第146話

 ユニゾンブライトとユニゾンチャームの『本物』が現れたことで、世間は大騒ぎ。

「新しい星装少女だって! アニメとおんなじキャラ!」

「聞いた、聞いた! 敵か味方かって感じのでしょ」

 奇しくもアニメのほうでも、ふたりは新キャラとして輝かしく登場したばかりだった。アニメのスタッフもまさかの嬉しい事態に狂喜しているとか。

「アニメの情報収集はあなたの担当でしょ? 王子。あいつらのこと載ってない?」

「メグメグまで僕をそう呼ぶわけ?」

 地下の秘密基地にて、『僕』はメグメグと一緒にアニメ雑誌に目を通す。

 ユニゾンジュエルをスピード重視の連続攻撃タイプとするなら、ユニゾンブライトは一撃に重きを置く一点突破型のタイプ。また『グランヴェリア』の形態を変えることで、射撃に徹することもできるらしい。

「ブレードモードとアローモードかあ……ちょっとジュエルの星装に似てるね」

「パクリよ、パクリ! こっちが先なのに~」

「……メグメグ? どっちもアニメをもとにしてるんだからさ」

そしてユニゾンチャームは広範囲の殲滅力において、他者の追随を許さなかった。雑誌でも魔法戦に特化したタイプと綴られている。

なおユニゾンカラットはバランス型で、『僕』のユニゾンダイヤはサポート型。

ただし『僕』たちはまだ星装少女の力を完全には引き出せずにいた。四葉や茉莉花のコスプレ(なりきり)では原作と差異があるためだ。

実際のところ、カラットもジュエルも『超必殺技』を使えなかった。

 『僕』の脳裏に閃きが走る。

「つまりブライトとチャームはキャラになりきって、僕らと敵対を?」

 メグメグが舌を巻いた。

「なるほど……冴えてるわね、ダイヤ。確かに原作を踏襲するなら、考えられるかも」

 おそらくブライトとチャームはあえて『僕』たちと競合の立場を取り、原作に忠実なキャラクターを演じようとしている。敵か、味方か――共闘が実現せずとも、アニメの展開通りであれば、皆も納得するはず。

 メグメグの溜息が落ちた。

「そろそろ、あなたたちも次のステップを目指すべきね」

「次のって?」

「決まってるじゃない。もっとアニメのキャラに『なりきる』のよ!」

 星装少女ユニゾンヴァルキリーになりきること。それが『僕』たちがパワーアップを果たすために必要な手段だった。

「四葉ちゃんも茉莉花ちゃんも、昔は上手にやってたんでしょ?」

「魔法少女プリティー&キュートね。どっちもハマってたわ」

カラット(四葉)はまだまだ照れが残っており、ジュエル(茉莉花)もコスプレには否定的。容姿の面は基準をクリアしているものの、中身が伴っていない。

最近はアントニウムも強力な個体が現れ始め、予断を許さない状況が続いた。ユニゾンブライトとユニゾンチャームの件を抜きにしても、『僕』らの強化は急務だろう。

「なりきれって言われても……アニメはまだ途中なのに?」

「アクションのほうは大分、再現できるんだけど……必殺技は撃てないわね」

 それでもカラットとジュエルにはまだ改善の余地があった。

 ただし『僕』だけは事情が違いすぎる。

「男子の僕はどうすればいいのかな? ダイヤになりきれって言われても……その」

 何しろアニメのキャラクターとは性別からして一致しなかった。にもかかわらずL女学院に放り込まれ、女の子としての生活を強要される日々。

しかし実際は女の子に馴染むどころか、余計に自分は男なのだと意識させられた。例えばヘアスタイルの話題にしても、黙るほかなくなる。

(生理のこともわかんないし……)

 四葉は『僕』の背中を叩きながら、気楽に太鼓判を押した。

「大丈夫だってば。だって、クラスメートにも疑われてないんでしょ?」

「それもいつバレちゃうか、わかんないんだよ?」

 茉莉花も『僕』にケータイを見せつけ、口を揃える。

「こんなお菓子を作ってるくらいだから。きみはちゃんと女の子らしいわ」

「褒めてるの? それ」

 お菓子作りは『僕』の数少ない特技のひとつ。実家が洋菓子店のおかげで、幼い頃から色んなケーキを焼いたりしていた。

「また王子くんのお店でお茶会しないとね、メグメグ~」

「賛成! 私、食べたいケーキがあるのよ」

 六課の司令は任務などそっちのけで涎を垂れる。

 それを茉莉花が窘めた。

「あとにして、ふたりとも。とにかく私たちもキャラになりきって、生活しましょ」

「だったらユニゾンジュエルも決めポーズくらい、研究しときなさいったら」

「う。わ、私よりユニゾンダイヤのほうが……」

 しかしメグメグに痛いところを突かれ、矛先を『僕』に向けてくる。

「あのアニメは、ファンのきみが一番詳しいんだから」

「善処します……」

 お姉様がたのコスプレを拝見するためにも、『僕』自身のコスプレが要求される――L女学院での生活はまだまだ荒れそうだった。

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