第155話

 ユニゾンヴァルキリー全滅の報が飛び交い、世間に激震が走った。

 ユニゾンダイヤが独断専行に走るアニメの展開とごっちゃにもなって、憶測や誤解も蔓延している。ついには原作サイドが注意喚起を促す、異例の事態となった。

「――というわけよ。わかった?」

 L女学院の地下にある秘密基地で、『僕』はメグメグの尋問を受ける。

「ねえ……メグメグ。なんで、そんな檻の中にいるの?」

「あなたが閉じ込めたんじゃないっ! 昨夜!」

 ところが司令官のメグメグは檻の中。

 しかも同じところにもう一匹、ヌイグルミが監禁されていた。

「よくもわたくしまで巻き込んで……絶対に許しませんことよ? メグメグ!」

「耳元で大声出さないでったら、もう」

 これがリージョンダイバーズ第七課の司令、ミルミルとのこと。昨夜『僕』が無理やり捕まえてしまったらしい。

(僕が……ほんとに?)

 ユニゾンカラット、ユニゾンジュエル、ユニゾンブライトの三人は黒い首輪を嵌められ、うなだれていた。ただ、ユニゾンチャームだけは何の拘束も課せられてない。

「感謝してやー、みんな。後片付けはウチがやっといてあげたんやで」

「ひとりだけさっさと逃げたくせに……」

 メグメグとミルミルは至近距離で火花を散らした。

「そっちが独断で進めようとするから、こうなったのよ? どう責任取るつもり?」

「あなたがわたくしの話を聞きまして? 本部からも秘密裏に、という任務でしたの!」

 今日でもう何度目かの取っ組み合いが始まる。

 カラットとブライトの溜息が重なった。

「いい加減にしてったら、メグメグ。それより説明して」

「ミルミルも隠し事はなしだぞ」

 『僕』のバトルユニフォームは真っ黒に染まっており、異質な力を感じる。

「昨夜、何があったの?」

「……わかったわ。わたしが話してあげる」

 ようやくメグメグの口が開いた。

 リージョンダイバーズは当初、今回の件をさほど危険視していなかった。しかしニブルヘイム・スリーで魔王が眠っていることが発覚し、事態は急変。

 六課だけでは手に負えないと踏んで、七課を投入する。

 また、七課は本部から秘密の指令を受けていた。六課に悟られることなくアントニウムを殲滅し、魔王の欠片を回収せよ、と。

「魔王の欠片……?」

「アントニウムのコアですわ。あれは魔王の一部らしいんですの」

 真相に耳を傾けながらも、カラットは疑問符を浮かべた。

「でも、どうして私たちには内緒で?」

「そ、それは……」

「私がいるからよ。多分」

 メグメグに代わって、ジュエルが声を落とす。

「闇堕ちの経験があるから、私を魔王の欠片に近づけたくなかった……でしょう?」

「その通りでしてよ。ですけど、それは万が一のことを考えて……」

 すでに任務に当たっていた六課では、リスク高かった。そこで本部は七課に魔王の欠片の回収を指示、ブライトとチャームの登場に至ったという。

 ところが『僕』たちはアントニウム、ひいては魔王にまんまと裏をかかれ、次元の狭間へ誘い込まれてしまった。

 そこで『僕』が初めてミョルニールを呼び出した――そこまでは憶えている。

「えぇと……ひょっとして、僕がやっつけちゃったとか?」

 メグメグのやけに重たい溜息が落ちた。

「……いいえ。その時の状況は、こっちでは確認できてないんだけど」

「確かにお前は土壇場で位相魔力の構成を書き換え、飛躍的なパワーアップを果たしたんだ。しかし、なんと説明したものか……」

 この雰囲気の中でもチャームはあっけらかんと言ってのける。

「要するにダイヤは蛇口を開いただけでぇ、肝心の水がなかったんや。んで、そこらじゅうのパワーを水にしようとして、吸収……がぶ飲みしてもーたわけ」

 『僕』自身、よくわからなかった。

 ただ、『僕』のパワーアップには重大な欠陥があったらしい。そのためにアントリウムのパワーもろとも、おそらく魔王の欠片まで取り込んでしまった。

 メグメグが心配そうに『僕』を見詰める。

「言ってしまえば、今のあなたは魔王の一部……本来はプラスの力で戦うはずが、マイナスの力に順応して、一気に闇堕ちしちゃったのよ」

「や、闇堕ち……」

 だんだんと『僕』にも事情が飲み込めてきた。

 『僕』はパワーアップに失敗し、暗黒の力で暴走してしまったのだ。そしてカラットたちに首輪を嵌めたうえ、メグメグとミルミルを檻の中へ閉じ込めた。

「ガッコーでも何かやったっぽいで? 憶えてへん?」

「う~ん……だめだ、全然」

 昨夜はやたらと高揚していた――それだけは記憶にある。

「あなたは闇堕ちして、好き放題に暴れたのよ。ひとまず落ち着いたみたいだけど」

 幸いにして暴走は昨夜のうちに収まり、小康状態で安定してくれた。『僕』の身体は健康そのもので、むしろ肩が軽いほどに思える。

「これって、ちゃんと治るのかな?」

「難しいかも……でも、決して不可能じゃないわ。でしょ? ジュエル」

「ええ……」

 闇堕ち経験者のジュエルは自分のことのように語気を強めた。

「ただ、いつまた暴走するとも知れない。邪悪なことに惹かれたりしないように、しっかり心掛けたほうがいいわ」

「そ、そうなんだ?」

 経験者の言葉だけに不安になってくる。

 そんな『僕』をカラットは明るい声で励ましてくれた。

「気負うことあらへんて、ダイヤ。別段、邪悪な心がなかったから、今回はこの程度で済んだとも考えられるやん? なあ」

「一理あるな。チャームだと、今頃どうなってたことか……」

「ちょっとぉ? ウチをなんやと思ってるん?」

 気休めとはいえ、少しは胸も楽になる。

つまり今の『僕』は時限爆弾みたいなもの。かの魔王の一部となり、アストレア・ワンに災厄をもたらしつつある。

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