第186話

 とうとうカラットとチャームのスクール水着も半分が脱げ、おっぱいを解き放った。星装少女とはいえ羞恥に耐えきれず、必死に胸を隠しながら涙ぐむ。

「ば、ばか……闇堕ちしてるからって、ここまで……!」

「女の子相手にこんな……ひ、酷い……」

 悔しがっての軽蔑や罵倒の言葉も、『僕』の嗜虐心をそそった。変身ヒロインを屈服させた――その愉悦が『僕』の中で黒い感情を膨らませる。

(ゾクゾクしちゃうよ! こうなったらユニゾンヴァルキリーと、もっと……!)

 ところが、水泳大会の最中に奇妙な生き物が飛び込んできた。

「みんな、無事っ?」

「よく粘りましてよ、ブライト! チャーム!」

 メグメグとミルミルが一直線に間を抜け、観客の女の子たちは目を点にする。

「え? なんなの、あれ?」

「アニメにいたっけ? あーいうの」

 お楽しみに水を差される形となり、『僕』はへそを曲げた。

「せっかくいいところなのに……君たちも可愛がって欲しいわけ?」

「強がってられるのも今だけよ。覚悟なさい!」

 メグメグとミルミルの掲げた宝珠が、『僕』に聖なる光を浴びせる。

「なっ? ま、まさか……うわあああ?」

 それを受け、『僕』のスクール水着も真っ白に輝いた。

 暗黒の力は一転して逃げ場を失い、もがき出す。同時にユニゾンカラットたちの首輪が砕け、星装少女を解放してしまった。

 透き通っていたスクール水着も純白に染まる。

「この力は? メグメグ」

「やっと闇堕ちダイヤを抑え込む手段が完成したの! 出てくるわよ、構えて!」

「ああああッ?」

 ついには暗黒の力が耐えきれず、『僕』の背中から抜け出た。プールの天井にも迫るほどのアントニウムが、苦しげな唸り声を響かせる。

「キャアアア! 化け物よぉ!」

 生徒たちは仰天し、おろおろと慌てふためいた。

「心配はご無用ですわ。わたくしのシールドであれば、この程度!」

 すかさずミルミルの防壁が割り込んで、アントニウムの瘴気を遮断する。

 ユニゾンブライトが魔剣グランヴェリアを高々と構えた。

「猛れ、グランヴェリア! やつを仕留めるぞ! メギドスマッーーーシュ!」

 紅蓮の炎がプールの水面を掠めつつ、アントニウムの巨体を煽る。

 ユニゾンチャームのレゾナンスキューブも四方からアントニウムを囲った。無数の魔弾が集中線のようにターゲットへ殺到する。

「よくもやってくれたなあ! お返しやで、プリズムバレッジぃ!」

 間髪入れず、ユニゾンジュエルのライオットソードが青白い電流をまとった。

「ソニックモード……おやすみなさい。アカシックレイジ!」

 怒涛の二刀流がアントニウムの懐から顎までを切り刻む。上昇とともに彼女は稲妻をかちあげ、怪物を黒コゲに仕上げた。

 さらにユニゾンカラットがエーテルブラストを握り締め、一気に放つ。

「全力全開ッ! フォーリンシュートぉーーー!」

 渾身のフォーリンシュートはアントニウムを押しきるとともに、その先で次元サークルを開いた。異界の魔物は次元の狭間へ放り込まれたうえで、大爆発を起こす。

「……ふう。今度こそやったわね」

 司令のメグメグがほっと息をついた。

 星装少女たちの果敢な戦いぶりに、女子生徒たちは陶然とする。

「すごい……これが、本物のユニゾンヴァルキリーなの?」

「アニメよりカッコいいかも……あんなに大きい怪物を、い、一瞬で……?」

露出狂だの変態だのといった評価は吹き飛んだ。噂通りの華麗なバトルを目の当たりにして、誰もが星装少女を称える。

 ユニゾンカラットは満面の笑顔でピースを決めた。

「ざっとこんなものよ。ねっ、ジュエル?」

「危ないところだったじゃない。メグメグとミルミルのおかげでしょ」

 ジュエルはずぶ濡れの髪をかきあげる。

「みんなに怪我がなくて何よりだ。ミルミルもありがとう」

「よう逆転できたで、ほんま」

 ブライトやチャームも目配せとともに微笑んだ。

