第197話
夏はマギシュヴェルトの海でバカンス――その提案に里緒奈たちは舞いあがった。
「三泊四日で? 行く行くっ! 可愛い水着買わなくっちゃ」
「Pくんったら……うふふ。お姫様デートだけじゃないのね。ナナルが褒めてあげる」
「ラブメイク・コレクションの罪滅ぼしですか? まあ、それならレンキも……」
マギシュヴェルトに住む母親から、すでに許可も得ている。
「せっかくの夏休みにお仕事ばかりじゃ、ね。美玖もそれでいいだろ?」
「ええ。たまには里帰りしたいもの」
気の早い里緒奈は、ケータイで行きつけのブティックをチェック。
「水着の販売は六月の後半からね。リオナとしてはぁ、ぜひ、男の子の意見も参考にしたいんだけどぉ……ちらっ」
「名案ね。ナナルも男の子に選んでもらおうかしら……ちらっ」
「レ、レンキも参考にしてあげます。本当にその、参考程度ですが……ちらっ」
菜々留や恋姫も『僕』に視線で訴えかけてくる。
「レディースの水着売り場は、さすがにハードル高いんだけど……ちらっ」
助けを求めるつもりで『僕』は妹に視線をトスするも、美玖は素っ気なかった。
「いいじゃないの。彼氏の立場で、新作の水着を物色すれば」
「変態みたいに言わないでよ! お兄ちゃんを!」
「ぬいぐるみに兄さん面されても……ね」
妹のせいで、恐るべき袋小路へ追い詰められる。これでは、レディースの水着売り場に『僕』が興味津々という流れになってしまうではないか。
「と……とにかく、お仕事でも着てくれる分には、こっちで出すから」
「やったあ~!」
代金を持つという体でやり過ごすほかない。
(まあいっか。僕は服いらないんだし)
ついでにお兄ちゃんとして、妹にフォローも。
「美玖も新しい水着、欲しいだろ? 去年よりおっぱいも大分育ってるし……あー、ビキニなら別に問題ないんだっけ?」
三方向でタメが発生した。
「せーのぉ」
里緒奈と恋姫、美玖が中央の『僕』に鉄拳をめり込ませる。
「はわびゅうっ?」
「それはセクハラでしょ。セ・ク・ハ・ラ!」
「デリカシーがないんだから、Pくんは……んもう」
「妄想じゃなく猛省してください!」
ぬいぐるみのふわふわボディーでも痛かった。
今にして思えば、この時の『僕』はすっかり忘れていたのだろう。
ファーストアルバム、アイドルフェスティバル、ラブメイク・コレクション、さらに夏の旅行……と、頭の中がいっぱいだったせいかもしれない。
『新メンバーの参加と、ファーストアルバムのリリース、それからアイフェスと……世界制服もあるし、この調子ならまだまだ伸びそうね』
マネージャーは忘れていなかったようだが。
その『新メンバー』とやらがキュートではないことを。
☆
レッスンやアイドル活動のない放課後は、水泳部の練習だ。
「いつまでチア部で遊んでるんですか? 早く来てください、P君!」
「引っ張らないでよ、恋姫ちゃん? み、みんなまたね~!」
チア部でミニスカートを堪能してから、『僕』は水泳部の顧問としてプールへ。
(この姿だと、女の子相手にハシャいじゃうんだよなあ……自重しないと)
そう己を戒めるものの、パラダイスを前にしては自制などできるはずもなかった。
何しろ女子高生が、スクール水着で、キャッキャウフフ。水泳部仕様のスクール水着は授業で使っているものと異なるため、デザインの味わいも違ってくる。
いわゆる競泳水着のタイプで、色は紺というより青に近い。縦に二本のラインが入っており、胸の発育ぶりを曲線で確かめることができた。
ハイレグカットはもはや校則違反の域だろう。
それでいて『あくまでスクール水着ですから』という体の健全さが、たまらない。
「みんな、今日も頑張ろうネ!」
「はーい!」
部員の女の子たちはプールサイドで一斉に準備運動を始めた。
来週には梅雨入りするらしい空も、今日のところは青々と晴れ渡っている。
当然、五月の下旬にプールなど非常識だろう。しかし『僕』は得意の魔法で気温・水温を調整し、水泳に最適な環境を保っていた。
日差しもフィールドで遮断しているため、日焼けの心配もない。
年中いつでもプールを使用できるのならと、S女は水泳の授業を追加。おかげで生徒たちは健康的なスタイルを維持している。
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