第247話
翌日はS女の体育教師として指導に励む。
「マットで柔軟をやるなら、ツイスターゲームだよ! うんうん!」
女子生徒たちは体操着+ブルマという魅惑のスタイルで、くんずほぐれつ。窮屈そうに相方の股座を潜り抜け、一息つく。
「P先生ぇ、ハードすぎ……! ほんと熱心なんだからぁ」
「こっちも手伝ってぇ、P先生? 届かな~い!」
密着したうえで相方と擦れあうせいで、体操着が捲れあがってしまう生徒も。
(ブラジャーが……だっ、だめだぞ? 僕! この間のあれを思い出しちゃ……!)
そう自分に言い聞かせた時には、遅かった。
女子高生の健全なブラジャーが『僕』の目を釘付けにする。
先日のラブメイク・コレクションにて、『僕』の価値観(性的趣向)は修正を迫られつつあるのだ。ランジェリーもアリなんじゃ……と。
だってSHINYのメンバーが、セミヌードで並んだんだぞ?
人数分のムチムチボディーが、『僕』の目の前で谷間を寄せたんだぞ?
おかげで『僕』は夜な夜な悶々と過ごし、そのまま朝を迎えたこともあった。ハッスルのしすぎで眠れないなんて、思春期の中学生じゃないか。
生徒たちは警戒もせずに笑っている。
「ちょっと、ユッコ? ブラ見えちゃってるってー」
「P先生は妖精さんだし、別にいいんじゃない? ねっ、P先生」
ぬいぐるみの『僕』は冷や汗をかいた。
「う、うん……何も問題ないヨ? 僕はこの通り、人畜無害な妖精さんだからネ?」
もし『僕』の正体が先日の変質者(女子用のスクール水着で学校の中をうろついていた変態)と知られたら、どうなることやら。
あの冷たい妹が『僕』のために、苦手なザオリクを唱えてくれるだろうか……。
やがて休み時間になり、『僕』は校舎一階の職員室へ戻る。
そんな『僕』を見つけ、クールビューティー系の教頭が声を掛けてきた。
「P先生、お昼まで授業はありませんよね? お願いしてもよろしいでしょうか」
「あ、はい。何です?」
「それが、急な話なのですが……ケイウォルス学院の生徒が二名、秋以降にうちへ転入するかもしれないと、見学に来てるんです」
教頭が怪訝そうにするのも当然だった。『僕』のほうも呆気に取られる。
「そんな話、ありましたっけ?」
「でしょう? 私にも心当たりがないんですよ。記録のひとつも残ってませんし。……でも、何だか大事なことの気もしまして……ええ」
その言いまわしにピンと来た。
これは認識阻害の魔法だ。ただし精度が低いため、違和感を生じてしまっている。
魔法使いの『僕』で対応するしかないだろう。
「わかりました。僕に任せてください」
「ありがとうございます」
すでに犯人の目星はついていた。
おそらく相手はこちらの世界に不慣れなせいで、認識阻害の齟齬を把握できていない。だとしたら、客人の正体は――。
ブレザー姿の女の子が職員室を覗き込む。
「にっひっひ! イクノちゃんが遊びに来ちゃいましたよー? にぃにぃ」
昨日も会ったKNIGHTSの郁乃と。
その後ろから、もうひとりも申し訳なさそうに顔を出す。
「私は止めたんだけど……。こんにちは、あにくん」
「依織ちゃんまで?」
『僕』は声のボリュームを落としつつ、郁乃と依織を廊下へ連れ出した。休み時間とはいえ、職員室の前は生徒が少ないので助かる。
「何してんの? 易鳥ちゃんは?」
「易鳥ちゃんには内緒デス。今日はイクノちゃんと依織ちゃんだけでー」
「郁乃がSHINYの学校を見に行くって言うから……」
何だかんだで依織は、郁乃が無茶をやらかさないように来てくれたらしい。
とりあえず『僕』はふたりの認識阻害を強化しておくことに。
「そんな認識阻害で、お仕事のほうは大丈夫なの? 心配だなあ……」
「だから、にぃにぃがたまにフォローしてくれてるんでしょ? イクノちゃんは知ってるデス。易鳥ちゃんは気付いてないっぽいデスけど」
「ん。他力本願も悪くないね」
間もなくチャイムが鳴り、次の時限が始まった。
担当の授業がない『僕』は、ふたりを連れて二年生の教室へ。
(里緒奈ちゃんや美香留ちゃんと会わせたら、ややこしいことになりそうだしなあ)
郁乃も依織もケイウォルス学院のブレザーを着ているせいか、お嬢様然とした雰囲気をまとっている。
その割にぺたぺたと足音を立てまくるのが、朗らかな郁乃。案内役の『僕』より三メートルほど先行し、ターンを決める。
「イクノちゃん、今日はライバルのSHINYを徹底調査するつもりで来たんデスよ。SHINYの人気の秘訣、イクノちゃんがお持ち帰りしちゃいますから」
一方、依織は静かな足の運びで『僕』の傍にくっついていた。
「あにくん、ずっとその姿なの?」
「うん。こっちのほうが性に合ってるからね」
正直なところ、『僕』は彼女たちに少し遠慮してしまっている。
確かに『僕』と易鳥は家が隣同士の幼馴染みだ。幼少の頃から何かと一緒におり、手を繋いで学校へ行ったこともある(歳は『僕』のほうが少し上だけど)。
しかし郁乃や依織はあくまで易鳥の友達であって、『僕』と直接的に関わることは少なかった。それこそバレンタインデーに義理チョコをもらうくらいの微妙な距離感で。
悪魔「こいつ、殺していいか?」
天使「天罰は受けるべきだと思うよ。僕も」
天使と悪魔がまた何か騒いでいるのは、無視するとして。
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