第183話

 L女学院K等部、二年生の水泳大会。

 バレー対決が一段落したところで、大会は本来のプログラムへ戻り、順番に競技をこなしていった。前半のうちはスピード勝負のレースが中心となる。

「行け行け~!」

「まだ届くわよ! 頑張って!」

 星装少女の乱入に戸惑っていた生徒らも、徐々にボルテージを上げていった。プールを囲むように、四方から熱い声援が飛び交う。

 バレーの結果は空組と星組が同着一位となり、適度な加点から始まった。しかし四葉や茉莉花、紫苑はほかの競技で結果が振るわず、クラス対抗は横並びとなる。

 それもそのはず、星装少女たちは今なお疑惑に晒されていた。

「ねえ、さっきの話だけど……本当なのかな? 変態って」

「そうじゃない? だって、あんなに透けてるし……」

 性的嗜好のために真っ白なスクール水着を着て、人前に出たがる――そのうえ、年下の男の子にまでスクール水着(女子用)を強要していた、などと暴露されたのだから。

 それを証明するかのように、スクール水着の色が透ける。

「いつもは濡れるくらい、大丈夫なのに?」

「もともと……あの、透ける色だったのかも……」

 四葉も茉莉花も右腕で巨乳を抱えつつ、左手でスクール水着のデルタを隠した。

ユニゾンヴァルキリーの華やかなグローブやブーツが、半透明のスクール水着のいかがわしさを余計に際立たせる。

 紫苑や胡桃もなかなかプールから出られず、羞恥の表情を浮かべた。

「何を考えてるんだ? ダイヤは……自ら正体を明かすなど」

「とことんウチらを追い込む気なんや。もっと恥ずかしい目に遭わされるで、きっと」

 さしもの星装少女も悔しさを滲ませるだけ。

 一方、『僕』のスクール水着は暗黒の色に染まっていた。何人かは『僕』の変貌ぶりに首を傾げるも、ユニゾンカラットたちの露出癖のほうが、今はインパクトが強い。

「一位の女の子にはご褒美だぞ。こっちにおいで」

「や~ん! 特等席よ、特等席!」

 サマーベッドで悠々と寛ぎながら、『僕』はびしょ濡れの女の子をとっかえひっかえ抱き寄せた。彼女らもここぞとばかりに『僕』に甘えてくる。

「王子様がユニゾンダイヤだったなんてぇ。もうファンになっちゃう~!」

「ダイヤ様、でしょ? 街を守ってくれてるんだもん、たっくさんお礼しなくちゃ」

 ここ最近のアントニウムはすべてユニゾンダイヤが仕留めていた。女の子たちは『僕』をヒーローと認め、献身的なアプローチを掛けてくる。

「こらこら。カメラもまわってるんだから」

「うふふ! はぁーい」

 どのカメラもユニゾンヴァルキリーから目を離そうとしなかった。

 ランチタイムには軽食とともに豪勢なスイーツが提供される。

「四葉ちゃん……じゃなかった。カラットたちもしっかり食べなよ?」

「え、ええ……」

 もちろん『僕』は取り巻きの女の子たちに食べさせてもらった。彼女らの濡れた首筋や耳たぶを舐めまわしたい衝動にも駆られ、生唾を飲み込む。

(落ち着け、僕……本番はこれからなんだ)

 四人の星装少女はプールサイドの隅で何やら相談していた。『僕』の支配下にあっても、内緒話ができるくらいのネットワークは自力で構築したのだろう。

 幾度となく死線をくぐり抜けてきたカラットやジュエルが、この程度で諦めるわけがない。恥辱に耐えながらも、反撃のチャンスを窺っているはず。

(それでこそユニゾンヴァルキリーだよ! さあて)

 ランチタイムを終え、水泳大会は午後の部となった。プログラムの後半は玉入れやトレインレースなど、ユニークな競技が続く。

 最後は騎馬戦、そしてリレー。

「ここからは僕も参加させてもらうよ。助っ人としてね」

「きゃ~!」

 そう宣言するだけで黄色い声援が巻き起こった。

 現状最下位の月組の一員として、玉入れゲームに挑む。

「それでは位置について……よーい!」

 ピストルが快音を弾いた。月組はプールの中で赤い玉を拾い、投げ込む。

「どんどん投げて! こっちは赤よ、赤!」

「カゴに近づけないで~!」

 カゴは両サイドにひとつずつ、どちらに投げ入れても得点となった。ただし敵を手で引っ張ったり、足を引っ掛けるのはNGで、体当たりだけが許容される。

 そのため、水中ではヒップアタックの応酬が繰り広げられた。

「王子様、見っけ! 逃がさないんだからぁー」

(うわっ? なんて弾力……!)

迂闊に潜ると、お尻の群れに襲われる。

 もちろんユニゾンダイヤの『僕』はいくらでも息が続いた。スクール水着のお尻をじっくりと観賞し、フトモモに頬擦りもしながら(不可抗力)、赤い玉を集めてまわる。

(……!)

 ところが、同じ水中にブライトも潜ってきた。

(好きにはさせんぞ。勝つのは星組だ!)

(へえ? 僕とやるんだ?)

 あえて挑発に乗り、迎え撃つ。

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