第234話

 夕飯は里緒奈お手製のポークジンジャーを堪能する。

「えっ? 里緒奈ちゃんってお料理できるのぉ?」

「寮生活で練習したんだから。美香留ちゃんも当番の日は頑張ってねー」

「ちゃんとナナルたちで教えるわ。安心してね、美香留ちゃん」

 美香留とのデートについては結局、誰も聞いてこなかった。どうやら徹底的に『僕』たちをマークし、一部始終を目撃したらしい。

 もちろん浮気の前科があるだけに、『尾行はだめだぞ』と注意できるはずもなく。

 食事のあとは女の子がひとりずつ入浴を済ませて、最後は『僕』となった。

「レンキたちが浸かったからって、飲まないでくださいね? お湯」

「そのあたりのことは一度、話し合うべきだと思うんだ」

 相変わらず辛辣な恋姫の一言を背に、寮のお風呂へ。

(ちょっと前まで、みんなと同じお風呂使うの、遠慮してたんだっけ……)

 『僕』だけ男子のため、以前はS女のプールにあるシャワーで簡単に済ませることも多かった。しかしメンバーに『僕』の正体が人間の男性と知られてからは、寮のお風呂を使わせてもらっている。

『むしろ男性が女子校のシャワーを使ってることに、もっと疑問を持ってください』

 こればかりは恋姫の言う通りだ。

 お風呂にて、『僕』はぬいぐるみの姿で一服する。

「ふう~っ」

 この姿は『僕』なりに考えがあってのもの。

 美香留との入浴は何も今夜が初めてではなかった。妖精さんと一緒に――それを言い訳もとい理由にして、グラビアアイドルの桃香ともよく一緒に入っていたわけで。

(相手は水着を着てるんだし。昔みたいにお風呂くらい、どうってこと……)

 しばらくして、約束通り美香留が脱衣所へ忍び込んでくる。

「おにぃ? いるぅー?」

「うん、いるよ」

 ガラス戸の向こうで、美香留のシルエットがシャツを脱ぎ、ズボンを降ろした。しかし下着を剥がす動きはないまま、おもむろに戸を開け、こちらへ入ってくる。

「えへへ……おにぃ、お・ま・た・せ」

 スクール水着(授業用)が豊満なプロポーションを窮屈そうに引き締めていた。

 幼い顔つきとは裏腹に、美香留の胸は量感たっぷりのボリュームで、紺色のスクール水着を圧迫。フトモモも付け根をレッグホールで搾り、濃厚なむっちり感を漂わせる。

 ここで選択肢が出現した。 


     <美香留を抱き締める>

     <美香留を抱き締める>

     <美香留を抱き締める>


 わざわざ分けてセーブしておく必要もなしか。

 しかしぬいぐるみの『僕』は落ち着き払って、三択の全部を一蹴した。

「美香留ちゃんも遠慮しないで、入っておいでよ。この広さだし」

 先日の改装もあって、寮のお風呂には余裕で寝転べるくらいのスペースがある。湯舟も銭湯に引けを取らないサイズだ。

 ところが美香留は不満げに眉を吊りあげ、『僕』を責める。

「どうして妖精さんなの? おにぃ。男の子になってくんなきゃ、意味ないじゃん」

「……え? あのぉ、美香留さん……?」

「早く変身解いてってば。ミカルちゃん、男の子のおにぃと洗いっこしたいの」

 もうもうと湯気が立ち込める中、『僕』は眩暈を覚えた。

(えーと……つまり? 美香留ちゃんも僕とソーププレイを……?)

 この純真無垢な妹に、一体誰がソーププレイなんぞを吹き込んだというのか。

 ぺったんこの母親か。いや、先日の『僕』か……。

 ただ、健全な妹は『僕』の不健全をいくらか払拭してくれる。

「女の子に背中流してもらえるくらいで、そんなにキョドんなくてもぉ。おにぃ、なんか勘違いしてない?」

「いっ、いやいやいや! 勘違いなんてしてナイヨー」

 声を裏返しながら、『僕』は辛くも平静を装った。

 美香留は本当に『背中を流しに来た』だけ。『僕』の上に乗っかって、ソープまみれのスクール水着を擦りつけるなど、間違ってもするわけがないのだから。

 『僕』はお湯の中で変身を解き、美香留を迎え入れた。

「じ、じゃあ……どうぞ。でもあんまり下は見ないでくれると、その……」

「ちょっ、おにぃ? わざわざ言わなくっても……」

 素っ裸の『僕』に美香留のほうが緊張しつつ、ゆっくりとお湯に身体を沈めてくる。

「もっとそっち行っていい? おにぃ」

「う、うん」

 厳密にはイトコとはいえ、兄妹だからこそ許されるスキンシップかもしれない。

 けれども『僕』たちのバスタイムは、一分としないうちに奪われた。

「お兄ちゃんっ!」

 実妹がお風呂に躍り込んできて、怒号を反響させる。

 まさかのキュートの乱入には『僕』も美香留も狼狽した。

「キュート? な、なんでここに……」

「そ、そーよ! せっかくおにぃとラブラブできるチャンスだったのにぃ~」

 キュートは怒り心頭にスクール水着(授業用)で踏ん反り返り、巨乳を揺らす。

「きゅーとの目は誤魔化せないんだからね? この間はきゅーととお兄ちゃんのお風呂を邪魔しておいてぇ……きゅーとを出し抜こうって魂胆でしょ!」

 対する美香留もヒートアップしてしまった。

「はあ~? 先に出し抜いたのは、そっちじゃん!」

「ふんだっ、お尻相撲で負けたくせに。のーぱん」

(その勝負はキュートじゃなくて美玖がしたんだぞー?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る