第225話
とはいえ、プロデューサーの『僕』には勝算があった。
(アニメファンの心を掴むなら、やっぱりコスプレだよね。それも完璧にキャラになりきるような……頼りにしてるぞ! 美玖)
アイドルのステージには当然、歌唱力やリズム感といった諸々の技術が要求される。
しかし今回、『僕』は何よりも『アニメへの愛の深さ』を大事にしたかった。
『ユニゾンヴァルキリー』が別段好きでもない女の子が、いくら再現度の高い衣装を着たところで、それは自惚れめいた力の誇示にしかならない。
だからこそ『ユニゾンヴァルキリー』が好きでたまらない美玖のコスプレなら、多少ぎこちないものになってしまっても、ファンは必ず共感してくれるはず。
アニメのイベントなのだからアニメのファンを尊重する――それが『僕』の采配だ。
その一方で、『僕』は今日ここでSHINYの新メンバーを世間に発表する腹積もりでもいた。SHINY側のスタンドプレーになるのでは、という危惧はある。
(ここまで来たんだ。みんなを信じるしかないか)
現場のスタッフと入念に打ち合わせをしてから、『僕』もSHINYの控え室へ。
「みんなー! 準備はでき、ふぇぶっ?」
「だからノックしてくださいって、言ってるじゃないですか!」
いくら何でもアイドルがパイプ椅子を凶器にするのはどうだろうか。ぬいぐるみの『僕』は廊下の床と壁と天井でバウンドし、控え室の扉にびたんと張りつく。
「うぐぅ……ま、まだ何も見てないのに……」
「もう少し待っててね? Pくん」
しばらくして、控え室の中から扉が開かれた。
「お、おにぃ? いいよ……入ってきても」
(なんか今の、エッチな感じに聞こえ……いやいやいや!)
雑念を振り払いつつ、『僕』は見目麗しい聖装少女たちと対面する。
人数分の純白のスクール水着が照り返った。ステージ衣装でもあるため、生地に若干のラメ加工が施されているのだろう。
里緒奈が自ら『僕』にコスプレぶりを披露する。
「どーお? Pクン。抱き締めたくなっちゃわない?」
変身ヒロインさながらの凛々しい姿が、『僕』の目を釘付けにした。
衣装の完成度は言うに及ばず、豊満なプロポーションもお色気アニメを忠実に再現。たわわな巨乳がスクール水着を圧迫し、罪作りなムチムチ感を引き立てる。
同じ美少女戦士の格好で、菜々留が恋姫の背中を押した。
「ほらほら、恋姫ちゃんもPくんに観てもらわなくっちゃ。ね?」
「レ、レンキは別に……P君? こ、こっち見ないでくださいってば!」
恥ずかしがる恋姫も、その後ろで微笑む菜々留も、生唾モノのスタイルで。
スクール水着のレッグホールからむっちりと食み出す肉感的なフトモモが、その柔らかさを『僕』に思い出させる。
(あんなところに顔を挟んだりして、僕ってやつは……いやいやいや!)
なまじ彼女たちと『経験』があるだけに、ムラムラを抑えきれる自信はなかった。
新たな聖装少女、ユニゾンダイヤも『僕』の前に出てくる。
「おにぃ、おにぃ! ミカルちゃんも可愛い?」
いつもの敬礼のポーズで、美香留が朗らかに笑った。
無邪気で幼い顔つきと、それを裏切るようなワガママボディーのギャップが、『僕』の男心を巧みに刺激する。
「似合ってるよ、美香留ちゃんも! これで聖装少女は全員集合だね。……ん?」
全員集合――そのはずが、肝心のユニゾンジュエルが見当たらなかった。
と思いきや、ジュエル(美玖)は控え室の隅っこで蹲っている。
「ミクが……ミクが、ユニゾンジュエルそのものに……! あとはナナノナナ様に声を当てていただけたら、くふっ、くふふふ!」
(そ、そっとしておこう……)
里緒奈たちも『僕』と同じ判断をしたに違いない。
けれども美玖の暴走はまだまだ序章に過ぎなかった。お次は瞳をきらきらさせて、興奮気味にメンバーのコスプレを物色する。
「里緒奈っ! 変身完了のポーズ、してみて!」
「え? ええっと……」
「こうよ、こう! んもう、昨夜だって教えたじゃないの」
昨晩メンバーにポーズのイロハを指導したのは、美玖ではなくキュートなのだが。
何かと美香留とはウマの合わない妹も、ユニゾンダイヤの再現度には納得する。
「ついにダイヤも合流ね! はあ……ミク、し・あ・わ・せ……!」
「お、おにぃ! この美玖ちゃん、なんか怖い~!」
「僕には止められないだ。ごめん……」
仕事中は私用で撮影禁止にもかかわらず、とうとう美玖は自前のケータイで好き放題に写真を撮り始めてしまった。
「恋姫もこっち来なさいったら! 集合!」
「ま、待って? こんな格好……」
「恥ずかしがってちゃだめよ? 恋姫ちゃん。うふふ」
「あとで恥ずかしいのは美玖ちゃんだし、割り切っちゃえば?」
「えっ? ミカルちゃんも一緒に撮るのぉ?」
今回のところは『僕』も見なかったことにする。
そんな中、ユニゾンチャームの菜々留が美玖のケータイに目を留めた。
「……あら? 美玖ちゃんのそれ、キュートちゃんのと同じやつじゃない?」
「エッ?」
何のことやらと美玖は首を傾げる。
一方、『僕』は菜々留の指摘に肝を冷やした。
(ケータイだって、美玖! ケータイ!)
何しろ美玖のケータイは、キュートのものとまったく同じ。ストラップまで同一で、今まさに『美玖=キュート』の等式が成り立ってしまったのだから。
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