第190話 妹ドルぱらだいす! #3
だんだんと梅雨の気配が近づきつつある、五月の下旬。
私立S女子高等学校(通称S女)にて、今日も『僕』は教師の仕事に精を出していた。担当の科目は体育、教え子たちは体操着+ブルマの格好で体育館に集合する。
ちなみにブルマは三年生が紫色で、二年生はエンジ色、そして一年生は紺色となっていた。本日の朝一は妹の美玖がいる、一年一組。なので紺色。
教師らしく『僕』は合図の笛を吹く。
「整列~!」
「はーい! P先生」
S女で教員として務める一方で、アイドルのプロデュースもしていることから、『僕』は生徒たちから『P先生』と慕われていた。
教師としての威厳(目線の高さ)を保つため、跳び箱の上で仁王立ちになる。
「今日は跳び箱とマットをやろう。みんな、怪我だけはしないようにね」
何しろ『僕』の背丈は50センほどなので、宙に浮くか、足場を用意するかしないと、生徒たちに見下ろされてしまう。
訳あって、『僕』はぬいぐるみの姿を余儀なくされているのだから。
それを不思議に思う生徒はいない。彼女たちは全員、認識阻害という魔法の影響化にあり、『ぬいぐるみの妖精さん』を違和感なく受け入れている。
「P先生ぇ、今日はプールじゃないんですか?」
「必修の競技を消化しないと、みんなに単位をあげられないからネ」
もちろん素敵な妖精さんである以前に、『僕』は教師。アイドルのプロデューサーと二足の草鞋とはいえ、教え子たちの指導に抜かりはなかった。
「しっかり準備体操するんだぞ~」
「ハーイ!」
一年三組の女の子たちと準備体操に勤しむ。
(S女はみんな、いい子だなあ……)
普段はプールの授業に力を入れているだけあって、彼女たちはしなやかなボディラインを維持していた。薄手の体操着から健康的な色気が溢れるかのようで。
何より紺色のブルマが『僕』の目を釘付けにする。
危なっかしい食い込みと、フトモモのむっちり感。スクール水着とはまた違った青春の1ページが、『僕』をそわそわさせる。
「おいっちに! おいっちに! もっとフトモモを上げていこう」
おかげで準備運動にも熱が入ってしまった。
「アハハ! P先生ってば、可愛い~」
「ちっちゃいのに熱血するとこ、シビれるよねー」
体育の授業中は勉強から解放されるせいか、生徒たちも乗り気で参加してくれる。
そんな中――妹の美玖だけは溜息が重かった。
「はあ……兄さんはいいわね。お気楽で」
「そお?」
水泳部でお馴染みのトリオ(ミキ、シホ、マコ)が、すかさず茶化す。
「さては美玖、お兄さんがほかの子に目移りしてるのが、許せないんだ~?」
「お兄さん忙しいから、なかなか独り占めできないもんねぇ」
「そういうのじゃないったら」
このドライな妹が、恥ずかしがってツンデレのパターンに嵌まることはなかった。『べ、別にそういうんじゃないったら!』くらいの抵抗はあってもよさそうなのに。
「ちょっと……ね」
そう呟き、美玖は自ら胸をかき抱く。
育ち盛りにも過ぎる――爆乳を。
プールなら浮力が働くため、楽でいられるのだろう。運動神経が抜群の美玖があえて水泳部を選ぶわけだ。
一方、陸上ではこのサイズが競技に差し支える。
(イトコもみんな大きいもんなあ……母さんはペッタンコだけど)
無論のこと、『僕』は美玖の兄なのだから、妹のおっぱいなんぞに気を取られるはずもなかった。たとえ、それがどんなに大きくても。
(すっごく柔らか……いやいやいやっ!)
しかし意識すまいと思うほど、かえって意識してしまう残念な『僕』がいた。
この妹と朝チュンを迎えたのは、つい先日のこと。しかも妹はスクール水着をパジャマにして、丸裸の『僕』に抱き着いていたのだから、意識もする。
妹の美玖と、アイドルのキュート。
『僕』は今、ふたりの妹と摩訶不思議な関係にあった。
「……と。そろそろ始めようか」
雑念もとい煩悩を振り払うためにも、『僕』は教師の仕事に集中、集中。
跳び箱のような個人の競技は、身体能力にかかわらず、各々が自分のペースで練習できるのがよいところ。教師の『僕』としてもサポートが容易い。
「P先生の授業ってさ、気が付くと結構な運動量になってるんだよねー」
「わかる、わかる! 私、高校入ってから痩せたもん」
それに一年生にとっては、高校生活が始まってまだ二ヶ月足らず。団体競技でチームワークを強要する段階にない、と『僕』は判断した。
「もう一段高く跳びたい子は、おいで~!」
「あっ、P先生の個別レッスン? 私も、私も!」
我ながら教育熱心な自分が誇らしい。
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