第273話
今から服を出そうにも、ディスペルの影響下では不可能。
そもそも寝たふりをしているわけで。おまけに、この状況で下手に騒ごうものなら、里緒奈たちまで起きてくる恐れがあった。
「お兄ちゃんが悪いんだよぉ? 美香留と一緒におねんねなんて……」
枕投げで裸に剥かれたことに怒っている、のではないらしい。
妹はアイマスク越しにほくそ笑むと、浴衣の帯をするりと解いた。もどかしそうに身を捩りながら、それを脱ぎ、セミヌードを見せびらかす。
エロゲーなら間違いなく主人公をその気にさせる、肉感的なプロポーションだ。……いや、『僕』も混乱しているようだが? それでも薄目で見ているのだが?
純白のレース生地で編まれたブラジャーとショーツが、その大胆な身体つきにも一種の奥ゆかしさを加味する。
ごくり――自覚した時には、生唾を飲んだあとだった。
「それじゃ、きゅーともお邪魔しちゃうね?」
いよいよ妹が『僕』たちの布団の中へ入ってくる。左には美香留がいるため、右のほうから、思わせぶりにゆっくりと。
裸の『僕』を爪先でなぞりつつ、お尻まで擦りつけてくる。
兄妹の境界線は今、柔らかいもので占められていた。
そこから妹の温かい鼓動が伝わってくる。
妹の――。
「お兄ちゃん? ほんとは起きてるんでしょ?」
キュートが『僕』の耳を噛みそうな近さで、意味深に囁く。
「美香留が寝てるうちに……ね? きゅーとが手伝ってあげよっか?」
抵抗しないと食われる気がした。
「て、手伝うって何を?」
そのせいでウソ寝がバレる。
「ほぉーら。お兄ちゃん、やっぱり起きてた。きゅーとを待ってたんだよね?」
「い、いえ……その、ちょっと? 寝つきが悪かっただけで……」
こちらが言い訳を考える間も、キュートの腕が『僕』の身体に絡みついてきた。
『僕』の胸からお腹を下へ撫で……こ、これ以上は言えないぞ?
里緒奈や菜々留もお風呂では積極的だが、妹のそれは明らかに度を超えている。『僕』が背中で守りに入っても、そこにブラジャーだけの爆乳を押しつけて――。
「緊張してるんだ? お兄ちゃん。きゅーとの添い寝で」
「そ……そう! 添い寝……だよね? 添い寝」
ガチガチで動くに動けない『僕』に対し、妹は今や完全な優位にあった。『僕』の背中で爆乳を転がしては、ぺろぺろと舌まで這わせてくる始末。
そのたびに『僕』はきつく目を瞑り、感覚を断ち切ろうとする。
「キ、キュート? その、今夜のところはこれくらいで……また付き合うからさ」
「ふぅん。また、って?」
「そ、それは……お風呂とか、プールの更衣室とか……ん?」
途中まで答えたところで、『僕』は気が付いた。
背中越しに妹と話していたはずなのに、声の主が正面にいるのだ。
いつの間にやら左の美香留も目覚め、『僕』を冷ややかに眺めていた。
「おにぃ、ミカルちゃんと寝てるのに……同じお布団にキュートも引っ張り込んで、しかもハダカで? ミカルちゃん、どこから突っ込めばいいのぉ?」
「ちちっちが! これはキュートが勝手に……」
しかし美香留のほうで弁明に必死になれば、後ろのキュートが頬を膨らませる。
「お兄ちゃんっ! 美香留よりきゅーとと遊んで!」
「今夜のおにぃはミカルちゃんが独り占めするんだってば! せっかく起きてたのに、邪魔してくれちゃって、もお~!」
「え? えっ? 美香留ちゃん、ずっと起きてたの?」
中央で股間を隠すしかない丸裸の『僕』の、何と情けないことか。
キュートに対抗して、美香留まで浴衣を脱ぎ、オレンジ色の勝負下着を披露する。
「おにぃもミカルちゃんがいいっしょ? ええっと……あれ、ヌキヌキ! おにぃのヌキヌキ、ちゃんとお手伝いするからぁ」
「美香留ちゃん? それ、意味わかってないよね?」
「お兄ちゃんはきゅーとでヌくのっ! お兄ちゃんもハッキリ言って!」
「ストップ、ストップ! 聞いただけの言葉を安易に使わないで!」
この妹たちが、ヌキヌキなどという言い回しをどこで……依織とのプリメか。
キュートも美香留も下着の格好で『僕』の腕にしがみつき、宣言する。
「お兄ちゃんはきゅーととハメハメするんでしょ!」
「だからおにぃは、ミカルちゃんとパコパコするんだってば!」
「話を聞いて? 僕の話を……」
そんな不毛なだけの言い争いは、突然の眩しさによって遮られた。
本来の照明が点き、松の間が一気に明るくなる。
そして『僕』たちのベッドを取り囲む、三体の巨神兵……。お、お目覚めが早すぎるのではないでしょうか……?
「誰とハメハメするって? お兄様」
「ナナルたちが寝てるお部屋で、そう……お兄たまがパコパコねえ」
「女の子にヌキヌキさせようと……堕ちるところまで堕ちましたね? お兄さん」
この三人はそのあたりの意味を正しく理解しているご様子で。
里緒奈が上半身でT、恋姫がY、菜々留がVの字を作り、前後から重ね合わせた。かくして三人のシルエットは合体し、三面六臂の鬼神――阿修羅そのものとなる。
一方、『僕』は素っ裸のまま、下着姿の妹たちを両脇に抱えていた。
……え? 言い訳?
今さら言葉に何の力があるっていうんだい?
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