第198話

 SHINYの里緒奈たちも本日は部員として、水泳部の練習に参加した。

「ラブメイク・コレクションに出るんだから、ラインを引き締めておかないとねー」

「ナナルは胸が心配だわ……美玖ちゃんの影響で、まだ成長してるんだもの」

「美玖の影響……レンキまで納得しそうになったじゃないの。もう」

 魅惑の巨乳がスクール水着を圧迫している。

 単に大きいだけではなく、張りがあることも『僕』は知っていた。お風呂でニャンニャンした際、不可抗力(あくまで不可抗力)でスクール水着越しに触れたことが――。

「喋ってないで、準備運動は念入りにね」

 妹の美玖も爆乳を逸らしつつ、身体を伸びきらせる。

「……ん?」

 そこで『僕』ははたと気付いた。

 おっぱい要員がひとり多いような。美玖、里緒奈、菜々留、恋姫で4人のはずが、プールサイドに5人いるのだ。

 5人目のおっぱいJKが敬礼のポーズで、『僕』にウインク。

「やっほー、おにぃ! ミカルちゃん、参上ぉ~!」

 『僕』と美玖の声が重なった。

「「美香留?」ちゃんっ?」

 水泳部の皆も突然の新入部員に驚く。

「あれ? あんな子、さっきまでいた?」

「美玖たちの関係者……よね? 胸のサイズ的に」

 里緒奈は前屈みの巨乳で対抗しつつ、まじまじと彼女の顔立ちを眺めた。

「どこかで会ったことあるような気も……誰なの? Pクン」

「多分、小さい頃に会ってるんだと思うよ。僕たちのイトコなんだ」

 思い出したように菜々留が手を鳴らす。

「ああ、美玖ちゃんのイトコの美香留ちゃんね! 美玖ちゃんとナナルと同じ字が入ってるって、話したのを憶えてるわ」

「確かお正月にP君のお家で……もう三年ぶりになるんじゃないですか?」

 恋姫も歩み出て、美香留を迎えた。

「ミカルちゃんは憶えてるぞ~。菜々留ちゃんと、恋姫ちゃんと、里緒奈ちゃん! SHINYもどんどん有名になってきてるもんね」

 今になって『僕』も思い出す。

(出てきちゃったかあ……)

 そもそもSHINYの新メンバーとして加わるのは、この美香留の予定だった。

 ところがキュート(美玖)が先に枠を埋めてしまい、出るに出られず。参入は少し遅らせる方向で検討していたものの、本人は我慢ならなかったのだろう。

 美香留が頬をぷくっと膨らませる。

「おにぃってば、酷くない? ミカルちゃんをSHINYに入れるとか言ってぇ、あの子……キュート? キュートを発表しちゃってさあ」

「あ、あれは……ごめん」

「お詫びにミカルちゃんを高級ディナー! 連れてってよね? お・に・ぃ」

 昔からイトコの美香留は、妹の美玖より『僕』に懐いていた。『僕』にとってはそれこそ本当の『妹』と呼べるほどに。

 美玖が面白くなさそうに割り込む。

「ちゃんと秋には合流させるって、連絡したでしょ? 美香留」

「夏が終わってからなんて、待てないに決まってるじゃん! おにぃの妹だからって、いつもミカルちゃんの邪魔ばっかりして~」

「別に邪魔してるわけじゃ……」

 プールサイドにて、ふたりの妹が火花を散らした。イトコ同士の再会にしては険悪なムードに、水泳部の部員たちは口を噤む。

(キュート……いや美玖は、わかってて抜け駆けしたってことか?)

 美香留は美玖から顔を背けると、ぬいぐるみの『僕』を抱きかかえた。

「ふんだっ。おにぃはミカルちゃんのなんだからね?」

 三方向からの視線が一気に冷たくなる。

「へえ~? お兄様ったらぁ美玖ちゃんのほかにも、こぉーんなに可愛い妹がねえ……」

「あらあら、お兄たま……ナナル、ちょっぴりご機嫌斜めかもしれないわ」

「イトコはオーケーだからって、手を出したりしたんじゃないですか? お兄さん」

「ちょ、ちょっと! 僕だけアウェイにしないで!」

 そんな空気も意に介さず、美香留はぬいぐるみの『僕』に頬擦り。

「おにぃのためにミカルちゃん、頑張るね! はあ……ほんと素敵、カッコいい~っ!」

 プールサイドにいる全員が疑問符をひとつにした。

「……は?」

 誰よりも兄想いの妹(イトコ)が力説する。

「だって、だって! そうっしょ? 伝説の勇者にそっくりでぇ、魔法も使えちゃうんだから。おにぃはね、ミカルちゃんのヒーローなの!」

 恋姫が口の端を引き攣らせた。

「ひょっとして……あなた、知らないの?」

「え? 何が?」

 熱烈な頬擦りを受けながら、『僕』もはっとする。

(そういや美香留ちゃんの前で変身解いたことって、ないぞ……?)

 どうやら桃香と同じく、美香留も『僕』の本来の姿は知らないらしい。ぬいぐるみの妖精さん、ひいては勇者似のイケぐるみとして『僕』に心酔している。

(美香留ちゃんはヒーローとか好きだもんなあ)

 美香留は『僕』を離すと、自らスクール水着越しに巨乳を寄せあげた。

「おにぃの大好きなおっぱいだって、ほらほら。大きくなったっしょー? ひひひ」

 誘惑的な谷間が『僕』の目を釘付けに――。

「どこ見てるんですか、お兄さんっ!」

「ぎゃふん!」

 案の定、隙だらけの『僕』に恋姫の延髄蹴りが決まった。

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