第170話

 日がな一日プールで指導に当たるのも、放課後には解放される。

 水泳部からオファーはあったものの、『僕』は調理部での活動を理由に断った。

(隠れる場所がないもんな……)

 しかし一番の理由は、放課後はどこもかしこも生徒だらけで、ヌくにヌけないため。実は今日も三時間目のあとに一度ハッスルしてしまった。由緒ある女学院に紛れ込んで、毎日のようにこっそりとオニャニャーなど、背徳感を禁じえない。

 とはいえ『僕』が自分でヌくことで、暗黒の力も減退した。四葉たちや女子生徒の安全を確保するためにも、セルフはぁはぁは欠かせないのだ。

「お菓子でも作って、気分を変えようっと……ん?」

 C等部の調理室へ向かう途中で、K等部生のチア部が目に入る。部員たちは紺色のスクール水着にミニスカートを重ね、軽やかなダンスに励んでいた。

「ゴー・ファイ・ウィン! ゴー・ファイ・ウィン!」

 ところが四葉と茉莉花のふたりだけ、純白のスクール水着で巨乳を弾ませる。

「ゴ、ゴー・フォ……」

「声が小さいわよー、四葉! 茉莉花も!」

 さしもの四葉も顔を赤らめていた。同じ表情で茉莉花も真っ白なスクール水着を引き伸ばし、肉感的なダンスを披露する。

(僕のせいで、まだスクール水着の色が……)

 ふたりは今なおスクール水着だけ変身してしまうようだった。

 通りすがりの生徒はその色に驚き、軽蔑の色さえ帯びる。

「うわぁ……ほんとに白色なんだ? あんなので恥ずかしくないのかしら」

 チア部の部員も疑惑のムードを漂わせていた。

「濡れたら透けちゃうんじゃないの? あれ……汗なんてかいたら、さあ……」

「スクール水着が制服って時点で、おかしいでしょっ?」

 とうとう四葉はポンポンごと我が身をかき抱き、座り込む。

 茉莉花も純白のスクール水着にポンポンを擦りつけ、困惑を浮かべた。

「あ……王子くん? 水着の色……そろそろ戻して欲しいんだけど」

「ご、ごめん。僕じゃ制御できなくって……」

 おずおずと前に出ると、チア部の部員は黄色い声をあげる。

「きゃあ~っ! 王子様よ、王子様!」

「うちのチア部のマネージャー、考えてくれた?」

 熱烈に歓迎されるのも、いつものこと。無意識のうちに『僕』は彼女らの相互認識に強力なジャミングを掛け、『僕』を慕うように誘導していた。

 そのカリスマを利用して、『僕』は四葉たちのフォローに入る。

「ちょっといい? 四葉ちゃんと茉莉花ちゃんのスクール水着のことなんだけど……」

「ここにいたのか」

 ところが、そこへ紫苑と胡桃がやってきた。

「あなたは演劇部の……えええっ?」

ふたりとも堂々と白色のスクール水着を着て、一同を驚かせる。

 星装少女だけあって、紫苑も胡桃も豊満なプロポーションを誇っていた。瑞々しい柔肌が純白のスクール水着と合わさり、清純さと色気を一緒くたに醸し出す。

「胡桃ちゃんまで、どうして?」

「こないだは迷惑掛けてもうたやん? そのお詫びになぁ」

 胡桃を制しつつ、紫苑は『僕』にこそピュアホワイトのスクール水着を見せつけた。ユニゾンブライトとしての闘志を燃やし、はきはきと宣言する。

「あんな目に遭わされて、おめおめと引きさがっては、私の沽券に関わるのでな。今日から私と胡桃も参加させてもらうぞ」

「へ? そ、それって……」

 戸惑う『僕』を押しのけ、四葉が声をあげた。

「ちょ、ちょっと! ダイヤのお世話は私と茉莉花で、って……」

「もはや六課にだけ任せてられん。ミルミルの許可も出た」

 『僕』のオカズを巡って、六課と七課が火花を散らす。

 胡桃は前のめりになり、つぶらな瞳で面白そうに『僕』の顔を覗き込んだ。

「ウチもええよ? 男の子やもんなあ……ほんまは今日も我慢できんかったんやろ」

「え、ええっと……」

 たじろぐしかない『僕』を、茉莉花がこれ見よがしに抱き寄せる。

「だめ。私と四葉でちゃんとお世話するから」

「え~? あんなに嫌がってたやん」

「それより茉莉花、周りを見ることだな」

 王子様を独り占めされ、チア部の皆はご機嫌斜めに。

「自分ばっかりずるいわよ、茉莉花さん! 私にも抱っこさせて~!」

「私も、私も!」

「うわあっ? ま、待って……僕、今から調理部に……!」

 調理室への道は塞がれてしまった。

 紫苑は不敵にはにかむ。

「勝ったと思ってくれるなよ? ダイヤ。私はまだ負けてないんだからな」

「それを『負け惜しみ』いうんとちゃう?」

 こうして『僕』をお世話する星装少女は、ふたりから四人へ。ただしブライト(紫苑)には攻撃対象に、チャーム(胡桃)には玩具にされる。

(どうなっちゃうの? 僕~!)

 スクール水着のデルタを押さえ、『僕』はかつてない危機に戦慄した。

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