第239話

 モードとしての下着姿がランウェイを堂々と闊歩していく。

(すごいなあ……)

 どれも扇情的なデザインだが、『僕』は自分でも驚くくらいムラムラしなかった。

 モデルにもデザインにもファッションとしての矜持を感じるからだろうか。セミヌードは女性を、より女性らしく魅せるもの――そんな呉羽陽子の言葉に納得する。

 また正直な話、『僕』はブラジャーやショーツの類でそれほどムフフな欲求に駆られた経験がなかった。『可愛い』と思っても、『えろい』とは思わない。

(そうなんだよなあ……抱き締めたくなるのは、スクール水着の里緒奈ちゃんや恋姫ちゃんで……ユニゾンヴァルキリーのコスプレもだけど)

 そもそもビキニみたいなものじゃないか。

 むしろビキニより生地に面積あるし。

 撮影も順調のまま中盤を過ぎ、やがてSHINYの出番がまわってきた。『僕』はアイアンメイデンさんを脇にのけ、ランウェイを見守る。

「SHINYのリオナでぇーっす!」

 一番手は里緒奈が深紅のランジェリーで登場した。天井のライトを仰ぎ、抜群のプロポーションに艶めかしい波をつける。

 一歩ごとに巨乳が揺れ、ブラジャーの存在感を強調した。

 二番手の菜々留も黒のランジェリーでランウェイに現れ、里緒奈とすれ違う。

「SHINYのナナルよ。みなさん、ありがとう!」

 メンバーの中でもモデルの仕事が多いだけあって、さすが堂に入っていた。お尻を高い位置で引き締め、歩くたびに自慢の脚線美をアピール。

 女性カメラマンが反射的に力む。

(里緒奈ちゃんと菜々留ちゃんだけで、もう空気が変わったぞ?)

 プロデューサーとして『僕』は確信した。

 やはり先月頃から、メンバーの気構えが違ってきている。仕事の際は大抵『僕』の指示待ちだったものが、今は明らかに自発的・能動的に動いているのだから。

 それだけ確固たる『自信』がついたのだろう。

 おそらく『僕』と、お風呂でニャンニャンすることで――。

(いやいやいや! ……でも、みんな頑張ってくれてるもんなあ……)

 一方で、次の美香留は恥ずかしさと照れを振り切れずにいた。

「ミ、ミカルちゃんですっ! どーもぉ」

 しかしその初々しさが上手い具合に緊張感を和らげ、長時間に及ぶ撮影をリフレッシュさせる。これは僕の狙い通りだ。

 ほかのメンバーに比べると少し筋肉質のプロポーションが、オレンジ色のランジェリーと合わさり、ボーイッシュな魅力を醸し出す。

 それでいて足の運びはたおやかに。

 ロープに跨って歩いた、あの特訓も効果てきめんだ。里緒奈たちにはSMプレイと勘違いされ、危うくボロ雑巾にされるところだったが。

 続いて恋姫がランウェイへ進む。

「SHINYのレンキです。よろしくお願いします」

 セミヌードの撮影に抵抗していた素振りなど、欠片もなかった。誇らしげに胸を張り、妖艶な紫色のランジェリーをも悠々と着こなしている。

 過ぎるも欠くもない、女性にとっても理想的なボディラインが光を弾いた。

 ただ、不自然なまでの決め顔が、かえって内面をありありと物語る。

(ぎゃああああああ! ……とか思ってるんだろーなあ)

 あとで八つ当たりされないように気をつけないと、『僕』が死ぬ(殺される)。

 それでも恋姫は立派に役目を果たし、最後のキュートにバトンタッチした。

 キュートが少し前屈みになり、仮面の上から瞳を覗かせる。

「えへへっ! きゅーとの番だね」

 純白のブラジャーが爆乳もろとも弾んだ。ショーツも下着としては危なっかしい色合いで、清純さの中に小悪魔的な挑発を見え隠れさせる。

 あの豊満なスタイルを抱き締めたことがある――それだけで胸が熱くなってしまった。

(いっ、妹だぞ? 美玖は……)

 そう自分に言い聞かせるものの、妹の蠱惑的な姿から目が離せない。

 これまで里緒奈、菜々留、美香留、恋姫と来て……よりによって、最後の妹で興奮しているかもしれない、それが『僕』。

(美玖は一体、僕とどうなりたいんだろ……?)

 正体を偽るためのアイマスクも、セミヌードに意味深な魅力を加味していた。

 SHINYの登場を経て、ラブメイク・コレクションは佳境を迎える。

 『僕』の隣で、あの有栖川刹那もステージに見入っていた。

「すごいわね。あなた」

「僕じゃなくて、SHINYのみんながすごいんだよ」

「そういう謙遜が自然に出てくる部分も含めて。あなたの力だと思うわ」

 まさかのトップアイドルに褒められ、『僕』は恐縮する。

 改めて刹那は、眩いほどのステージを眺めた。

「あなた、今日は自分の性別を誤魔化す以外に、魔法を使ってないんでしょう? それでもSHINYは実力を自由に出しきり、断トツで輝いてる」

「自由に……」

 そのフレーズにこそ『僕』は息を飲む。

 確かにSHINYをプロデュースしているのは『僕』だ。里緒奈や恋姫は『僕』の指示に従って、練習し、仕事を受ける。

 それこそセミヌードの撮影など、散々に嫌がられたわけで。

 かといって、仕事の間だけプロを気取るのでもない。

「みんなの成長に、僕もちょっとは貢献できた……ってとこかな」

「でしょうね。ふふっ、来週が楽しみだわ」

 かくしてラブメイク・コレクションは大成功に終わった。

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