第275話

 そこから先は新発見の連続だった。

 スカートの中でフトモモの付け根を引き締める、禁断の三角形。それが言動以上に持ち主のポリシーを物語る。

 例えば、

(クラス委員のカオリちゃんが、こんなの穿いてるのぉ?)

 堅物の委員長と思いきや、パンツは風紀違反そのものだったり。

 お嬢様気質の女の子が、オーソドックスな縞パンだったり。

 『僕』は今、彼女たちのパンツと会話していた。

「P先生! 水泳部の練習なんですけどー」

「あっ、P先生! 今日の放課後ぉ、手芸部でお茶するんです」

 ほら、『僕』の目に触れて……乙女たちのパンツがこんなにも生き生きとしている。

 ラブコメでよく、パンツが鳥みたいに群れで飛ぶの、あるじゃない?

 あの演出はリアルだ。現に『僕』には今、パンツが天使の翼にも思えるのだから。

「P先生ぇ、今日はどうして浮いてないんですかあ?」

「た、たまには……そう! 脚も使わないとネ」

 生徒たちは『僕』にパンツを観察されているとも知らず、通り過ぎていく。

 振り返ってみれば、同じパンツがお尻に食い込んでいた。

(なるほど……ブルマの直穿きって、こういうことだったのか)

 新しい発見の数々に高揚しながら、『僕』はS女の廊下を突き進む。

 だんだん女の子の顔よりもパンツに目が行くようになってきた。最初ほど動揺もせず、平常心を保っていられる。

(訓練の成果が出てきたぞ? どれどれ、次のおぱんちゅは……?)

 そんな『僕』の前に現れたのは、黒の一枚だった。

 ただの黒ではない。黒色なのに光る――それほどの光沢が、女子高生の聖域を淫靡に際立たせている。

 デザインはハートに近い蝶を模していた。

 ハイティーンが穿くには、いささか刺激が強すぎるのではないだろうか。

 本日一番のインパクトを感じつつ、『僕』はじっくりと眺める。

「……ひとのスカートの下で何やってるのよ、兄さん」

 ところが、その声は真上から降ってきた。

「ハ……ハイ?」

 『僕』はぎょっとして、恐る恐る視線の高度を上げていく。

 パンツを越え、スカートを越えて……その先にあるのは、妹の顔。

「さっきから、ずっと……よね? スカート覗いて、パンツをチェックして……」

 寒気がした。怖気がした。

「こっ、これはその! ち、違うんだよ? 美玖! 僕はそんなつもりじゃ」

「だったら、どんなつもりだったわけ? 試しに聞いてあげるわ」

 美玖の脅迫めいた声音が、『僕』の心胆を寒からしめる。

「ええっとぉ……そ、それより……」

「それより?」

「美玖、そのパンツはちょっと早いんじゃないか? お兄ちゃん、し、心配だぞー?」

 一秒後、みぞおちにドライブシュートが炸裂した。


                  ☆


「信っじられません! パンツを克服? なんですか、それ!」

 寮のリビングにて、恋姫の怒号が木霊する。

 里緒奈や菜々留も今回ばかりは呆れ果てていた。

「こっちのお兄様、バカだバカだとは思ってたけど……」

「これは犯罪よ? ナナルもドン引きだわ」

 テーブルの上でぬいぐるみの『僕』は土下座のような正座を強いられる。

「いえ、その……僕としてはほんと、パンツを克服するつもりで……」

「どうしよぉ? 美玖ちゃん。おにぃが変になっちゃったあ~」

 いつもなら『僕』を無条件で信じてくれる美香留も、今回は困惑しきっていた。

「兄さんが変なのはいつものことよ。まったく」

「変というか、異常なんです。こうなったら、避雷針にでも縛りつけて……」

 恋姫は青筋を立てながら、お仕置き(処刑)のメニューを構想中。

 菜々留が残念そうに嘆息する。

「Pくん、マギシュヴェルトじゃ女子校育ちだったんでしょう? そのせいで、女子のコミュニティに混ざるのが当たり前になってるのよねえ」

 妹の美玖も辟易とした。

「それよ。兄さん、ずっと女子に囲まれてきたから、そのあたりに配慮がなくって……」

「いやいや。だからって、女子トイレに入るような失敗はしなかったぞ?」

「でも今回は意図的にパンツ見てたのよね? 故意よね? Pクン」

 指摘のたびに図星を突かれ、『僕』はさらに小さくなる。

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