第169話

 おそらく『僕』はまた暗黒の力に捕らわれ、自制できなくなったのだろう。何かしらの魔法で、ユニゾンブライトをお仕置きするための準備を整えてしまった。

 チャームはプールサイドからそれを見上げ、唖然とする。

「はえ~。こんなん同人誌になかったけど……どーいう発想なん?」

「……え? あれ、僕……」

 次に我を取り戻した時、『僕』はプールの真上にいた。目の前ではユニゾンブライトが、ブリッジを逆さまにしたような体勢で吊りあげられている。

「お、堕ちたな……ダイヤめ。このまま私をプールにでも沈めるつもりか?」

「なんのこ……ななっ、なんだ? これ!」

 そのブライトのお尻に『僕』が跨っていたことに、度肝を抜かれた。しかも、ふたり一緒に宙ぶらりんの状態で、ブライトは今にもプールの水面と擦れそうになっている。

 どう見ても苛酷な仕打ち。エッチなお仕置きなどではなかった。 

「チャームちゃん、助けて! これじゃブライトちゃんが……」

「ど、どこを触ってる? 変態!」

「それどころじゃ……な、なんでこんなことに?」

 徐々に『僕』たちの高度が下がっていく。

 加えて、前後に揺れ始めた。遊園地の海賊船のようにだんだんと振り幅を大きくして、『僕』たちをグラインドさせる。

「まっ、待て! ダイヤ、沈めるなら普通に沈めろ!」

「僕にも止められないんだ! えぇと、何か方法は……うぅ?」

 『僕』の爪先がプールの水面をかき分けた。

 しかし感触が水ではない。何やらヌルヌルしたものがプールを満たしている。

(これって……ひょっとして、ローションってやつ?)

 同人誌で得た知識が役に立った。

 いつの間にかプールはローションで満タン。そして『僕』たちの真下ではレーンロープがまっすぐに伸びている。

 さらに高度が下がると、ローションまみれのレーンロープがブライトのお腹と擦れた。

「うあぁ?」

 そこから胸の谷間と、スクール水着の股座にも食い込む。

「ひっ……ひいいいい~っ!」

 そのプレイが始まってから、やっと『僕』もギミックの意味を悟った。

(だだっ誰が考えたんだよ、これ? ……僕なの?)

 水面の高さでユニゾンブライトが前後にグラインドすることで、ヌルヌルのレーンロープが彼女のスクール水着と擦れまくるのだ。

 胸からお尻のほうへ、お尻から胸のほうへ、レーンロープが滑り抜けていく。

「……すっごぉ~」

 同人誌に造形が深いチャームも、まさかのプレイに目を点にした。

 幸いにしてブライトは変身中のため、パワーは枯渇気味とはいえ強靭な身体を持つ。これくらいの勢いなら怪我の心配もなかった。

 だが風を切るたび、彼女らしくもない悲鳴を連発する。

「とめっめ、とめてくれ~! わ、わたひは……こっこ、こーいうのが!」

「えっ、なんて? ブライトちゃん、よく聞こえないよ?」

「絶叫系はだめなんだあ~っ!」

 もはやエロスどころでもなかった。

 胸の谷間を擦られて『らめぇ』だの、スクール水着をヌルヌルにされて『らめなのぉ』だの、艶めかしい声が出てくる気配は一向にない。

「アントニウムと戦う時は、跳んだり跳ねたりしてなかった?」

「それとこれとは……こっ、この、お腹に来るのが! ひゃああ~!」

 前か後ろに揺れるたび、お腹の中で圧力が抜けるのを感じた。この感覚のせいでユニゾンブライトは竦みあがってしまい、翻弄される。

「もう少しだけ我慢して! なんとかブレーキを掛けてみるから」

 彼女のお尻に掴まりながら、『僕』は振り子の動きに逆らおうとした。しかしかえって反動をつけ、グラインドは勢いを増す。

 前にギューンと行ったら。

「ひょあはあ~!」

 後ろにもギューンと。

「ろめっ、と、とめてくれ~!」

 そんな状況にもかかわらず、『僕』のモモモは元気だった。今夜は水抜き穴からタ〇マ二等兵まで動員して、ブライトの、スクール水着のお尻にじゃれつく。

(やばいやばいやばい!)

 このセクハラはアウトだろう。そう直感し、『僕』は股間を後ろへ下げた。

 だが、そのせいで『僕』のタ〇マ二等兵がレーンロープと接触。レーンロープの継ぎ目が上手い具合にソレをかちあげる。

 たまらず『僕』は表情を強面のオッサン風に力ませた。

「あが、が……ッ?」

 ダメージは金的のものに近い。変身していなければ、失神していた。

 その痛みと同時に、お腹から圧力が抜ける。おかげで堪えるに堪えられず、『僕』のビーストは限界を迎えそうになった。

 当然、『僕』自身はそれどころではない。

「ア~~~ッ!」

「ヒィーヤーーーッ!」

 『僕』もブライトも絶叫しながら、宙へ放り投げられる。

「はいはーい。こっちや、こっち」

 チャームが魔法で受け止めてくれたものの、ユニゾンブライトは白目を剥いていた。

 彼女の背中に被さるように倒れ、『僕』はエクスプロードをやらかす。

「ひょはあっ?」

「いきなり変な声出さんといてえや。……イったわけ?」

 想像を絶するほどの戦いだった。同人誌は超えた気がする。

「あっと、ごめんな! アニメ始まってまう~!」

 チャームは不意に血相を変え、『僕』らの介抱もせずに逃げていった。

「……そっか。アニメって深夜にやってるも……お、おおお……?」

 背後から異様なプレッシャーを二重に感じ、『僕』はぎくりと顔を強張らせる。

 恐る恐る振り返ると、とても笑顔の素敵なお姉様がたがいた。

「てっきりブライトを説得してるものと思ったら……な、あ、に? これは」

「信じられない……同じ星装少女をオモチャにするなんて」

 ユニゾンカラットとユニゾンジュエル。

 何しろユニゾンブライトは拘束状態で押さえつけられているうえ、『僕』は丸出し。誰がどう見ても、『僕』が無理やりブライトを襲った形になる。

「ち、違うんだよ? 闇堕ちが……」

「言い訳しないのっ!」

 翌日は水を入れ替えるため、プールの授業は中止となった。

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