第208話

「いやいやいやいや」

 と、『僕』と里緒奈のツッコミが重なる。

「菜々留ちゃんもキュートも、そんなの弾けないぞ?」

「リオナもいきなりドラムとか、無理だと思うんだけどー?」

 ばつが悪そうに恋姫は小声で反論。

「レ、レンキはピアノを習ってましたので」

「恋姫ちゃんはね。美香留ちゃん、今のはどう? やってみたい?」

「ないない」

 かくして恋姫の案もボツとなった。そりゃそうだ。

 美香留が口を尖らせる。

「つーかさあ……さっきのイメージの中にいたプロデューサー、プリメの写真のひとじゃん? おにぃを差し置いてプロデューサーとか、何言っちゃってんの?」

「それは……その」

 ほかの4人は狭そうな円陣を組むと、何やら内緒話を始めた。

「美香留ちゃんには秘密にしといたほうが……」

「こっちのPくんに夢中になってもらうべきね。……ええ、その方向で」

「P君にはレンキが釘を刺してくわ」

「恋姫ちゃん? なんか露骨にアプローチ絡めてない?」

 ますます美香留は孤立し、『僕』に縋りつく。

「おにぃ~!」

「よしよし……。みんな、だめじゃないか。新メンバーをないがしろにしちゃ」

「いえ、ボーカル担当ですし……主役に据えたつもりだったんですが」

 プロデューサーの『僕』は心の中で嘆息、そして反省した。

 確かにSHINYのメンバーは数多の才能に恵まれた、未来のトップアイドルだ。ただしそれはアイドルとしてであって、営業戦略に通じているわけではない。

 新メンバーをどう売り出すかは、プロデューサーの『僕』、ないしマネージャーの美玖が決めるべきこと。

「み……キュートは何か意見ないの?」

「ちょっと、Pクン? なんでリオナを飛ばしちゃうわけ?」

「え? 里緒奈ちゃんにもアイデアあるの?」

「……ないけど」

 里緒奈が名誉ある不戦敗を喫したところで、キュートが立ちあがった。

「みんな、難しく考えすぎっ。新メンバーを出すなら、打ってつけの企画があるでしょ」

「……世界制服?」

「ラブメイク・コレクション?」

「じゃなくてっ! 衣装もひとつ余ってるやつで!」

 もとより『僕』もそれを候補に考えてはいた。

 ほかに代案がないことはわかったので、キュートに代わって結論を出す。

「ユニゾンヴァルキリーのコスプレ企画だね。ユニゾンダイヤの枠が残ってるから」

「……あっ!」

 SHINYはこのたび、巷で大人気のアニメ『聖装少女ユニゾンヴァルキリー』の宣伝部長に選ばれたばかりだった。

 ちょっぴり際どいコスチュームで華麗に戦う、変身ヒロインもの。先日もイベントでSHINYのコスプレが好評を博し、大いに期待を寄せられている。

 しかも原作アニメは二期の製作発表に続き、劇場版の公開も決定していた。これに便乗すれば、アニメファンも取り込めるだろう。

 ただ、アニメのヒロインは5人に対し、SHINYはひとり人数が足りなかった。

 新メンバーの美香留を加入させるなら、この枠を使わない手はない。

 『僕』はキュートと頷きあって、方針を固める。

「それじゃあ、ユニゾンダイヤは美香留ちゃんに演じてもらうってことで……」

「ナナルたちに異論はないわ。一緒に頑張りましょうね、美香留ちゃん」

「さっきのサブリミナル発言、忘れてないかんねー?」

 ちなみに配役はこの通り。


     頑張り屋のユニゾンカラット:里緒奈

     友達思いのユニゾンジュエル:美玖

     お調子者のユニゾンチャーム:菜々留

     自信家のユニゾンブライト:恋姫

     ボーイッシュなユニゾンダイヤ:美香留


 5人がコスプレで揃うのを想像するだけで、『僕』の胸も熱くなった。

 何を隠そう、『僕』も変身ヒロインや魔法少女が大好きだったりする。特撮やロボットのことはぶっちゃけ、わからないのだが。

「この企画で菜々留ちゃんや恋姫ちゃんにも、コスプレの抵抗をなくしてもらって……クリミナリッターのコスプレもさせてみたいなあ~」

「Pクン? 頭の中身が駄々洩れになってるの、自覚してる?」

 コスプレ企画で一喜一憂するメンバーを眺め、菜々留は不思議そうに呟いた。

「でもキュートちゃんはいいの? ユニゾンジュエルが美玖ちゃんで」

「「ギクッ」」

 『僕』もキュートも反射的に肩を強張らせる。

 いくら美玖が『ユニゾンヴァルキリー』の大ファンとはいえ、毎回のようにキュートがマネージャーに出番を譲っていては、疑われかねない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る