第173話

 何とか耐え凌ぎ、放課後を迎えた。

「はあ……し、死ぬかと……」

 この調子では玉入れや騎馬戦といった、定番の種目も怪しい。

 しかし本番はこれから。そろそろユニゾンチャームこと胡桃から、お祭りの開催が宣言されるはずだった。間もなく元気な放送が響き渡る。

『全校生徒のみなさま、ご拝聴~! これより王子様主催、ドキドキ☆スクール水着でサバイバルゲームを始めるでーっ!』

 グラウンドで部活を始めようとしていた面々が、興味津々に顔をあげた。

「えっ? 王子様の企画?」

「面白そう!」

 掴みは上々。誰もが胡桃の言葉に耳を傾ける。

『ルールは簡単。水着が濡れたらリタイアで……C等部は王子様がリーダー、K等部はウチがリーダーや。んで、勝ったほうには水泳大会でスイーツを提供!』

 まさかの景品も皆のボルテージを高めた。

「スイーツだって! かき氷とか出るってこと?」

(さすが胡桃ちゃんだ。煽るのが上手いなあ)

 さらに胡桃は特別ルールを付け加える。

『まだ聞いてや? 相手チームのリーダーにとどめを刺したプレイヤーには、ユニゾンダイヤにコスプレした王子様と、デートの権利をプレゼントや~!』

「いいいっ?」

 『僕』はぎょっとするも、学院の女子は一気に舞いあがった。

「部活どころじゃないわ! 水鉄砲はどこ?」

「スイーツも忘れないでよ? そうだ、先輩たちも呼んでこなくっちゃ!」

 どのクラブも本日の活動を中止し、続々とサバイバルゲームへの参加を表明する。

(胡桃ちゃん、どういうつもりで……?)

 ただ、この程度なら女子生徒を危険に晒すことはなかった。せいぜいスクール水着が濡れるくらいのもので、エッチな目に遭うわけでもない。

『濡れたらあかんし、ゲームが始まったら、ケータイは使用禁止なー』

「そうね。じゃあ連絡も口頭で……」

 いつの間にやら、プールのほうでは山ほどの水鉄砲が用意されていた。七課のミルミルが『僕』に電話を掛けてくる。

『チャームからの依頼で、わたくしが特別に用意して差しあげましたのよ? まあ健全なサバイバルゲームのようですし、あなたも頑張るとよろしいわ』

「ありがと。今度、うちのケーキでもご馳走するよ」

『本当にっ? ……こ、こほん。お礼とあっては、お受けするのが礼儀かしら?』

 続いて四葉からも。

『どういうことよ、これ? キミ、何か知ってるんでしょ』

「僕も聞いてないんだ。でも、ミルミルには話が通ってるみたいでさ」

 胡桃の真意はまだわからない。とはいえミルミル司令のお墨付きもある。

「とりあえず付き合ってあげようよ。面白そうだし」

『そうね。……それじゃ、私たちは敵同士?』

 サバイバルゲームはC等部とK等部の対決。四葉や茉莉花も『僕』の敵となった。

「望むところだよ! 四葉ちゃん、茉莉花ちゃんにもよろしく」

 『僕』はC等部のリーダーとして陣を敷く。

 C等部の女子は水鉄砲を携え、校舎の一階に集合した。生徒会が統率に当たる。

「今日も暑いんだから、水分補給を忘れないようにー!」

 教師からのお咎めはなかった。

「怪我だけはしないでね」

「はーい!」

 サバイバルゲームに向け、士気は高まりつつある。

 ただ、一部の生徒には戸惑いもあった。

「K等部の先輩が相手なんでしょ? ちょっと緊張しない?」

「やっぱりねー。クラブのOBとか、やりづらいかも」

 年上のK等部生が相手では遠慮してしまい、全力を出すのが難しい。K等部生は半数がC等部の卒業生であるため、顔馴染みも多かった。

(これで負けちゃうのもなあ……)

 C等部のリーダーとして、『僕』は総員に発破を掛ける。

「ゲームってことはK等部生もわかってるはずだよ。何かあったら僕が対応するから、みんなは思う存分、楽しんで欲しいな」

「お~っ!」

 C等部生は掛け声とともに水鉄砲を掲げた。

 だんだん『僕』も乗り気になってくる。

(この機会に四葉ちゃんと茉莉花ちゃんもやっつけて……よーし!)

 日頃のお子様扱いのお礼も兼ねて、とことん戦うことに。

 ゲームの目的は相手チームのリーダーを仕留めること。まずは胡桃の居所を特定しなくてはならなかった。

 ゲームの舞台はL女学院の敷地すべて。

ただし教師からの要望で、校舎の中は除外される。

「王子様は隠れといたほうがいいんじゃない?」

「いや……それだと見つかった時、逃げ場がないからさ」

 当然、どちらもリーダーを守るためのフォーメーションを敷くはずだった。リーダーの居所は敵の動きから、ある程度は推測できるだろう。

 また水鉄砲は補充が必要となる。プールなら即座に補充できるが、敵と鉢合わせになる恐れもあった。

「どこかに水を張っておくとか?」

「綺麗な水じゃないと、K等部生に怒られるわよ? 多分」

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