第175話

「みんな~! 演劇部の紫苑先輩だぞ!」

 高嶺の花を前にして、こちらの女の子たちは目の色を変えた。

「そうよね。王子様にぴゅっぴゅできない分は……紫苑先輩で、うふふ……」

「邪魔しないでください、先輩がた!」

 まるで軍人のように統率された動きで、K等部生を一気に蹴散らす。

 あっという間に敵は紫苑ひとりに。

「なっ? 素人じゃない……?」

「さあ、紫苑先輩? 私たちと水遊びですよぉ~!」

「う――うわあああ!」

 強敵を降し、『僕』たちはますます勢いづいた。運動場を抜けて中庭へまわり込む。

 そのつもりが突然、足元で水柱が噴きあがった。

「きゃあああっ?」

 先行していたメンバーは、たちまちびしょ濡れ(リタイア)となる。

 噴水の正体は地面に仕組まれたペットボトルだった。

「地雷……? どうやってこんなもの……」

 必ず水鉄砲で濡らさなければならない、というルールはない。あくまで『スクール水着が濡れたらリタイア』であって、このトラップは有効となる。

「そこらじゅう罠だらけよ、王子様!」

「……胡桃ちゃんだ」

 サバイバルゲームが提案されてからゲームスタートまで、およそ三十分。

その間にこれほどのトラップを仕掛けられるわけがなかった。とすれば、敵は放課後になるまでに準備していたのだろう。

 お茶らけた性格にしては、用意周到なところがあるらしい。

 無論、ここまで来たうえで引き返すのは下策だった。せっかく浮足立っている敵チームに、反撃のチャンスを与えかねない。

「そんなに多くないはずだ。みんな、突っ切るぞ!」

「それはどうかしら?」

 だが、『僕』たちは足を止めざるを得なくなってしまった。

 意外な敵の登場にC等部のメンバーは唖然とする。

「な、なんで……ユニゾンカラットが?」

「ユニゾンジュエルもいるわ!」

 まさかの星装少女、ユニゾンカラットとユニゾンジュエル。ふたりは純白のスクール水着にミニのセーラーを重ねた、定番のスタイルで『僕』らの前に立ちはだかった。

「悪いけど、私とジュエルはチャ……K等部生の味方なの」

「王子くんをこっちに渡して」

 カラットもジュエルも水鉄砲を構え、『僕』に狙いをつける。

「み、みんな! カラットたちもサバゲーの参加者だ、スクール水着を!」

「ええっ? で、でも……ひゃあ!」

 小刻みなショットが矢継ぎ早に襲い掛かってきた。

「コスプレでデートなんて、誰にもさせないんだからっ!」

 どうやらふたりはゲームのご褒美が気に入らないらしい。同じ水鉄砲とは思えない連射性能で、『僕』の仲間を次々と仕留めていく。

「待ってよ、カラット! ジュエル! 変身なんて反則じゃ……」

「普通の子を闇堕ち中のきみとデートさせるわけにはいかないもの。だから、私と」

 ジュエルの言葉は一応、筋が通っていた。確かに今の『僕』は女の子に何をするかわからず、星装少女のふたりが身体を張ってくれている。

 かといって『僕』も負けるつもりはなかった。

「きゃ! ごめんなさい、王子様」

「心配しないで。この水鉄砲、借りるよ」

 『僕』は両手に一丁ずつ水鉄砲を携え、ふたりの星装少女と対峙する。

「あら? もしかして、私たちと戦うつもりなの?」

「当たり前さ」

 ここで変身しては、さすがに正体がばれる――ユニゾンダイヤにはなれなかった。

 しかしユニゾンカラットもユニゾンジュエルも例の首輪のせいで、魔法は使えず、動きも目で充分に捉えられる。

 それに『僕』とて、胡桃に負けじと策は弄していた。

「二対一よ! 観念して、スクール水着を……」

「待って、カラット。あれじゃ狙えないわ」

 男子の『僕』はもっこりを隠すため、ぶかぶかのセーラー服を着ている。おかげでスクール水着はすっぽりと包まれていた。

「こっちからも行くぞ! カラット、ジュエル!」

「くっ……ずるいじゃない!」

 お互い足元の水鉄砲を回収しつつ、渡り廊下の柵越しにショットを交える。

 しかし二対一では、徐々に『僕』のほうが追い込まれる形となった。

(さすがジュエルにカラット……息がぴったりじゃないか)

 ふたりは星装少女として早くから行動をともにし、アントニウムと戦っている。サイドアタックは鏡映しのように正確で、水鉄砲を交換する際のフォローも完璧。

 ついにカラットとジュエルの手が『僕』のセーラー服を掴んだ。

「あ……?」

 スクール水着へじかに水鉄砲をあてがわれる。

「ごめんね? コスプレデート、ちゃんとお姉さんがリードしてあげるから」

「スイーツはC等部に譲ってあげても、よかったんだけど……」

 しかし『僕』は動じず、悪魔の言う通りに囁いた。

「……で、どっちがデートしてくれるの?」

「え? えぇと……」

 『僕』とデートできるのは、とどめを刺したひとりだけ。

それを考えていなかったらしいカラットは口ごもり、ジュエルは攻撃を躊躇う。

(……あれ? 僕、何言って……それよりチャンスだ!)

 すかさず『僕』は飛び退き、間合いを取りなおした。

「あっ、こら? 待ちなさい!」

カラットとジュエルは我に返り、引き金を引く。

 けれども水鉄砲から水は出ず。その銃口は今しがた『僕』が塞いでおいた。

「悪く思わないでよ? これも作戦だからさ」

 『僕』は星装少女の真っ白なスクール水着の水抜き穴へ、水鉄砲を差し込む。

「ちょっと? 何もそんなとこ、狙わなくったって……ひゃあああんっ!」

「あうっ? や……やだ、冷たい……!」

 スクール水着の股底だけを潤わされ、ふたりの星装少女は身震いした。

(……あ。忘れてた)

 水に魔法が掛かっているせいで、カラットもジュエルも俄かに顔色を変える。

「ど、どうして急に……あぅ?」

「お花摘みに行かなきゃ……はあっ、早く……!」

 しかも股座に直撃させてしまった。

ふたりとも眉を八の字に傾け、赤面する。

「んあぁ~~~っ!」

 そして、とうとう聖なるスクール水着の中で――。

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