第177話

 またしてもU市の上空で次元サークルが広がる。

 しかし六課と七課は迅速にこれをキャッチ。人気アニメ『星装少女ユニゾンヴァルキリー』と同じ姿で『僕』たちは現場へ急行した。

 ユニゾンジュエルが得意の二刀流で奇襲を仕掛ける。

「ライオットソード、ソニックモード!」

「グランヴェリア、ガンナーモード!」

 負けじとユニゾンブライトも弓を引いた。

 問題の首輪が鈍く輝くものの、牽制程度には威力が出る。

「少しコントロールできるようになったみたいだよ。カラットちゃんも!」

「わかったわ! エーテルブラスト、全力全開!」

 ユニゾンカラットのフォーリンシュートも唸った。

 だがアントニウムの障壁の前では効果が薄い。カラットたちの攻撃では出力が足らず、敵のフィールドを貫通できなかった。

「くっ……実戦テストは終わりだ。やれ、チャーム!」

「はいはーい! そいなら、いっくでえ~!」

 ユニゾンチャームのレゾナンスキューブが夜空から降下しつつ、弾幕をばらまく。

 その猛攻でアントニウムが怯んだところへ、『僕』はミョルニールとともに迫った。空気が凍るほどの冷気を渦巻かせながら、渾身の一撃を放つ。

「食らえっ、コルドゲヘナ!」

 アントニウムは凍てついたうえで砕け散った。

「やったわ! これで五体目ね、ダイヤ」

間もなく次元サークルも閉じ、『僕』たちは快勝に沸く。メグメグの声も明るい。

『お疲れ様。ギャラリーが集まってこないうちに、戻りなさいよ』

「うん。すぐ帰るから」

 U市のひとびとも星装少女たちの技の数々に酔いしれた。

「やっぱジュエルの二刀流、カッコいいよなー」

「カラットだって素敵よ! うちの妹も大ファンでね」

 声援に応えるのもそこそこにして、『僕』らはL女学院の基地へ帰還する。

 司令室に戻るや、ブライトは神妙な面持ちで腕組みを深めた。

「なんだか最近、私の人気が落ちてる気がするんだが……なあ? チャーム」

「新キャラゆうブーストが落ち着いたんやろ」

 ストーリーの途中で参戦するような新キャラクターは、登場時が人気のピークとなりやすい傾向にある。既存のキャラクターとの絡みも終え、安定期に入ったのだろう。

 もちろん『僕』たちは原作アニメを毎週、欠かさずに観ていた。

「あの流れでいったら、ウチはラスボスなんかもなー」

「あなた自身じゃなくって、アニメのチャームが、でしょ?」

 世間では『闇堕ちするのはユニゾンチャーム』などと噂されている。

 メグメグは今日の戦闘データを整理していた。

「首輪があっても、ダイヤの命令を受信すれば、少しは戦えるってわけね」

「ええ。出力は限られるようだけど」

 あの首輪はパワーを吸い取るだけでなく、制御次第で与えることもできるらしい。首輪を通し、『僕』は彼女らを支配下に置いている――と、メグメグは結論づけた。

「別に何でもかんでも命令できるってわけでも、ないんやろ?」

「現段階ではまだ……ね」

 今回のアントニウム戦はそのテストも兼ねている。

 また、あえて戦いぶりをギャラリーに披露することにも思惑があった。『僕』たちの力はファンの共通認識によって左右される。

だからこそ、ユニゾンヴァルキリーさながらの技や魔法を見せつけ、人気(このキャラは強いという共通認識)を獲得しなくてはならなかった。

 ジュエルやブライトが口を揃える。

「でも下手したら、民間人を巻き込むことにも……ほかに方法はないのかしら」

「ジュエルの言うことももっともだ。人気のためとはいえ……な」

 実戦での人気取りは無論、ひとびとの危険に直結した。彼らを巻き込まないためにも、アントニウムは迅速に撃破するのが正しい。

 かといって人知れず戦っては、星装少女のイメージは弱体化する。

「いっそ映像で発信するのはどうや? そん時だけ認識阻害も上手いこと調整してやな」

「この恰好を撮られちゃうのは、さすがにちょっと……こんな色なのよ?」

「アニメサイドの了承も得ないことには、難しいだろう」

 アイデアはいくつかあれ、万事解決に至るものはなかった。

 カラットが心配そうにメグメグに尋ねる。

「それより……ダイヤの自浄作用はどうなの?」

「概ね問題なしよ。L女学院で『楽しんでる』分が、効いてるんじゃない?」

 カラットやブライトの視線が冷ややかに『僕』を見据えた。

「ふぅーん? もうじき水泳大会だし?」

「ぎくっ」

「着替えにも混ざってるそうじゃないか。少しは自重しろ」

「ぎくぎくっ」

 L女学院の水泳大会――正直なところ、パラダイスが楽しみでならない。

 だが、それをジュエルお姉さんは許さなかった。

「水泳大会の前に試験よ? ちゃんと勉強してるの?」

「ぎくうっ!」

 試練の時は近い。

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