第240話
SHINYのメンバーが早足で『僕』のもとへ集まってくる。
「Pクン、Pクン! リオナのこれ、どーお?」
出演者の誰もが下着姿のせいか、すっかり抵抗もなくなったらしい。里緒奈は『僕』の正面で身体を折り、胸の谷間を見せつけてきた。
菜々留も髪をかきあげつつ、たわわなボリュームを揺らす。
「ドキドキしてるんでしょう? Pくん。うふふ、今夜は眠れるのかしら?」
意地っ張りの恋姫さえ、おずおずと身体から両腕を解いた。恥ずかしそうに顔を背けるも、悩殺的なスタイルは『僕』の眼前へ。
「レ、レンキだけ隠すのも……へっ変ですし? ほんと今日だけですよ? P君」
美香留とキュートは相変わらず爆乳で押し合いへし合いだ。
「ちょっとぉ、キュート? ミカルちゃんの邪魔しないで」
「こっちの台詞! んもぉ、出遅れちゃったじゃない」
あどけない表情と豊満なムチムチボディーのギャップが、男心を巧みに刺激する。
それでも『僕』は皆の手前、プロデューサーとして冷静だった。
「お疲れ様。あと……」
一度は彼女たちの艶姿から目を逸らすも、まさか見苦しいはずもない。今度こそ真正面から眺め、正直な感想を吐露する。
「こんなふうに言うのもアレだけど……みんな、似合ってるぞ」
恋姫あたりから『セクハラです!』の一言くらいは飛んでくるものと、覚悟もした。
しかし里緒奈や菜々留、美香留も肩透かしを食ったように唖然とする。
「……Pクン、それだけ?」
「もうちょっと、こう……照れるとか、動揺するとか、ないの?」
「なんかさあ、期待してたのと違うんだけどぉ……」
キュートは不満そうに頬を膨らませた。
「お兄ちゃんっ! 『似合ってる』のほかにもあるでしょ? もっと!」
「え? う、うん……可愛いぞ?」
首を傾げながら、『僕』は感想を付け加える。
「いや、本当だってば。僕にとっては下着も、ビキニと同じってゆーか……ラブメイク・コレクションも、おしゃれとしてランジェリーを扱ってるわけでさ」
言い訳がましくなってしまったが、これは『僕』の本心だ。
「えろいとか、いやらしいっていうんじゃなくて……純粋にその、可愛いと……」
SHINYのメンバーは輪になると、深刻な空気を漂わせた。
「やっぱりお兄様、ブルセラ趣味が行き過ぎて……うん」
「ナナルたちがここまで身体を張ってるのに、あの反応よ? 失礼しちゃうわ」
「頭が痛くなってきたわ……こっちのお兄さんにも困ったものね」
「今はお姉ちゃんだけどねー。はあ……」
「でもでもっ、きゅーと、無関心ってわけじゃないと思うの」
また『僕』がデリカシーのないことでも口走ってしまったのか。
さっきから空気が悪いので、強引に話題を変える。
「あ、そうだ。みんなにも刹那さんを紹介……あれ?」
いつの間にやら有栖川刹那は、向こうで主催者の呉羽陽子と談笑していた。
「っと、僕も呉羽さんにお礼を言ってくるから。みんなは着替えてて」
「ハ~イ」
本日のMVPらしくもない、気の抜けた返事が返ってくる。
「そうそう。その下着、持って帰っていいからね」
「おにぃ、それって……ミカルちゃんたちに着て欲しいってこと?」
「うん? まあ使えばいいんじゃない?」
メンバー全員が溜息を重ねた。
「ハア……」
とりあえず『僕』は生き残った。それでよしとする。
☆
遅くなってしまったので、夕飯はレストランで済ませて。
「お兄様? そのスーツ……」
「僕のほうで美玖に返しておくよ。おやすみー」
寮に帰るや、自分の部屋へ直行。
ひとりになったところでウィッグを外し、レディースのスーツを脱ぎ。
ぬいぐるみの妖精さんに変身するとともに、『僕』はベッドへ飛び込んだ。
(にょふわっふぉお~~~っ!)
心の中で奇声を上げながら、ベッドを右へごろごろ、左へごろごろ。
今まで平静を装っていられたのが信じられない。ぬいぐるみの身体でもドキドキが止まらず、頭がどうにかなりそうだ。
暴れるだけ暴れ、その疲労で動揺を抑え込む。
「はあっ、はあ……まさか、こんなにもブラとパンツに心を乱されるなんて……っ!」
某変態がパンツを頭に被りたがる衝動さえ、今なら理解できる気がした。
有栖川刹那の言う通り、メンバーの下着姿が網膜に焼きついてしまって、離れない。あの魅惑の光景を思い出すたび、『僕』はベッドの上で悶々とする。
情けない話だが、ぬいぐるみに変身できてよかった。
男性の身体だったら、絶対に持て余している。その……オタマジャクシとか。
「と、とにかく明日の朝までに、平常心を取り戻さないと。平常心……」
結局、その夜はろくに眠れず。
夜中に『座禅』や『修行』で検索を掛けるのも、初めてのこと。
「妹だって……美玖や美香留ちゃんだっているのに、ぼ、僕ってやつは~っ!」
梅雨の雨音が悲痛な慟哭を打ち消してくれた。
ご愛読ありがとうございました。
引き続き次回より第4部が始まります。
プロデューサーの幼馴染みが参戦?
しかしプロデューサーはパンツのことで頭がいっぱいに…?
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