第220話

 次の夜も『僕』はお風呂で菜々留に迫られて。

「前からだなんて……大胆すぎるよ? 菜々留ちゃん」

「だってぇ、お兄たまの気持ちよさそうな顔、見てたいんだもの」

 濃厚なソーププレイのあとは、湯舟で一緒に寛ぐ。スクール水着の菜々留は裸の『僕』を背もたれにして、溜息をついた。

「上がるまで、ぎゅっとしててね? お兄たま」

「う、うん……」

 菜々留の柔らかな感触は、動かずとも『僕』を翻弄する。

(このおっぱいが、さっきまで僕の上を転がったりしてたんだよなあ……)

 おかげで今夜も眠れそうになかった。

 とはいえ、ぎりぎり一線を超えていないのは事実。

 そう『僕』は自分に言い訳しつつ、華奢な菜々留をしっかりと抱き締めなおす。

「お兄たまとこうしてると、ナナルも気持ちいいわ……うふふ」

「そ、そっか。菜々留ちゃんが喜んでくれるなら」

 頭の中ではまたも天使と悪魔が争っていた。


   悪魔「ファンに対する背信行為ってやつじゃねえの? こいつはよォ」

   天使「し、しかし可愛い菜々留ちゃんを拒絶するわけには……」


 天使と悪魔の台詞が逆の気がする。

 それくらい頭では葛藤しているにもかかわらず、里緒奈や菜々留を我が物に抱き締めてしまうのが、プロデューサーの『僕』だった。


   僕「だって、こんなにも気持ちいいんだぞ?」

   天使&悪魔「こいつ最低だー!」


 求めているのは、あくまで彼女たちのほう。

 順番も彼女たちが合意のうえで決めているのだから。

 ……これも言い訳がましいか。


                  ☆


 そんな数々の言い訳も、連日となっては麻痺してくる。

「動かないでって、あれほど言ったじゃないですか!」

 さらに次の夜は恋姫と一緒にバスタイム。

 ソーププレイの最中に不可抗力(そう不可抗力だ)で触ったり撫でたり揉んだりしてしまったことで、恋姫は真っ赤になるまで怒っていた。

 それでもスクール水着の格好で、『僕』に背中を預けてくる。

「ごめん、ごめん。その……恋姫ちゃんが可愛くって、つい」

「~~~っ!」

 恋姫はいっそう赤面するも、ばつが悪そうに呟いた。

「し、信じられません。菜々留や里緒奈にも同じこと言ってるんでしょう? 君が一番だよとか、今夜は君しか見えないとか、あ、甘い言葉ばかり……ごにょごにょ」

「恋姫ちゃんは少女漫画の読みすぎだと思うんだ」

「ご、誤魔化さないでくださいっ!」

 ちなみに『一番だよ』も『君しか見えない』も言ったことがない。

 お詫びのつもりで『僕』は恋姫の耳たぶを優しく噛んだ。

「これで許してよ。恋姫ちゃん」

「……ゆ、許します……」

 こんなことをしているから、夜な夜な自己嫌悪で悶絶する羽目になる。


                  ☆


 その甲斐あってか、里緒奈たちの活躍は一段と輝きを増した。

 本日は放課後すぐにシャイニー号を飛ばしての、遠方でのサイン会。ファンは本物のSHINYを前に感激し、興奮を露にする。

「応援してるよ、里緒奈ちゃん! 次の新曲も楽しみにしてるからさ」

「えへへ。ありがと~!」

「こっちでライブする時は絶対、駆けつけるよ! 菜々留ちゃん」

「うふふっ。嬉しいわ、いつもありがとうね」

「れ、恋姫ちゃん! 罵ってください! ……ハァハァ」

「何を言ってるか、わからないわ……」

 『僕』は認識阻害のオンとオフを切り替えたくらいで、魔法は一切使っていなかった。里緒奈たちは自分の力で『アイドルの魔法』を手に入れつつある。

(僕がメンバーと連日お風呂で……なんて知れたら、殺されるんだろーけど)

 ただ、『僕』にはひとつ心当たりもあった。

 ひょっとしたら例のニャンニャンで、彼女たちは『僕』の魔力を得たのでは? それを無意識のうちに発動させて、アイドル活動に運気をもたらす。

 突拍子のない仮説とはいえ、可能性はあった。


   天使「つまりSで始まるEXをすれば、魔法使いができると?」

   悪魔「んまぁ、子どもは魔法使いになるんじゃねえの?」


 こいつらの意見を参考にするのは、もうやめることにする。

 本日のサイン会では当然、SHINYの新メンバーとなるキュートの前でも、ファンが長蛇の列を成していた。

「キュートちゃんって実物はこんなに可愛いんだね!」

「でっしょー? これからも応援してね」

 ほかのメンバーに比べて、ややあざとい印象があるものの、そこがまたキュートの魅力らしい。中には同じアイマスクを付け、握手に来てくれる女性ファンも。

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