第160話

 いきなり空から現れた星装少女の姿に、皆は歓声をあげた。

「見て見て、ユニゾンダイヤ!」

「えっ、本物のほう? 見たい、見たい!」

 しかしC等部生は首を傾げ、『僕』ならではの顔立ちにはっとする。

「……あれ? ユニゾンダイヤじゃなくって……空組の王子じゃない?」

 心の中で『僕』は愕然とした。

(なんでっ? に、認識阻害の魔法が効いてない……?)

 ユニゾンヴァルキリーは変身の際、魔法で素性を隠す。おかげで友達や家族に顔をはっきりと見られても、正体がばれることはなかった。

 ところが今、その魔法が機能していない。『僕』は本物のユニゾンダイヤではなくユニゾンダイヤのコスプレイヤーとして、注目を集めてしまった。

「ほんとだ、王子! どうしたのー、それ?」

「似合ってる、似合ってるぅ!」

 女の子たちは『僕』のコスプレを歓迎する。

 部活中の生徒やK等部生も続々と集まってきた。

「へえ~、C等部の……でもユニゾンダイヤとは色が違ってない?」

「白色のスクール水着がなかったんじゃないの? 多分」

 後ろからも大勢の女の子が『僕』を眺める。

「私らもスクール水着だから、あんまり違和感ないかも? アハハッ!」

(どどっ、どうしよう? 僕、さっきから何やって……)

 認識阻害など、いつもなら無意識のうちに働いていた。そもそも認識阻害の魔法は変身の一部に組み込まれており、パッシブ(自動)で発動するようなもの。

 闇堕ちの影響か、おそらく位相魔力の構成が狂っている。

 そこへ別の星装少女が駆けつけた。

「離れろ、みんな! そのユニゾンダイヤは危ないぞ!」

 ユニゾンブライトの登場によって、ギャラリーのボルテージはますます高まる。

「こっちは本物だわ!」

「どういうこと? 向こうはコスプレなんでしょ?」

 ユニゾンブライトは脇目も振らず、魔剣グランヴェリアを呼び出した。闇堕ちした『僕』の力を察知して、暴走を食い止めるべく駆けつけたのだろう。

「わわっ? ちょ、ブライト?」

「動くなよ、ダイヤ! 力ずくで押さえ込む!」

 グランヴェリアが光り輝く。

 だが、ユニゾンブライトはそれを振るうことができなかった。黒い首輪が彼女の身体に暗黒の力をまとわりつかせて、パワーを根こそぎ吸収する。

「ぐうっ? ダイヤ、これを外してくれ!」

「そんなこと言われても……ぼ、僕が制御してるわけじゃ……」

 ユニゾンブライトは魔剣を落とし、がくっと膝をついた。女子生徒たちは何が起こったのか理解できず、うろたえる。

「ね、ねえ……なんか変じゃない? 王子も、ユニゾンブライトも……」

 これ以上は疑われる――ブライトに悪いと思いながらも、『僕』はその場を離れた。

「ごめん、ブライトちゃん!」

「あっ? 逃げちゃったわよ! 王子」

 ギャラリーの間を駆け抜けて、L女学院の出口を目指す。

「ゴー・ファイ・ウィン! ゴー・ファイ・ウィン!」

 ところが、その道中で今度はK等部のチア部と出くわしてしまった。四葉と茉莉花がフトモモを上げ、ミニスカートを翻す。

「――ッ!」

 そのスカートの中にスクール水着を見つけた瞬間、電流が走った。

 衝撃波が広がり、抵抗力のない部員を薙ぎ倒す。

「えっ? 急にどうし……ちょっと、ダイヤ?」

「だめよ、四葉! 近づかないで!」

 四葉が『僕』に駆け寄ろうとするのを、茉莉花が制止した。ほかの部員は暗黒の波動をもろに受け、失神してしまう。

 憧れのお姉さんたちのチア、そして紺色のスクール水着。

「もう我慢できないよ、僕! はあっ……はぁはぁ!」

 とうとう理性のブレーキがへし折れ、『僕』は堂々とモモモを取り出す。

 白昼堂々のオニャニャーに四葉も茉莉花も赤面した。

「ややっ、やだ! こんなとこで……なっ、何やってるのよ? ダイヤ!」

「闇堕ちのせいで……? いや、こ、こっちに向けないで……!」

 ふたりとも動揺しているのか、動こうとしない。

 お姉さんならではの、大人びた困惑と羞恥の表情も『僕』をそそった。

「もうらめ……ア~~~ッ!」

 力強く生命力を放って、『僕』は尻餅をつくように虚脱する。

 スクール水着が白色となり、我を取り戻した時には、何もかもが遅かった。

「……あ、あれ? も……もしかして、僕……」

 ユニゾンダイヤこと『僕』は今、発射のポーズでお日様を浴びている。

「……………」

四葉と茉莉花は絶句し、『僕』以上に放心してしまった。

さらにはユニゾンブライトがギャラリーを引き連れ、追ってくる。

「無事か、四葉! 茉莉花……ききっ、きゃあああぁ?」

 気丈な彼女とは思えない悲鳴が木霊した。

『僕』のモモモを目の当たりにして、さしものブライトも真っ赤になる。

「どっどど、ど……? おとっ、おと……男の子だったのか? おぉ、お前は……」

 女子生徒たちも次々と『僕』のスクール水着を覗き込んだ。しかし悲鳴ではなく歓声をあげ、楽しそうにはしゃぐ。

「きゃあ~! 大事件よ、大事件っ!」

「男の子だったわけ? ユニゾンダイヤのコスプレまでしちゃって~!」

 この日、L女学院に真性の変態が迷い込んだという。

(お、終わった……)

 彼は美少女戦士のコスプレで現れた挙句、女子生徒の前で露出。我慢できずにオニャニャーまで披露し、男子禁制のL女学院に波乱を巻き起こすのだった。

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