第152話

 その夜、緊急出動の要請が入る。

『あなたの言った通りよ、ダイヤ! たった今、位相の変動をキャッチしたわ!』

「わかったよ。みんなとは司令部で?」

『ううん、現地集合にしましょ。あなたも現場へ直行して!』

 急いで『僕』はスクール水着に着替え、ユニゾンダイヤに変身した。

 ブーツに羽根をつけ、一足で夜空へ飛びあがる。

(紫苑の……いや、七課の出現予測が当たったんだ)

 『僕』はまだ四葉や茉莉花のように飛行はできなかった。跳躍を繰り返し、強引に空を駆け抜けていく。

 出現ポイントではすでにカラットとジュエルがスタンバイしていた。

「これで揃ったわね。メグメグ、聞こえる?」

『ええ。市民が集まる前にケリをつけるのよ、みんな』

 ギャラリーが多いほど、防衛も難しくなる。

しかし今やユニゾンヴァルキリーは大人気。アニメと同じ壮絶なバトルを期待して、戦闘中にもかかわらず、ファンは集まってくる傾向にあった。

彼らの持つ『星装少女のイメージ』こそが力になるとはいえ、リスクが高すぎる。

『いっそ、みんなも逃げ出すようなヒーローだったら、よかったんだけど……』

「そんなパターンがあるの?」

『バーバリアン戦記とか……き、来たわ!』

 夜空で突然、波動が広がった。雲は押しのけられ、金色の月が輝く。

「出たわね……!」

 ユニゾンカラットとユニゾンジュエルが構え、上空を見上げた。

 次元サークルが浮かび、アントニウムの巨体を吐き出す。

「一気に決める……手伝って、カラット」

「オッケー! 私は右にまわるから、左をお願い!」

 ふたりの星装少女は阿吽の呼吸で先制攻撃に打って出た。まだアントニウムが魔方陣を通りきらないうちに、ジュエルがライオットソードで怒涛の連撃を叩き込む。

「ソニックモード! はあああッ!」

 同じタイミングでカラットもアントニウムに仕掛けた。

 両翼のビットを連射しつつ、エーテルブラストをチャージ。しっかりと狙いをつけたうえで、渾身の一撃を放つ。

「全力全開っ! フォーリンシュート!」

『その調子よ! ふたりとも、このまま押しきっちゃって!』

 ユニゾンヴァルキリーの優勢にメグメグの声も弾んだ。

『僕』は街の上空に煙幕を張り、ひとびとの視界を遮っておく。

「これで時間稼ぎくらいは……あれ? ジュエルちゃん?」

 ジュエルが急に攻撃を止めてしまった。

「何か変よ。手応えがないわ」

「先制攻撃が効いたんじゃないの? ……え?」

 カラットは追撃を仕掛けようとするも、アントニウムの巨体が膨張を始める。

「そいつはフェイクだ、騙されるな! 本体は後ろにいるぞ!」

 突然、上からユニゾンブライトが降ってきた。

チャームも宙返りで姿を現す。

「あっちは知ってるっぽいで? 六課の戦法ってやつ」

 出現したところを一気呵成に攻撃――それが『僕』たち六課の戦法だった。街への被害を最小限に抑えるためにも、この作戦は理に適っている。

 だが、今回はアントニウムに読まれていたらしい。

「まさか……?」

 カラットとジュエルが攻撃していたのは、形だけの偽物だった。同じ魔方陣から次こそアントニウムが現れ、夜空に咆哮を轟かせる。

『しまったわ! あいつ、こっちの奇襲をやり過ごすために……』

 衝撃波が波紋のように広がった。

「う――うわあっ?」

「きゃああ!」

 スクール水着の防壁で凌いだと思いきや、『僕』たちは一遍に弾き飛ばされる。

 一方、ブライトやチャームは衝撃波に煽られる程度で踏み留まった。

「やつはお前たちのフィールドを解析済みなんだ」

「なんですって? じゃあ……」

 カラットは何かを察するも、ジュエルはすぐさま復帰し、反撃に転じる。

「次はないわ。撃たれる前に、仕留める!」

 ライオットソードが強力なエネルギーをまとった。

(茉莉花ちゃんらしくないぞ? こんなふうに焦るなんて)

 跳躍で勢いをつけ、アントリウムの巨体に十字斬りをぶつける。

「ソニックモード、クロスアタック……なっ?」

 だが、渾身の一撃をもってしてもアントリウムの障壁は砕けなかった。

(この前のやつは、あれで割れたはずなのに……そうか!)

 思いもよらない苦戦に『僕』ははっとする。

「ジュエルちゃん! 攻撃も防御もユニゾンの位相がパターン化してるのを、あいつは知ってるんだ! 気をつけて!」

「せやから、さっきブライトが解析済みって言うたやん? も~」

 さしものジュエルも後退し、悔しそうに歯噛みした。

「気をつけろって言われても……これじゃあ、攻撃ができないじゃないの」

「学習能力があるってこと? メグメグはそんなこと、一言も……」

 アントニウムの衝撃波によって煙幕が晴れる。

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