第147話

 『僕』だけ年下でC等部のため、授業中は味方がいない。

 とりわけ体育の時間は、着替えからして困った。最初のうちはトイレで着替えたりしていたものの、クラスメートには怪しまれるわけで。

 女の子は下着だけになると、仲間の発育ぶりをチェックしたがる傾向にある。

「あんた、またおっきくなったんじゃないの? ほれほれ~」

「ちょ、薫子? くすぐったいってば!」

 仮に触られようものなら、『僕』の性別は一発でばれかねなかった。

(こっちには来ませんように……来ませんように……!)

 そんな『僕』の事情など露知らず、脱がせ魔の薫子さんは酷薄な笑みを浮かべる。

「もう二ヵ月だし、そろそろ王子のボディーチェックも……ひひひ」

(ヒイーッ!)

 ぞっと怖気がした。

 しかし隣の友達が『僕』を庇ってくれる。

「こらこら。そーいうの嫌がる子もいるんだから、ねえ?」

「う、うん……僕はちょっと」

 おかげで脱がせ魔も諦め、両方の手を引っ込めた。

「ちぇっ。スキンシップのつもりなのに~」

 体操着で念入りに前を隠しながら、『僕』はほっと安堵する。

 だが、これは序の口に過ぎなかった。L女学院の体操着は、よりによってブルマ。

(やっぱりやばいぞ、これ?)

 もちろん『僕』だけブルマの中央がもっこりと膨らむ。

 それを隠すためにも、上の体操着は一番大きなサイズを選んだ。男子のブルマなどという醜悪な危険地帯は、その裾でひた隠しにする。

「王子の体操着、大きすぎない?」

「間違えて買っちゃって……」

 いつものことながら、体育は授業が始まるまでが綱渡りだった。

(冬ならジャージも許可って話だけど……)

 季節は初夏。梅雨の真っ只中で、外では雨が降っている。

「体育館の中は涼しくっていいわねー」

「こらこら。喋ってないで、ちゃんとパスの練習!」

 それなりに冷房が効いているとはいえ、大きめの体操着では蒸し暑くなってきた。

(ブラまで着けてるんだもん。夏場は大変なんだなあ、女の子って……)

 しかし共感とは裏腹に興味も湧く。

 何しろクラスの女子は今、紺色のブルマをお尻に食い込ませていた。あの薫子女史に至っては、ブルマから下着が食み出していることに気付いていない。

 あられもないフトモモが艶やかに照り返って、『僕』の目を眩ませる。

(そういやユニゾンヴァルキリーにもブルマのシーンがあったっけ)

 アニメでも希少になりつつある、魅惑の紺色。

 などとウツツを抜かしていると、真正面からバレーボールが飛んできた。

「おわぶっ?」

 『僕』は爪先で一回転し、ふらふらと倒れ込む。

「王子~ 大丈夫?」

「ちょっ、ちょっと? しっかりして!」

 その拍子に掴んだものが、ゴムのように伸びた。『僕』は顔をあげ、引っ張ってしまっているモノの正体に愕然とする。

「へ? ……わわっ、ごめんなさい! そんなつもりじゃ!」

 いつの間にやら『僕』の右手はクラスメートのブルマに掴まっていた。ブルマはUの字に伸び、ショーツのお尻が半ばまで露出する。

(ブルマ、パンツ……ブルマは紺色で、水色のは……奈々ちゃんのパンツ……?)

 俄かに鼻の奥が熱くなってきた。

 やがて授業も一段落し、体育教師がまとめに入る。

「梅雨が明けたら、プールだからね。各自、スクール水着を用意しておくように」

「えええっ?」

 思わず『僕』は声をあげてしまった。

 教師は不思議そうに首を傾げる。

「……あぁ、あなたは前の学校の水着でいいわよ? 今年の夏だけのために、今から買うのもあれでしょうし、許可は出してあげるから」

「は、はあ……」

 まだ『ブルマ』で体育のほうがハードルも低かった。

 いずれ『僕』は女子用のスクール水着を着て、禁断の女子校のプールへ――。

(へっ、へへ……変態だ~っ!)

 純情可憐なユニゾンダイヤからますますかけ離れていくのは、わかった。

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