第212話

 兄としてもプロデューサーとしても『僕』がフォローに入る。

「まあまあ。ひとの趣味が何であれ、バカにするのはだめだよ、美香留ちゃん。SHINYのファンに向かって『アイドルオタク』なんて言っちゃいけないのと同じで」

 やや説教くさくなってしまったものの、美香留は素直に頷いた。

「ご……ごめんなさい、おにぃ」

「いや、いいんだよ。わかってくれればさ」

 妹を庇うために従妹を槍玉に挙げている気がして、『僕』もトーンを落とす。

 そんな空気の中、美香留はあえて『僕』に問いかけてきた。

「おにぃ、教えて。おにぃはどうしてアイドルをプロデユースしようって思ったの? 修行ってだけなら、もっと簡単な方法もあったっしょ?」

 里緒奈や恋姫も便乗してくる。

「そういえば、ちゃんと聞いたことなかったかも」

「レンキも興味あります。スケベ心や下心じゃないのなら……」

「恋姫ちゃん? Pくんのこと、もう少し信用してあげて?」

 いつだって菜々留だけは『僕』の味方だ。怒らせると一番怖いし恐ろしいけど。

 『僕』はお膳の上に立ち、SHINYのメンバーに語り聞かせた。

「こっちの世界で修行することになって、色々見てまわってた時のことなんだ。あるアイドル歌手のコンサートで……すごく、すーっごく感動しちゃってさ」

 あのコンサートは今でもはっきりと憶えている。

「アイドルって誰のこと?」

「観音玲美子。みねみー、知ってるでしょ」

 SHINYと同じマーベラス芸能プロダクションの所属で、国民的スーパーアイドルと称される、観音玲美子(みねれみこ)。

 彼女のライブを目の当たりにして、『僕』は心を突き動かされてしまった。

 煌びやかなステージ、響き渡る美声、そしてファンの声援――。

 あのすべてが『僕』にとって、

「魔法みたいに思えたんだよ。本物の」

 ほかに相応しい言葉は浮かばなかった。

 曲がりなりにも魔法使いの『僕』が、まさに魔法のように感じたコンサート。

「正直な話、修行のことは二の次で……僕もこんなふうに、みんなを幸せにする魔法が使えたら、って……だからプロデュースをやってみようと思ったんだ」

 こうして口にすることで、むしろ『僕』自身が確信する。

 観音玲美子のコンサートが出発点だったのだ、と。

 里緒奈の瞳がきらりと揺れた。

「Pクンの目標は観音玲美子さんなのね」

「うん。僕なんかが目指しちゃ、おこがましいかもしれないけど」

 菜々留も同じまなざしで『僕』を見詰め、にっこりと微笑む。

「じゃあ、いつか……ナナルたちにも素敵な魔法が使えるってことかしら」

「P君が急に真面目なこと言い出すから……も、もう」

 一方で恋姫は照れ隠しで意地を張るも、否定はせずにいてくれた。

 マネージャーの美玖が淡々と締め括る。

「……だそうよ? 美香留」

 そんな妹の態度に、美香留は困惑の色を浮かべた。

「へ? 美玖はおにぃの決意表明に、なんかないわけ?」

「もっと不純な動機だとばかり思ってたから、見直しはしたわよ? 多少は」

「そ、それよ、美玖! レンキが言いたかったのは」

 恋姫の主張はさておき、『僕』とてこれを美談にするつもりはなかった。ぬいぐるみの身体で手を鳴らし、メンバーを鼓舞する。

「さあさあ! みんなも夏のアイフェス、目指すんでしょ? だったら、できることは全部やってやるくらいの意気込みでなくっちゃネ! アイドル活動も、学校の宿題も」

「宿題は余計~」

「里緒奈ちゃんも頑張りましょう? もちろん美香留ちゃんも一緒に、ね」

「ミカルちゃん、ますますヤル気出てきたかもっ!」

「あなたも自習くらいしておきなさいよ? 転入するんでしょ」

 メンバーのモチベーションは上々。

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