第145話

 一方で、『僕』やカラットは呆然とする。

「ブライトって……あ、あの、ジュエルとやりあってた……?」

「チャームの技は範囲が広いんだ! カラットちゃん、フィールドを全開に!」

 原作アニメに詳しい『僕』だからこそ先読みできた。

 ユニゾンチャームが大量の魔法弾をばらまく。

「行っくでぇ? プリズムバレッジぃ~!」

 アントニウムの片方は続々と魔法弾を浴びせられ、ついには身体中で誘爆を始めた。

「私もぼやぼやしてられないな。グランヴェリア、ブレードモード!」

 ユニゾンブライトは自前の弓を剣の形態に変え、突撃する。

「もらったッ! メギドスマッシュ!」

 もう一体のアントニウムは脳天から真っ二つにされてしまった。

 次元サークルが砕け、一帯の時空間は正常化する。

「すごいわ! ユニゾンブライト」

「ユニゾンチャームも強いんだなあ! アニメだと、これから活躍すんのかな?」

 ひとびとは新たな星装少女に酔いしれた。

「騒々しいな……場所を変えるぞ。ついてこい」

「ま、待ちなさい!」

 ブライトたちを追いかけ、ひとまず『僕』らも現場を離れる。

 手頃な廃ビルの屋上にて、五人のユニゾンヴァルキリーが一同に介した。ユニゾンブライトとユニゾンチャームの見目姿には、カラットやジュエルも目を見張る。

「ほ、ほんとにブライトだわ……そっちのチャームも、完璧なコスプレ……!」

「コスプレじゃない。本物だ」

「え~? コスプレやないの、ウチら」

 不愛想なブライトとは対照的に、チャームはおどける調子だった。ぱっちりとつぶらな瞳を瞬かせて、カラットやジュエル、そしてダイヤの『僕』を値踏みする。

「ふぅーん? そっちの再現度もなかなか……でも、ダイヤのコスだけ違ってへん? スカートはないはずやで」

「これはその……」

 この面子では『僕』だけがスカートでスクール水着のデルタを隠していた。

(見せられるわけないよ、こんなの!)

 もちろん『僕』のような思春期の男子が、魅惑の水着姿を前にして健全でいられるはずもない。さっきからモモモが突っ張って苦しい。

「茶化すな、チャーム」

「はぁーい」

 改めてブライトが口を開いた。

「私たちは第七課のユニゾンヴァルキリーなのさ」

「そーそー。メグメグんとこの六課が頼りないからってぇ、駆り出されたんや」

リージョンダイバーズにはいくつものチームが存在する。今回のアストレア・ワンとニブルヘイム・スリーの案件は、メグメグの六課で対応していた。

 まんまと手柄を掠め取られたジュエルが、ブライトと火花を散らす。

「私たちが頼りない……ですって?」

「だろう? あの程度のアントニウムも圧倒できないようでは、な」

「そ、それは! みんなの避難を優先したからで……」

 カラットの言う通り、『僕』たちはあくまで民間人の保護を優先した。六課の司令官であるメグメグもそう指示している。

「一気呵成に倒す力がないから……と、私には聞こえるが?」

「うっ。で、でも……」

 図星を突かれ、カラットは悔しそうに口を噤んだ。

 険悪なムードになり、『僕』が割り込む。

「待ってよ! ブライトとチャームも同じ星装少女なんでしょ? 仲間じゃないか」

 アントニウムの脅威に対抗できる、新たな美少女戦士たち。それは歓迎すべきことで、少なくとも『僕』は期待に胸を膨らませた。

「これからは一緒に戦えばさ。ね? カラットちゃん」

「ま、まあ……戦力は充実するかしら」

 けれどもブライトは背を向ける。

「悪いが、私たちは勝手にやらせてもらう。話はそれだけだ」

 ブライトを追って、チャームもくるっとターンした。

「そーいうこと。邪魔はせえへんから、安心しーなあ~」

「ま、待って!」

 カラットの制止に耳を貸さず、ふたりの星装少女は夕空へ消える。

 メグメグから通信が入った。

『七課の星装少女だなんて、どういうつもりよ? 部長を問い詰めてやるわっ!』

「け、けど向こうもユニゾンヴァルキリーだよ? 悪いことには……」

 『僕』は望みを抱くも、ジュエルは乗ってこない。

「わからないわよ。何かあるのかも」

 星装少女のリアルな戦いには暗雲が立ち込めつつあった。


 その後はL女学院の基地へ帰還。

 本日のトレーニングは中止となり、『僕』たちは司令室へと招集された。

「これからミーティングよ? ダイヤ。あとで着替えたら?」

「す、すぐに行くから!」

 しかし『僕』は直行せず、男子用(自分用)の更衣室へ飛び込む。

「……はあっ! き、きつかった……」

 やっとモモモを解放することができた。スクール水着の水抜き穴に通せば、珍妙な露出になってしまうものの、防壁の圧迫感からは逃れられる。

 心ならずもぞくぞくしてしまった。

(星装少女のコスプレまでして、僕……こんなにしちゃって……!)

 何を隠そう、『僕』は前々から『星装少女ユニゾンヴァルキリー』の大ファンだった。

 憧れのお姉さんである四葉や茉莉花がユニゾンヴァルキリーに扮するからこそ、L女学院での女装生活を受け入れてまで、行動をともにしている。

 可愛いユニゾンカラットが好き。凛々しいユニゾンジュエルも大好き。

 当然、アニメ化の以前から『お世話』になっていた。

「たまんないよ……あんなカッコで、本物のカラットとジュエルが……しかもブライトとチャームまで出てくるなんて……最高!」

 モモモを握り締め、『僕』は誰にも内緒のオニャニャーに励む。

「はぁはぁ! ア~~~ッ!」

 これが『僕』の日課。

罪悪感に駆られながらも、任務のあとは欠かせなかった。

 こんな『僕』に正義の変身ヒロインが務まるはずもない。それでも『僕』はユニゾンヴァルキリーの一員として戦い続けている。

 今のところは――。

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