第154話

 その時、脳裏でメグメグの言葉が蘇った。

『もっとなりきるの。なりきりなさいったら、ユニゾンヴァルキリーに!』

 アニメのユニゾンダイヤとは性別からして違う。だからといって、『僕』はずっとユニゾンダイヤであることを拒んできた。

 『僕』が星装少女のパワーを出しきれないのは、そのため。

「そうだ……ぼ、僕だって! 星装少女なんだぞ!」

 仲間を助けたい。街を守りたい――その気持ちが『僕』の羞恥心を吹き飛ばし、ユニゾンダイヤとしての覚醒をもたらす。

 スクール水着が輝いた。

「ダイヤっ? まさか……この土壇場で?」

 絶体絶命のピンチの中、カラットは声を弾ませる。

 しかしジュエルとブライトは逆に戦慄した。

「……いけない! 位相魔力をコントロールできてないわ!」

「まずいぞ! あれでは私たちのパワーまで……いや」

 アントニウムの群れが苦しげに呻きだす。

「この力……これなら僕だって!」

「ストップや! ダイヤ、肝心の魔力があらへんのに、そんな開いたら……!」

 チャームの警告に構ってなどいられなかった。『僕』はアニメと同じハンマー、ミョルニールを初めて実体化させる。

(ちゃんと出たぞ! あとは思いきり……あ、あれ?)

 ところが攻撃に転じるまでもなかった。アントニウムの巨体は次々と萎んで、コアを露出させる。そのコアもひとりでに亀裂が入り、砕けてしまった。

「……ウッ?」

 どす黒いものが『僕』の中から込みあげてくる。

「聖域は使えるか? ジュエル!」

「それなら私のほうが得意よ! 任せて!」

 ユニゾンブライトやユニゾンカラットは血相を変え、『僕』のもとへ飛んできた。

 ジュエルとチャームも『僕』を囲んで、星装少女のパワーを励起させる。

「ど、どうしたの? みんな……」

「自覚ないんか? あーもう、これは貸しやで?」

「私じゃ聖域の構築は……ごめんなさい、カラット……!」

 次の瞬間、心臓がどくんと跳ねた。

(――ッ?)

 『僕』のスクール水着だけ白色から紺色を通り越し、真っ黒に染まっていく。

 ジュエルは無念の表情で唇を噛んだ。

「昔の私と同じ……闇堕ち!」

「うっ、うわぁあ……わあああああっ?」

 邪悪なエネルギーが『僕』を中心にして爆ぜる。


 ユニゾンヴァルキリーたちが怪物とともに夜空に消えてから、十数分後。

 彼女らの帰還を迎え、住民は歓声をあげた。

「戻ってきたわ! ブライトとチャームもいるんじゃない? あれ」

「どれどれ? おっ、ほんとにアニメと同じじゃん!」

 しかし様子がおかしい。

 ひとり、またひとりと『仲間』の攻撃を受け、星装少女が街の中まで落下してくる。

「あううっ! み、みんな、逃げて……早く!」

「ユ、ユニゾンカラット? これは一体……」

 ユニゾンチャームは戦いを止め、一目散に逃げ出した。

「あんなのと付き合ってられへんって! ごめんな、ばいばーい!」

「こら、チャーム! 勝手に……ぐあ!」

 ブライトも撃墜され、地面でバウンドする。

 ユニゾンジュエルも武器を折られ、もはや成す術がなかった。

「はあ、はあ……アントニウム五体分どころじゃ……こ、この異常な強さは……?」

「おやすみ。ユニゾンジュエル」

 ダイヤのミョルニールをもろに受け、一直線に墜落する。

 ユニゾンヴァルキリー、まさかの全滅――。

しかも敵が『黒い星装少女』であることに、ひとびとは驚愕した。一方、ユニゾンダイヤはもぞもぞとスカートの中をまさぐり、恍惚の笑みを浮かべる。

「いいよぉ、これ……! ユニゾンヴァルキリーをやっつけるの、気持ちいいっ!」

 ギャラリーの中にはL女学院の生徒もいた。

 ダイヤは彼女の傍へ降り、その細い腕を強引に掴む。

「きゃっ? な、何を……」

「ほら、触ってみてよ。もうこんなになっちゃって……んはあ」

 ユニゾンダイヤのスカートの中へ手を引っ張り込まれ、女子生徒は目を点にした。

「……?」

 ほかの観衆はあとずさり、星装少女の奇行にたじろぐ。

「ど、どうしたんだ? ユニゾンダイヤが……なんで、いきなり仲間を?」

「コスチュームも真っ黒よ。なんだか悪者になったみたい……」

 さらにユニゾンダイヤは思いついたようにミョルニールを振りあげた。

「そぉーだ! パワーがあるうちにL女を僕好みの……くふふ! 急がなくっちゃ!」

 女子生徒の頬に口づけしてから、夜空へ消える。

 彼女は呆然と呟いた。

「……ついてたのって、あ、あれ……?」

 かくして大変な噂が広まることに。

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