第166話

 アントニウム出現の前兆を掴んで、『僕』たちは夏の夜空へ。

 ただし『僕』は今回も闇堕ちバージョンで変身してしまったため、後方にまわった。ユニゾンチャームが先行し、次元サークルの座標を捕捉する。

「見つけたで! ……って、みんな、どないしたん?」

 ところがユニゾンカラットやジュエル、ブライトは飛行もままならず、歩道橋の上に着地せざるを得なかった。

「だめだわ……力が出ないのよ、私……!」

「こいつのせいだ。これが私たちのパワーを……うぐっ?」

 闇堕ちの際に『僕』が彼女らに嵌めた首輪が、邪悪なエネルギーを発する。

 それは星装少女のパワーを吸い取り、『僕』へと供給していた。すぐさまメグメグが分析し、予想はしていたらしい結論を語る。

『やっぱりね。ユニゾンダイヤは首輪を通して、あなたたちの位相魔力に干渉しちゃってるのよ。変身したところで、肝心のパワーは丸ごと奪われるってわけ』

「ええと……それって?」

「要はドレインってことやな」

 首輪のないユニゾンチャームだけはけろっとしていた。

 記憶にはないものの、『僕』はアントニウム五体分の力を我が物にしたうえ、その圧倒的なパワーでユニゾンカラットたちを殲滅してしまったという。ジュエルやダイヤも善戦虚しく敗れ、『僕』に首輪を嵌められた。

 ジュエルやダイヤは首輪を押さえながら苦悶する。

「これじゃあ、私もカラットも戦えない……?」

「まずいぞ! はあ、もうアントニウムが出てくるというのに」

 一方で、チャームは暢気に夜空を仰いだ。

「大丈夫やない? そんだけダイヤが強ぅなってるんやし」

「来るよ! みんな!」

 ついに次元サークルが広がり、異界のアントニウムをこちらの世界へ解き放つ。

(僕がやらなくっちゃ!)

 ミョルニールを構え、『僕』は果敢に飛び出した。

「ダイヤっ? ひとりなんて無茶は……」

 カラットの制止に耳も貸さず、ユニゾンチャームとともにアントニウムを囲む。

「いくでっ! プリズムバレッジ!」

チャームの魔法が弾幕となって敵の動きを止めた。その間に『僕』は距離を詰め、アントニウムの脳天にミョルニールの強烈な一撃を叩き込む。

「沈んじゃえっ!」

 思った以上の出力だった。闇堕ち仕様のミョルニールでなければ、耐えられなかったかもしれない。その一発がアントニウムの巨体をかじり取るようにぶち抜く。

 一瞬にして決着がついてしまった。

 今になって『僕』たちに気付いた街の皆も、唖然とする。

「な、なあ……あれ、ユニゾンダイヤだろ?」

「あの怪物よ! でも……もうやっつけちゃったの?」

 ジュエルやダイヤでさえ目を見張った。

「た、たった一撃で……」

「すごいな……私たちの出る幕がないぞ」

 ひとまず『僕』たちはL女学院の秘密基地まで帰還することに。

 司令室ではちょうど、メグメグが本部との通信を終えたところだった。

「ご苦労様。さっきの戦闘データは今、こっちで精査中よ。……まあ、アントニウムの消滅は確認できたし、任務は達成ってとこかしら」

 モニターの映像が切り替わり、七課のミルミルが出てくる。

『ブライトとチャームもそこにいまして? 今しがた、本部との協議で今後の方針が決まりましたの。当面はユニゾンダイヤを主軸に作戦を立てよ、とのことですわ』

「そう来たか……予想はしてたんだが」

 ユニゾンカラットとジュエル、ダイヤの三名は戦える状態ではなかった。

その一方で『僕』は闇堕ちしてしまったとはいえ、桁外れのパワーを有している。

『ユニゾンチャーム、あなたはダイヤをフォローして差しあげなさい』

「はーい。ウチひとりじゃ、あんなの勝てへんしな~」

 この状況でアントニウムを撃退するのは、『僕』の火力を活用するのがベストだった。

 そもそも彼女らの変身自体が『僕』の支配下にある。先日のようにスクール水着だけ変身させられたり、逆に変身を解除できないというパターンもあった。

 ブライトは無念そうな面持ちで溜息をつく。

「この首輪が外れるまでの我慢だな」

「……わかったよ。街を守るためだもん」

 こうなっては『僕』も後方支援などと言っていられなかった。

 カラットが心配そうに『僕』の顔を覗き込む。

「でも、本当に平気なの? 闇堕ちって邪悪な力なんでしょ? あなた自身にも絶対、何らかの負担があるはずよ」

「私もそう思うわ。楽観視しちゃだめ」

 闇堕ちの経験があるからこそ、ジュエルも慎重に徹した。

 いわば今の『僕』はアストレア・ワンへと食み出した、魔王の一部。アントニウムを撃退する分には有効でも、ほかに災厄をもたらさない、などという保証はなかった。

 すでにL女学院は『僕』の影響を受け始めている。

一拍の間を置き、メグメグが嘆息した。

「……はあ。それについても、さっき方針が固まったわ。これを見て」

 モニターにグラフや数値やらが映し出される。

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