第253話

 いつの間にやらSHINYとKNIGHTSの間にホットラインが開通していた。

郁乃『なんかあったら、これで連絡くださいデス』

依織『情報漏洩も歓迎するよ。……いや、漏洩するのはこっちか』

 さすが女子高生、こういったツールの活用はお手の物。

里緒奈『おっけ、おっけ! あとはキュートを入れないとねー』

恋姫『キュートは正体を隠したがってるみたいだし、無理強いはできないわ』

美玖『あの子への連絡はミクがやるから』

菜々留『美香留ちゃんはケータイ、大丈夫? 慣れてないんでしょう?』

美香留『もう憶えたってば。写真もこーやってぇー』

 そのメッセージの直後、イケメンすぎるぬいぐるみの写真が割り込んできた。

 もちろん『僕』だ。ほんと、なんてカッコいいんだろう……。

 S女の生徒も三割が『僕』の画像を待ち受けにしているそうだし? この姿は女の子にモテすぎるのが難点だネ。

 そんな『僕』を恋姫が怪訝そうに一瞥する。

「またエッチなこと考えて……いい加減にしてください、P君」

「考えてない! 考えてないよ?」

 反射的に弁明するも、里緒奈にまでぶった切られてしまった。

「それだけ信用がないってことでしょ? Pクンは。可愛い幼馴染みがいて、ライバルのメンバーともちゃっかりデートしてぇ……」

「そうねえ……ナナルも心配だわ。依織ちゃんたちも美香留ちゃんと同じで、Pくんのこと、あまり警戒してないみたいだもの」

 誰よりも『僕』を警戒している妹が、嘆息する。

「ぬいぐるみだから、自由が利きすぎていけないのよ。女子校で遊ぶのは卒業して、人間の姿でプロデュースに専念したら?」

「そーよ、そーよ! Pクン、水泳部でハシャぎたいだけじゃないの」

「うぐっ」

 あれよあれよと旗色が悪くなり、ぬいぐるみの『僕』はたじたじに。

 しかし美香留だけは味方をしてくれる。

「人間の姿でって……おにぃ、こっちもこぉーんなにカッコいいのに? 里緒奈ちゃん、それ、本気で言ってんのぉ?」

「……これが価値観の相違ってやつ?」

 菜々留は頬に手を添えると、思わせぶりに呟いた。

「もしPくんが男の子バージョンでお仕事したら、大変よ? 桃香さんが……」

「「あ」」

 美香留以外の全員が同じ反応をする。

「グラビアアイドルのMOMOKAが……デキ婚で引退……」

「高校卒業と同時にゴールイン……」

 またも内緒話で輪を小さくするので、『僕』は咳払いで仕切りなおした。

「コホン。そろそろお仕事の話をしたいんだけど?」

「じ~っ」

「その視線、やめてくんない? ねえ?」

 年頃の女の子をプロデュースするのは難しいなあ。

 ただ、今回ばかりは勝算があった。相手は女子高生なのだから。

「午後の授業が終わったら、衣装合わせに行くからネ!」

 その一言がメンバーのモチベーションを跳ねあげる。

「ステージ衣装? 新しいのっ?」

「まあ……! 聞いてたより早いんじゃないかしら」

「ファーストアルバムのジャケットにもなるんですよね! P君っ!」

 さっきまでの疑心暗鬼はどこへやら。

 マネージャーの妹が珍しく『僕』のフォローにまわる。

「ステージ衣装に関しては兄さん、抜かりなくやってくれてるわ。ミクもラフでちらっと見たくらいだけど、かなり期待できそうよ。安心して」

「もうっ! 放課後まで待てないってば~!」

 里緒奈は早くも舞いあがり、椅子の上で脚をばたばたさせた。

 女の子にとってファッションは最大の関心事。となれば、新しいステージ衣装は待ちに待ったご褒美というわけだ。

 新メンバーの美香留が不安そうに口を挟む。

「でも……おにぃ、ミカルちゃんの分はあるの?」

「大丈夫だよ。美香留ちゃんのは予定通り、前々から用意してあるし。キュートには美玖の分をまわすからさ」

「どうしてマネージャーの衣装まで発注してあるのよ、まったく……」

「美玖ちゃんにもたくさんファンがいるものね。うふふ」

 いずれ美玖もメンバーに……と想定し、美玖の分もステージ衣装を発注しておいて正解だった。さらに『僕』は嬉しい報せを付け加える。

「そのステージ衣装だけど、実は2パターン用意してあるんだ」

「「きゃ~~~っ!」」

 快哉が反響した。

「それって、王道のアイドル衣装と……ゴスロリとか?」

「パンクスタイルなんてのもありね。ナナルも楽しみになってきちゃったわ」

「和風の衣装っていう線もあるわよ。ほら、お祭り風の……」

 プロデューサーの『僕』としても、メンバーの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

「ちゃんと授業中は勉強するんだぞ? じゃあ放課後は、すぐに直行ってことで」

「はーいっ!」

 朝のうちから『僕』も放課後が待ち遠しかった。

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