第181話

 カメラを向けられ、四葉や茉莉花は純白のスクール水着を隠そうとした。

「ちょっと? さ、さすがにカメラは……」

「や、やだ! ……撮らないで」

 アントニウムとの戦いでは勇敢な彼女たちも、多感な羞恥心を翻弄され、困惑の表情を浮かべる。お調子者の胡桃でさえ、カメラの存在には戸惑った。

「ひょっとしたら、ウチがあげた同人誌のせいで……?」

「お前の仕業か!」

 すでに『僕』の視界の隅には『●REC』の文字がある。

「それでは一回戦、空組VS星組! スタート!」

 いよいよ水上バレーが幕を開けた。

 紫苑と胡桃はボートの上に立つも、波に揺られる。

「これは揺れるぞ? 大丈夫か、胡桃」

「こんくらいやったら、まあ……向こうも割と安定しとるやん」

 浜辺のビーチバレーと違い、風が吹くことはなかった。その代わり頻繁に揺れ、プレイヤーは不規則に足を取られる。

 それでも胡桃は持ち前の平衡感覚を活かしつつ、サーブを放った。

 空組のペアも奮闘し、ゲームは早くも白熱する。

「上手い、上手い!」

「そこよ! あ~、惜しいっ!」

ただ、足場が揺れるせいで、やはり空組のペアは動きが鈍った。その一方で星組の紫苑たちは物怖じせず、前へ前へと踏み込む。ジャンプも紫苑が頭ひとつ抜けて高い。

「合わせろ、胡桃っ!」

「任せとき! こうしたいんやろ?」

 紫苑のスパイクから一拍の間を置き、胡桃が跳ねた。相手チームのレシーブやトスにタイミングを合わせて、足場のボードを大きく揺らす。

「きゃあっ?」

 ボールは零れ、星組の得点となった。

「ずるいわよ、胡桃さん!」

「作戦やて、作戦。揺れるのはお互い様やんか」

 空組のペアも同じ戦法を取るものの、紫苑たちほどには息が合わない。

 その後も紫苑&胡桃のペアが順調に得点をあげ、勝利を決めた。

「ゲームセット! 一回戦、勝者は星組!」

「勝つには勝ったか……」

 紫苑は膝に手をつき、濡れっ放しの髪を後ろへのける。

「まっ、変身せえへんでも、なあ?」

 漫画部の胡桃にしても、試合中は巧みなコントロールを見せつけた。

白いスクール水着への疑惑もいくらか晴れ、星組のメンバーは声援を惜しまない。

「やるじゃない、ふたりとも! これで星組は一歩リードね」

「なぁに、勝負はこれからさ」

 まだまだ水泳大会は始まったばかり。

 とはいえ当然、バレーでの勝敗はクラス対抗の今後を左右する。二回戦ではそのムードが顕著になり、プレイヤーはプレッシャーに晒された。

「勝つ分には問題ないのよね? 茉莉花」

「ええ。でも四葉、このゲームをあまり侮らないで」

 揺れるボードの上で二回戦が始まる。

「それでは空組VS月組、ゲームスタート!」

 より安定感のある茉莉花が前に出た。四葉は後方でフォローに徹する。

「私が撃つから、四葉はトスを!」

「オッケー。任せたわよ!」

 それに対し、月組のペアは揺れに戸惑ってばかりいた。

(さすが星装少女、冷静な試合運びじゃないか)

 欲張って攻撃を急いだりせず、相手チームの自滅を待つ。そんな四葉たちの作戦は次第に効果を露にして、点差を広げていった。

「ゲームセット! 勝者、花組!」

 ストレート勝ちに花組は安堵する一方で、月組は肩を落とす。

「水着はあれだけど、やっぱり四葉はやるわねー」

「茉莉花さんも運動神経は抜群だもの。チア部なのがもったいないくらい」

 そして、いよいよ花組(四葉&茉莉花)と星組(紫苑&胡桃)の対決となった。全員が白色のスクール水着でボードの上に立つ。

「勝負は勝負だぞ、ふたりとも。私の性格は知ってるだろう?」

「望むところよ。行くわよ、茉莉花!」

 四葉のサーブから決勝戦が始まった。どちらのペアも揺れをものとせず、アグレッシブな動きでボールを弾く。

 星組の紫苑が迫力満点のスパイクを放った。

「せやっ!」

「……なんの!」

 それを茉莉花が横飛びでカットし、四葉へ繋ぐ。

 息をつく暇もない攻防の数々に、ギャラリーも盛りあがった。

「すごいわ! あんなに揺れてるのに」

「胡桃さんも上手いじゃないの! ほんとに漫画部?」

 胡桃は巧みにワン・ツーを織り交ぜ、花組ペアに揺さぶりを掛ける。

「うそ、そっち?」

 そのせいで四葉と茉莉花の連携が噛みあわず、ボールを逃がす場面もあった。

 星組ペアは紫苑がパワースタイルの真っ向勝負を得意とする一方で、胡桃がトリッキーに動きまわる。それが上手い具合にパートナーの短所を補っていた。

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