第149話
どうやらふたりはまだ『僕』が男子だと気付いていなかった。それもそのはず、ここは女子校であって、ユニゾンダイヤも女の子。
(バレたら、どーなるんだろ……?)
一抹の不安を感じつつも、とりとめのない話題で誤魔化す。
「紫苑さんは演劇部、行かなくていいんですか?」
「今日は活動がなくてな。あと、私もお前も同じユニゾンヴァルキリーだ。敬語はいい」
胡桃が紫苑の肩越しに割り込んできた。
「紫苑のことも『ちゃん』ってつけてあげたらええやん、ダイヤ」
「……まあ、悪くないな」
紫苑もまんざらではない様子で、頬を染める。
「そ、それじゃあ……紫苑ちゃんと胡桃ちゃん、だね。変身中はブライトちゃんとチャームちゃんって呼べばいいのかな?」
「そーそー」
そんな脱線も交えつつ、ふたりは『僕』から六課の情報を根掘り葉掘りと聞き出そうとした。隠し事をする相手でもないので、『僕』も正直に打ち明ける。
「六課の基地があるL女へ無理やり転入? それでよかったのか、お前は」
「メグメグが強引で……もう慣れたけど」
「そっちの司令も大概やなあ。リージョンダイバーズってみんな、あーなん?」
お返しにと、紫苑たちも貴重な情報を教えてくれた。
「ニブルヘイム・スリーは昔、リージョンダイバーズが魔王とやらを追いやった、牢獄のようなリージョンなんだ。それがこのアストレア・ワンと繋がってしまってな……」
「本部は警戒レベルを引きあげてぇ、二十四時間体制で監視してんの」
『僕』は体操着を押さえるのも忘れて、考え込む。
(そんなこと、メグメグは一度も……)
ニブルヘイム・スリーは徐々に影響力を強め、アストレア・ワンを脅かしつつあった。アントニウムも強力な個体が現れ始め、『僕』たちは苦戦を強いられている。
アストレア・ワンとニブルヘイム・スリーの同期はおよそ一年ほど続くとのこと。ゴールが見えていることだけは救いだった。
七課からの評価は厳しい。
「昨日の戦いぶりでは、な……残念だが、六課の星装少女は力不足と言わざるを得ない。だから、七課の私たちが呼ばれたんだ」
「必殺技も使えないんやろ? ちょっとなぁー」
現に昨日の一戦で『僕』たちは市民の避難もままならず、二体目のアントニウム出現には後手にまわっている。ブライトたちが来なければ、大きな損害も出ただろう。
ぐうの音も出ず、『僕』は頭を垂れた。
「ご、ごめん……」
「お前だけのせいじゃないさ」
落ち着きのない胡桃が、紫苑の肩を右から左へ移る。
「せや! ダイヤもこっちに来ーへん?」
「……え?」
突拍子もない提案に『僕』も紫苑も目を点にした。
「何を言ってる、胡桃? ダイヤは六課の……」
しかし胡桃は当然のように言ってのける。
「それもメグメグに無理やり、やろ? ウチらもサポート要員は欲しいし。アニメかて予告じゃ、ユニゾンダイヤがこっちに寄ってくる感じだったやん」
原作の再現と戦力の充実を兼ねて――とはいえ『僕』には納得できなかった。
「だったら、六課と七課で一緒に戦ったほうが……」
けれども紫苑はかぶりを振り、胡桃にもはぐらかされる。
「それはだめだ。私たちには……」
「アニメでもこれから戦う関係やしねぇ」
『僕』の脳裏で直感が走った。
(七課は何か目的があって、出てきたんじゃ……?)
メグメグも七課の動向にはやけに気を揉んでいる。ここで『僕』が先走っては、あとあと厄介な事態になる気もした。
疑惑を拭えず、今は紫苑たちから距離を取る。
「じ、じゃあ、僕は掃除があるから」
「ん? 私も手伝うぞ」
「紫苑がおったら、ほかの子が掃除どころやなくなるってば」
演劇部の花形の手を煩わせるわけにもいかなかった。
が、去り際に呼び止められる。
「ダイヤ。土曜の夜、アントリウムが出現するはずだ。準備を忘れないでくれ」
「え……? うん」
出現予測にしては早すぎた。
ダイヤを見送りながら、紫苑は溜息を漏らす。
「はあ……アニメのダイヤより可愛いんじゃないか? なあっ、胡桃」
「ハイハイ。ほんま、ちっちゃいのとか好きやなあ、紫苑は」
胡桃がダイヤを勧誘したのも、紫苑に助け舟を出したつもりだった。彼女はユニゾンダイヤのこぢんまりとした愛らしさに心を奪われている。
「ぶかぶかの体操着も逆に似合ってたな。妹に着せたら、きっとあんな感じで……」
「紫苑に妹なんておらへんやん」
こうなってしまっては、しばらく止められそうにない。
「……まっ、女の子同士、仲良くやればぁ?」
胡桃は大袈裟な溜息をついた。
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