第164話

 あえて『僕』はふたりを抱き寄せ、スクール水着の背中を撫でる。

「実はそのっ、ぼ、僕たち……こっ、交際してるんだ」

 屋内プールに驚きの声が反響した。

「えええ~っ!」

 さらに四葉のほうからも『僕』にしがみつき、恋仲をアピールする。

「そ、そうなの。ダブル婚約しちゃったのよ、ね? 茉莉花」

「う……うん。そういうわけだから、悪いけど……みんなは遠慮してくれると……」

 茉莉花も相槌を打って、自分の巨乳越しに『僕』に抱きついた。

 まさかの交際宣言で、おまけに堂々と二股。それでも女子生徒たちは諦めようとせず、口々に不満の声をあげる。

「いきなり『付き合ってます』って言われても……ねえ?」

「王子様は私たちを拒んだりしなかったもん。オーケーってことじゃない?」

 ハーレム交際より二股交際のほうがまだ、『僕』には常識的に思えた。しかし女子一同を納得させるには、見せかけの抱擁だけでは押しが弱いらしい。

 不意に心臓がどくんと跳ねる。

(うっ? まただ……そ、それより、もっとアピールしなきゃ)

 『僕』をリードしていたはずの四葉と茉莉花が、急に声を上擦らせた。

「んああっ? こ、こらぁ」

「あ……やっ、だめ! そんなとこぉ……!」

 敏感そうにのけぞり、スクール水着の身体を打ち震わせる。

(え? ……うわっ、うわあぁ?)

 いつの間にやら『僕』の手は彼女らのお腹の側へ潜り込んでいた。びしょ濡れのスクール水着越しにおへそをなぞり、さらに下へ。

 フトモモの付け根に指を添え、スクール水着の股布をすりすりと撫でる。

(ぎゃ~~~っ!)

 感触どころではなかった。

四葉も茉莉花も『僕』の勝手な悪戯に眉を顰める。

「ふぅん? そーよねえ……恋人だもの。コ、イ、ビ、ト」

「ふたり一遍にだなんて、きみも欲張りね」

 濃厚なイチャイチャを目の当たりにして、生徒たちもようやく勢いを止めた。

「ひゃあっ! ど……どこまで?」

「だめでしょ、それ以上は……あっ? そこはぁ」

『僕』の悪戯から逃れようと、四葉と茉莉花が腰をくねらせる。しかし傍目には甘えるような仕草で、ピンク色のムードが蔓延しつつあった。

 四葉と茉莉花が同時に『僕』の頬を抓る。

「いい加減にしなさいっ!」

「あだっ、だ?」

 ぎりぎりのプレイを経て、ずぶ濡れの身体も温まってきた。『僕』はふたりのお姉さんを侍らせながら、水泳の指導を再開する。

「そ、それじゃあ、あと25メートル! ちゃんと泳ぐんだぞー」

「は~い!」

 コーチとしての指示には、皆も素直に従ってくれた。この時間もやっとプールの授業らしくなり、『僕』はほっとする。

「……で? いつまで抱き締めちゃってくれてるの?」

 しかし四葉と茉莉花に睨まれ、またも緊張。

「で、でもこうしてないと……みんながくっついてくるから、その……」

「そういうことにしておいてあげる。だったら……もっと」

 ところが茉莉花は頬を染め、おずおずと『僕』の手を取った。自分の腰へと導き、『僕』にしっかりと抱擁させる。

「ちょ、ちょっと? 私だって……」

 対抗して、四葉も『僕』の手を引っ張り寄せた。

 おかげで『僕』はスクール水着のお姉さんを両脇に抱え、独り占め。ただし『僕』も女子用のスクール水着では格好がつかない。

(や、やばいぞ? これ!)

 もちろん男の子の部分はビーストと化していた。スクール水着のもっこりを見せるわけにも行かず、『僕』は四葉たちと一緒にプールへ飛び込む。 

「きゃっ? んもう……びっくりするじゃない」

「でも、私たちも課題の分は泳がないと」

 冷たいプールの中にもかかわらず、熱いものが込みあげてきた。

(この感覚……そっか、興奮するせいで闇堕ちが……!)

 自我は保てるものの、魔力の発動を抑えきれない。

「あ? しまった!」

『僕』の手が俄かに光を放ち、授業中の女子生徒は誰もが目を眩ませた。

「きゃあ! なんなの、これ?」

「太陽が……もうすぐお昼だから、でしょ」

間もなく光は消え、何事もなかったようにプールの水面が揺らめく。

(……あれ?)

 『僕』や女子たちにこれといった変化はなかった。

「別に何も……って、茉莉花! その水着、どうしたの?」

「え? あ、あなたこそ……!」

 ただ、四葉と茉莉花のスクール水着だけ色が真っ白に。一点の曇りもない綺麗なピュアホワイトに染まり、波と戯れる。

 ほかの女子もふたりの恰好に気付き始めた。

「四葉さん? そ、そんな恥ずかしい色したやつ、どこで買ったの?」

「恥ず……っ? 違うの、私が買ったんじゃなくって」

 四方八方から奇異の視線に晒されて、四葉の顔が赤らむ。

 茉莉花も『僕』の背中に隠れ、困惑した。

「いつの間に着替えたの? さっきまで普通の紺色だったのに」

「これは……あの」

 L女学院に限らず、スクール水着は紺色と相場が決まっていた。ところが四葉と茉莉花のスクール水着は純白で、濡れて透けるほどではないにせよ、大胆かつ隙だらけ。

 そんな風紀違反も著しい水着を眺め、女子生徒らは疑惑を深めた。

「もしかして、王子様をたぶらかそうとして……?」

「嘘でしょ? あの茉莉花さんが、こんな女の子だったなんて……」

 友達の多い四葉も、天才肌で知られる茉莉花も、真っ白なスクール水着のせいで誤解される羽目に。色仕掛けが目的で白いスクール水着を着たもの、とみなされる。

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