第153話
街のひとびとが上空の激戦に気付いた。
「なんかいるぞ? ……うわあっ、怪物だ!」
「あっちはユニゾンヴァルキリーでしょ? 戦ってくれてるんだわ!」
星装少女のほうが苦戦中と知らず、どんどん集まってくる。声援が大きくなるにつれ、『僕』やカラットは青ざめた。
(まずいぞ……あんなのを相手しながら、みんなを守るなんて……)
にもかかわらず、ブライトは凛然と剣を構える。
「六課は素人か? 戦うなら、ほかに場所があるだろう。……やれ、チャーム!」
「はいはーい。位相反転や!」
チャームが指を弾くと、次元サークルが青白い電流に巻かれた。
「みんなであっちへダイブするで!」
「え? これって……」
ふたつの世界の境界線がぐにゃりと歪む。次元サークルを経て、『僕』たちもアントニウムもまったく別の次元へ転送されてしまった。
「ど、どういう……わわっ?」
『僕』が足場にしていたビルは消え、落ちそうになる。
「危ない!」
「……ありがと、カラットちゃん」
間一髪、ユニゾンカラットが『僕』を拾いあげてくれた。この異様な空間では浮遊ないし飛行していなくてはならないらしい。
夜空の星を何十倍にも増やしたかのような光景が、『僕』らを包み込む。
メグメグと交信しようにも繋がらなかった。
「応答してよ、メグメグ! 変なところに来ちゃって……」
「慌てるな。リージョンとリージョンの狭間……そう言えば、わかるだろう?」
ブライトの端的な説明にジュエルは頷く。
「アントニウムが通ってきた道ってことね。なるほど」
「流されたりするなよ? どこのリージョンに飛ばされるか、わからんぞ」
アストレア・ワンとニブルヘイム・スリーの狭間――それがこの次元の正体だった。
下手をすれば、『僕』たちは時空の彼方へ飛ばされてしまう恐れがある。しかし、ここでなら街の防衛に四苦八苦することもなかった。
「でも攻撃はどうするのよ? あいつは、こっちのパターンを……」
「分析されてるのは、お前たちの位相構成だろう? 私とチャームには関係ない」
アントニウムがたっぷりとエネルギーを溜め、熱線をばらまく。
だが、それはチャームが一瞬にして相殺してしまった。
「残念でした~! そう来ると思ってたで」
「あとは私たちに任せろ。行くぞ、グランヴェリア!」
ユニゾンブライトは前傾姿勢で魔剣グランヴェリアを構える。
魔剣の柄が展開し、エネルギーをバーニアのように噴かせた。その反動でユニゾンチャームの突撃に加速を掛ける。
「食らえ! メギドスマッシュ!」
アントニウムの障壁はガラスのように砕け、木っ端微塵になった。
ユニゾンブライトの一撃は本体をも貫通し、コアをぶち抜く。
「終わりだ」
カラットもジュエルも驚きのあまり言葉を失った。
「……うそ、でしょ………?」
「どうや? これからは七課の時代かもな、なーんちゃって」
チャームの勝利宣言など耳に入らず、『僕』も成り行きに呆然とする。
ユニゾンブライトは悠々と胸を張った。
「仮に解析されようと、私くらいのパワーがあれば問題ない。……さて、戻るか」
ところが――『僕』は反射的に声を張りあげる。
「まだだよ、ブライト! アントニウムが!」
「な……なんだと?」
四方から星々の波を越え、続々と新たなアントニウムが現れたのだ。さしものチャームも仰天し、宙でひっくり返った。
「ちょっ、ちょっと待ってえな? これって……」
「待ち伏せされてたんだ、僕たちは!」
悪魔の群れが『僕』らを取り囲む。
敵はブライトの予想さえ上まわってしまった。
アストレア・ワンへの次元サークルは狭いため、一体ずつしか通れない。そのおかげで『僕』たちは今まで、各個撃破で対応することができた。だが、今回は『僕』たちが次元サークルを越え、アントニウムの領域に踏み込んでいる。
「まずいわよ! さすがにこの数を一度になんて……ジュエル!」
「ええ、逃げるしかない。けど……!」
アストレア・ワンへ逃げるには、再び次元サークルを通るほかなかった。ただし、それはアントニウムをアストレア・ワンへ誘導するも同じこと。一体くらいなら総攻撃で仕留められるかもしれないが、街の真っ只中で戦う羽目になる。
最悪、次元サークルを閉じ損ね、アントニウムの群れをアストレア・ワンに解き放ってしまう懸念もあった。安易な逃走は大惨事を招く。
「ここでやるぞ、お前たち! 手を貸せ!」
「どうしようもなくなったら、次元サークルを閉じるしかなさそうね」
ユニゾンブライトとユニゾンジュエルは覚悟を決め、果敢に打って出た。ユニゾンカラットとユニゾンチャームも射撃で援護する。
「どーすんのぉ? ウチもブライトも、パワーは半分くらい残ってへんで!」
「集中して! ひとり一体ずつ倒せば、勝てるはずよ!」
アントニウムは全部で五体。
しかし一対一で対応したくても、まともに戦える星装少女がひとり足りなかった。
「だ、だめだ……このままじゃ……!」
サポート面を得手とする『僕』では、とても抑えきれない。せいぜい障壁で時間を稼ぐ程度で、アントニウムにじりじりと追い込まれる。
「今行くわ、ダイヤ!」
「こいつ……! はあっ、邪魔しないで!」
『僕』の窮地を察し、カラットとジュエルが駆けつけようとしてくれた。しかしアントニウムを捌ききれず、また焦りは大きな隙を生む。
「あうっ?」
「あ、カラットちゃん!」
徐々に『僕』たちは足並みを乱していった。
ユニゾンブライトはスタンドプレーに走るばかりで、フォローをしない。
「何をやってる! ジュエル、そいつはお前の担当だぞ?」
「ダイヤが持たないの! 急がないと!」
ユニゾンチャームは前方のアントニウムを牽制しつつ、次元サークルへ近づいていく。
「上手いこと逃げるしかないで! すぐに閉じてもうたら……」
「だ、だめよ! よく見て!」
アントニウム五体分の波動を受け、次元サークルは崩壊の兆しを見せ始めた。
このままでは出口がなくなる――のではなく、穴が空く。
そうなったら最後、五体のアントニウムはアストレア・ワンに雪崩れ込むだろう。U市のみならず、世界中が大混乱に陥る。
(僕のせいで……!)
自責の念が込みあげてきた。
せめて『僕』が星装少女として充分に戦えていれば。アントニウムの一体くらい足止めできていれば、まだチャンスはあったはずなのに。
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