辛くも生還を果たし、『僕』はふらふらとチア部のテリトリーを離れた。

 お風呂でスクール水着のアイドルたちと顔面騎乗位を経験していなければ、耐えられなかっただろう。生地と泡とで、普通に窒息しそうになるからなあ、あれ……。

 続いて『僕』は体育館へ赴き、体操部の練習も見学。

「陽菜ちゃーん」

「あっ、お兄さん先輩! 来てくれたんですの?」

 嬉しそうに陽菜が声を弾ませる。

 一方で『僕』は、その蠱惑的なスタイルに生唾を飲んでしまった。ごくり、と。

(うわあ……っ!)

 だって、学校の中でレオタードだよ?

 ボディラインを引き締め、かつ魅せるための一枚が、『僕』の目を釘付けにする。

 とりわけ陽菜は、巨乳は言うに及ばず、お尻の肉付きも魅惑的だった。爪先立ちでいるせいか、美しい脚線美(生足)がすらりと映える。

 もしキュートあたりがこの格好でお風呂に現れたら――抵抗できないだろう。触るか撫でるか掴むか揉むかして、あるいはその全部をこなして、罪を重ねるはず。

(……いやいや! 妹じゃなかったら触っていい、ってわけでもなくって……)

 混乱じみた雑念を振り払いつつ、『僕』は陽菜にエールを送った。

「頑張ってネ! 陽菜ちゃん。体操部のみんなも」

「はいですのっ!」

 陽菜が控えめなりのガッツポーズで意気込む。

 スタイル良好な部員たちも『僕』を囲んで、瑞々しい身体つきを誇った。

「P先生ぇ、夏休みは体操部も教えてくれるんだよねー?」

「P先生の特別レッスン! 私も予約しちゃおーっと」

 彼女たちの顔を見ているはずなのに、『僕』の視線は下へ、下へと降りていく。レオタードのラインに吸い寄せられるかのように。

 おっぱい、おへそ……そして禁断のハイレグカット。

(学校の中なのに、こんな薄着で……ムチムチいわせて……!)

 水泳部なら水中にあるお尻も、体操部ならありのまま目撃できる。

「よぉーし! 夏休みは張りきって、体操部のコーチもやっちゃうぞ~!」

「きゃあ~っ! P先生、約束よ? 約束ぅ!」

 ますます夏が楽しみになってきた。

 チア部と、体操部と、水泳部と。『僕』のJKライフは今、輝きに満ちている。

「――んぶっびゃらぶ!」

 けれども、夢は呆気なく終わってしまった。

 ぬいぐるみの『僕』は脳天にチョップを食らい、Vの字にひしゃげる。この殺人チョップは……間違いない。妹の仕業だ。

「兄さん? 遊んでないで、水泳部の練習」

「……ハイ」

「あ、お兄さん先輩? 大丈夫ですの?」

 心優しい陽菜にご心配をお掛けしながらも、『僕』は美玖とともに水泳部へ。

「まったく……プロデューサーにしても、教師にしても、兄さんは女の子と遊びたいだけじゃないの。もう少し模範的な行動を心掛けてもらえないかしら」

「……え? 僕、割と模範的なほうだと思うけど……」

 兄妹の溝は深い。

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