第222話
その夜は自室で打ち合わせを進め、一段落。
「美香留ちゃんのレッスンも上々だし、あとは場数を踏めば……」
今後の予定を立てながら、『僕』はお風呂で一服する。
「……やれやれ。こんなハードスケジュールじゃ、僕のほうが参っちゃうな」
魔法を完全に切りたいので、変身も解除した。
こうして『魔法を使わない』分には、マギシュヴェルトからお咎めもない。『僕』は肩まで浸かり、まったりとお風呂を満喫する。
おかげで頭もよく働いた。
(アルバム用の新曲も練習しないとなあ……この週末もまた仕事だから、どこかでみんなに休日を工面してあげないと)
などと考え事がなまじ捗るせいで、危機が迫っていることを忘れる。
それを思い出したのは、脱衣所に誰かが入ってきたあとだった。
「お・に・い・ちゃ・んっ」
「み――キュート?」
『僕』は顎が外れそうなくらい驚き、狼狽する。
里緒奈、菜々留、恋姫と来れば、次にキュートが迫ってくるのも必然だった。今にも妹のシルエットが仕切り戸を開けようとしている。
「まま、待って? キュート! こっちは裸で……」
「お風呂だもんね。平気だよ? きゅーとは」
「キュートはよくても、僕が!」
せめて洗面器で股間だけでも隠そうか(←シャイPは動揺している)。
いや、ここはお湯の中に留まるべきだろう(←シャイPは少し冷静になった)。
直前でそう判断し、『僕』は湯舟に肩まで突っ込む。
一拍の間を置いて、キュートが嬉しそうに風呂場へ飛び込んできた。紺色のスクール水着(授業用)でムチムチボディーを引き締め、爆乳を揺らしながら。
アイマスク越しにあどけない笑みが弾む。
「お兄ちゃん! 今夜はキュートがお背中、流してあげるねっ」
「えええっ? で、でも……」
一方で『僕』は躊躇するほかなかった。
連日のように教え子たちとお風呂でイチャイチャしているとはいえ、相手が実の妹となっては尻込みもする。
(だからって、里緒奈ちゃんや菜々留ちゃんはカモンってわけじゃないけど……)
しかし兄の都合など意に介さず、同じ湯舟に身体を沈めてくる、可愛い妹。
「きゅーと、知ってるんだからね? 一昨日も昨日も、お兄ちゃん、菜々留ちゃんや恋姫ちゃんとお風呂で……洗いっこ、してたの」
「ぎっくう!」
図星を突かれたことと、妹に迫られることの両方で、『僕』は心臓を跳ねあがらせた。お湯に浸かっているせいか、頭に熱もまわる。
「だ、だからって、キュートまでこんな……ちょ、ちょっと待って?」
押しのけようにも、水着姿の妹に触れるに触れられない。
小悪魔系のキュートはそんな『僕』を翻弄しつつ、背中でもたれ掛かってきた。スクール水着越しに妹の柔らかさが伝わってきて――『僕』は思わず生唾を飲み込む。
ごくり、と。
爆乳はお湯にぷかぷかと浮いていた。キュートが肩越しに振り向くせいで、アイマスクの隙間から『美玖』の顔つきが少しだけ覗け、ドキドキさせられる。
「わ……わかったから! とにかく離れて……ね?」
それでも抵抗を続ける『僕』に、キュートが冷ややかな視線で釘を刺した。
「あっれえ? いいのかなあ……きゅーとにそんな態度でぇ……」
「……っ!」
お風呂の中にいるはずなのに、寒気がする。
妹のそれが脅迫だということを、『僕』は即座に理解した。
この妹が嫉妬に燃え、S女のど真中で『僕』を素っ裸にしたことは記憶に新しかった。『僕』の魔法は妹の『魔法封じ』一発で、いつでもどこでも完全に沈黙する。
究極の魔法とは、大爆発でもなければ、分子レベルの分解でもなかった。まさしく魔法封じ(サイレス)こそが、それに該当するのだから。
「きゅーとが言ってる意味、わかるよね? お兄ちゃん」
「……ハイ」
ここで下手に逆らえば、『僕』はまたS女で丸裸にされる恐れがあった。
今夜のところは妹に満足してもらうしかない。
たとえその手段が、くんずほぐれつのソーププレイであっても――。
「ほらぁ、お兄ちゃん? ぎゅってして?」
「う、うん……じゃあ」
曖昧に答えつつ、『僕』はスクール水着の妹を抱き締める。
乱れがちな息遣いをひた隠しにしながら、壊れ物でも扱うかのように慎重に。
(どどっ、どうしよう? ほんとに僕、美玖と……?)
ぬいぐるみの姿でやり過ごすことも、許されそうになかった。すでに浴室は魔法封じの影響化にあり、変身できない。
キュートがお湯の中で腰を捻り、『僕』にお尻を擦りつけてくる。
「お兄ちゃんもきゅーとを抱っこするの、気持ちいいでしょ? これからもっと、も~っと気持ちよくしてあげるね? えへへっ」
「き、気持ちよく……」
のぼせているせいもあって、妹の甘い囁きが暗示めいて聞こえた。
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