第179話

 そしてK等部・二年生も水泳大会の当日を迎える。

 本日が今年最後の水泳大会でもあった。すでにC等部とK等部の一、三年生は大会を終えている。『僕』の三年空組も優勝して、一泊二日のリゾートを勝ち取った。

 あとはK等部の二年生を残すのみ。

 けれども二年花組には四葉や茉莉花がいた。星組には紫苑と胡桃もおり、ユニゾンヴァルキリーが勢揃いする。

 彼女らは以前、白色のスクール水着を着て、『僕』のお世話係を主張した。とりわけ四葉と茉莉花は『僕』の恋人とまで名乗り、波風を立てている。

 女の子たちのスクール水着アタックがより過激になるのは必至。

(前みたいに溜めすぎて、漏らさないようにしないと……ぶるぶるっ)

 実は水泳大会の最中、二回ほど暴発もした。

 どうも『僕』の性的嗜好はスクール水着を大好物とするらしい。アニメ『星装少女ユニゾンヴァルキリー』で親しんだ分も、L女学院のプールで開花してしまった。

 闇堕ちのほうの『僕』がスクール水着に固執するのも、そのため。

「もう行っちゃうの? 王子様」

「うん。仕事だからね」

 自分のクラスのホームルームに顔だけ出して、『僕』はプールへ急ぐ。

(また女子用のスクール水着で、かあ……)

 仮に『僕』がバーバリアン星の王子アラハムキのような体格だったら、L女学院の生徒は歓迎してくれたのだろうか。

『あの上腕筋、見て見て! キレてる、キレてるぅー!』

『ギャランドゥもやっば~! クマみたいに毛深いじゃない、ねえ?』

 今の『僕』とあまり変わらない気もする。

 やがてK等部の二年生がプールへ集まってきた。

「おっはよー、王子様!」

「今日はずっと一緒なんだ? 嬉しい~!」

 黄色い声援を受け、『僕』はスクール水着の恰好で苦笑い。

「う、うん。よろし……いいっ?」

 ところが彼女らのスクール水着に驚き、目を見張る。

 確かに『スクール水着』だった。ただ、今日はグループごとに少し趣向の違ったものを着ているのだ。

(もしかして、ありとあらゆるスクール水着が……?)

水泳部が使っている競泳水着のタイプは、デルタのカットが鋭い。青い生地に白いラインが入った、スポーティーなデザインも『僕』の目を引いた。

「み……みんな、どうして水着を……?」

「せっかくの水泳大会だもん。王子様も好きでしょ?」

 何より『僕』をそわそわさせるのは、いわゆる『新スク』だった。

 L女学院は水抜き穴のある『旧スク』を採用している。しかし制服となったことで数が不足気味のため、急きょ余所でも発注が掛けられた。

 その結果、水抜き穴のない『新スク』も採用されることに。ようやく第一弾が届き、K等部・二年生の手に渡ったのだろう。

 ほかにも背中を空けたものなど、多種多様なスクール水着が一堂に介する。

(これはもう水泳大会じゃないぞ。スクール水着大戦だ!)

 メインテーマは時を超えて――そんな中、花組のお姉様がたもプールに現れた。純白のスクール水着がシャワーに濡れ、滑らかに照り返る。

「お、おはよう……ふたりとも」

 さしもの四葉も頬を染め、茉莉花とともに我が身をかき抱いた。

 白色のスクール水着をじろじろと眺め、女の子たちは動揺を浮かべる。

「本当に白いんだ? 空組の四葉さんと茉莉花さんって……」

「あれはさすがに……恥ずかしくないわけ?」

 同じ女子の言葉だからこそ、ふたりの羞恥心を逆撫でしたのだろう。奇異の視線に耐えかねて、茉莉花は四葉の背に隠れる。

「あ、あんまり見ないで……?」

(なんでスクール水着が制服なのはよくて、白色はだめなの?)

 おそらく『僕』を独占することで反感も買っていた。空組のクラスメートやチア部の部員はまだ穏やかにしても、ほかの女の子たちにとっては面白くないらしい。

 ところが星組からも真っ白なスクール水着のペアが登場する。

「紫苑さんと胡桃さんよ! やっぱり今日も白なんだ?」

「ねえ……王子様を巡って五角関係って、ほんと?」

 L女学院のプールは驚きと疑惑に包まれた。

 紫苑は腕組みのポーズで巨乳を押しあげ、嘆息する。

「みんなも水着を替えたのか」

「競泳水着とか、マニアックなチョイスやなあ」

 胡桃の白いスクール水着もしとど濡れ、潤沢を帯びていた。準備体操がてら、四葉や茉莉花にもひけを取らない巨乳を弾ませる。

 二年生が揃ったところで、『僕』は緊張気味にメガホンを手に取った。

「そ、それじゃあK等部、二年の水泳大会を始めまーす」

 四葉や茉莉花が『僕』に目配せする。一般の女の子を闇堕ちの餌食にしないため、自分たちをターゲットにしなさい、という合図だろう。

とはいえ今までも特に問題はなかった。

(もう安定してきてるし、大丈夫だと思うんだけどなあ……)

 要は無理に我慢せず、ヌけばよいだけのこと。オカズも目の前に山ほどある。

(スクール水着……オ、オカズ……うあっ?)

 だが――不意に『僕』は眩暈に襲われた。異物でも混入したかのように意識が途切れ、視界を砂嵐で覆われる。

(もっと楽しい水泳大会に……スクール水着に、僕、ぶっかけ……!)

 我に返った時には、魔法が発動してしまっていた。

 プールの上に大きな正方形のボードが出現し、波に揺られる。

「えええっ? どうなってるのよ、これ」

「ねえ……なんか変じゃない?」

 さらにはプールの照明がほんのりとピンク色に染まった。L女学院の健全な遊泳場は一転して、いかがわしい雰囲気を醸し出す。

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