 波乱続きの水泳大会も、ようやく幕を降ろしつつある。学院の生徒に怪我人のひとりも出なかったのは、カラットたちの頑張りによるところが大きい。

「疑ったりしてごめんね、四葉! 茉莉花さんも……」

「紫苑さんが変態なわけないもんね! 胡桃さんも許してくれる?」

 和気藹々としたムードが流れる。

そんな中、『僕』はこそこそとプールサイドの端っこを横切ろうとした。

「どこに行くのよ? ダイヤ」

「ぎくっ!」

 しかしメグメグとミルミルに行く手を遮られる。

「逃げるということは、疚しい気持ちはおありのようですわね」

「ぎくぎくっ!」

 案の定、『僕』の背後には殺気があった。 

 持国天が東にあれば、増長天は南に聞こゆる。広目天は西の守護なりて、多聞天は北にて候――その恐るべき気配はまさに鬼神のごとし。

 『僕』は錆びついた歯車のように首をまわし、口角を引き攣らせる。

「あ、あれぇ? 僕は今まで何を……」

 そこには黒い笑みを浮かべる、身体つきだけは誘惑的な星装少女たちがいた。

「白々しいで~? ウチらにしたこと、忘れたとは言わさへんよぉ?」

「さっきまでの強気はどうした? 張りあいがないぞ」

「まだ暗黒の力は消滅しきってないから。ちゃんと出しきらないと」

「リレーだって、これからでしょ? 今日の主役がいなくて、どうするの?」

 恥辱の水泳大会は終わらない。

 ただし犠牲者を替えて。女の子たちも興味津々に『僕』を覗き込む。

 ユニゾンダイヤの真っ白なスクール水着の水抜き穴からは、モモモがポロリ。この時点で『僕』は先ほどの騎馬戦に負けていた。

「あ、あのぉ……カラットちゃん? 主役って?」

「リレーのバトン。また闇堕ちしないように、お姉さんたちがヌいて、あ・げ・る」

 ユニゾンヴァルキリーのおててが次々と『僕』のモモモへ伸びてくる。

「ア~~~ッ!」

 水泳大会のリレーにバトンはいらないはずなのに。

 こうして『恥辱の課外授業~ユニゾンダイヤ編~』が始まった。


                  ☆


 闇堕ちの件も落着して、L女学院は明日から夏休みを迎える。

 けれども『僕』たちに平穏なだけのスクールライフは許されなかった。アントニウムが出現したら、星装少女ユニゾンヴァルキリーに変身する。

「ねえ……ジュエルのフィギュアが先に発売って、おかしくない?」

「そんなこと言われても……」

 アニメのほうも大人気のうちに一期を終え、二期への期待が高まっていた。

「ジュエルとカラットは一話から登場してるんだから、いいじゃないか。ユニゾンチャームも大活躍だったことだし……はあ」

「うちのあれは悪役として、やで? やっぱラスボスやったなあ」

 四葉たちの正体は今やL女学院の誰もが知るところとなり、熱く応援されている。そのうえ、夏休みはアニメのスタッフと対面することになってしまった。

今や『星装少女ユニゾンヴァルキリー』は世間で不動の地位を確立しつつある。

 もちろん『僕』もユニゾンダイヤとして戦っていた。

 ただし今夜も女子用のスクール水着で。

しかもスカートを奪われて。

「うぅ……あの闇堕ちは僕のせいじゃないのに」

「ほとんどお前のせいだ。いやらしい同人誌ばっかり読むから……」

「あ、あれはチャームちゃんが持ってきたんだってば!」

 そんな『僕』を世間は寛容にも受け入れている。

 男の娘なダイヤたん、はぁはぁ――と。

『だべってないで。そろそろアントニウムが出てくるわよ』

「了解っ!」

 かくしてアニメ『星装少女ユニゾンヴァルキリー』は二期へ続く。

「ところで……今夜は誰がヌいてあげるの?」

「あ、あのぉ? みんな?」

 一方で『僕』たちの続編はR18のため、とても放送できそうになかった。

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