第254話

 ……そのはずだった。

 新しいステージ衣装に着替えたメンバーが、プロデューサーの『僕』に感謝感激する。てっきりそうなるものと思っていたのだ。

「なんなんですかっ! これ!」

 しかし飛んできたのは感謝の言葉ではなく、怒号。

 脚の付け根に両手を差し込みながら、恋姫が顔を真っ赤にする。

「これじゃパンツも穿けないじゃないですか! 変態御用達じゃないですか!」

「ちょっと待って? 恋姫ちゃん。その言い方だと、着てるナナルたちが変態ということになっちゃうんじゃないかしら……?」

 同じ格好の菜々留も抱え込むように巨乳を隠していた。

 里緒奈と美香留は往生際の悪いマネージャーを更衣室から引っ張り出そうとする。

「観念しなさいってば! てゆーか美玖ちゃん、知ってたんでしょ?」

「自分だけ逃げようたってぇ、させないんだから!」

「だ、だからキュートを呼ぶって……やだったら、こんな格好!」

 半泣きの妹も加え、ようやくSHINYのメンバーが勢揃いした。

 SFのアニメでありそうなハイレグのボディスーツで。そのハイレグカットが鋭すぎるせいで、彼女たちはパンツを穿けない。

 けれども『僕』は前屈みになるどころか、頭を逆さにして壁にへばりついていた。恋姫に叩きつけられたのは、ほんの十秒前のこと。

「に……似合ってるって褒めたのに、なんで……?」

「似合ってたら大問題なんです!」

 ぬいぐるみの『僕』は顔面で壁を滑り落ち、何とか机の上まで復帰する。

「自信持ってよ、みんな。ユニゾンヴァルキリーのコスプレだってぴったりでしょ? えろげーのヒロインくらいムチムチしてるんだから――あへぶっ!」

「今度はリオナが壁とキスさせてあげるわ! こんのおっ!」

 ……復帰するも、再び壁に叩きつけられてしまった。

 巻き添えを食う羽目になった美玖が、身体の三ヵ所を隠しつつ頭を垂れる。

「はあ……。確かに『楽園注意報』の絵師さんにデザインしてもらっただけあって、クオリティは高いけど……どうしてミクまで……」

 もう隠すことは諦めたらしい里緒奈が、首を傾げた。

「美玖ちゃん、ユニゾンヴァルキリーのコスプレはあんなに楽しそうなのに? あれだって白色のスクール水着よ? あと『楽園注意報』ってなぁに?」

「質問はひとつずつにして」

 ちなみに『楽園注意報』も『聖装少女ユニゾンヴァルキリー』に引けを取らない、大人気のアニメだ。

 そんな話題作の敏腕デザイナーが、SHINYのムチムチボディーに大きな可能性を見出し、力の限りを尽くしてくれたのだとか。

 何よりこのステージ衣装はオリジナルのため、自由に使うことができる。

(可愛いんだけどなあ……『えろい』って思われちゃうのかなあ)

 ぬいぐるみの『僕』は起きあがり、改めてメンバーの魅力的な風体を眺めた。

 SFアニメのヒロインよろしくコスチュームは非常にえろ……先鋭的で、胸の谷間やお尻の食い込みを惜しげもなくアピールしている。

 お風呂でスクール水着越しとはいえ、それを『僕』は触ったことがあるわけで――。

(すごく気持ちよさそ……いやいやいやっ!)

 雑念を振り払いつつ、『僕』は命乞いに精を出した。

「と、とりあえずもう一着のほうも……ネ? そっちが本命だからさ」

 里緒奈と恋姫は冷ややかな視線に殺意を含める。

「どーだか。Pクン、今信用が地に落ちてるって自覚、あるぅ?」

「またパンツも穿けない衣装だったら、わかってますよね? どうなるか」

 一方で、菜々留は美香留に指示。

「引き続き美香留ちゃんは美玖ちゃんを確保、ね」

「~~~っ!」

「あーっ! 美玖ちゃんが逃げたあ!」

 妹は逃げようとするものの、その格好で外へ出られるはずもなかった。

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