第144話

U市で異常が多発するのは、ニブルヘイム・スリーとの境界線がこの街に掛かっているせいだった。リージョンダイバーズはここに防衛ラインを敷き、星の動きからアントニウムの出現を予測、及び対応する。

 幸い、異界とのチャンネルが繋がることは、日中には滅多になかった。それは星の位置が関係するためで、星の見えない昼間は、次元サークルの開く条件が揃いにくい。

 しかし少なからず例外は存在し、今日のような下校時間帯に発生することもあった。空が明るいだけで星はあるからと、リージョンダイバーズは結論づけている。

 メグメグの声が届いた。

『そのあたりよ。もうじき次元サークルが出てくるわ』

「先にみんなを避難させなくっちゃ!」

 ユニゾンカラットは直情的な性格で、考えるより先に行動に出る。だからこそリーダーシップを発揮し、『僕』やジュエルを牽引してくれた。

 一方でユニゾンジュエルは冷静沈着に状況を分析し、合理的な手段を取る。

「一旦分かれましょう。街のひとを誘導したら、五分後に合流するの」

「そうね。頼りにしてるわよ、ジュエル、ダイヤ!」

 ふたりは阿吽の呼吸で次の行動を始め、『僕』だけが出遅れた。

「ぼ、僕も行かなくっちゃ」

 アントニウムの襲撃に先んじて、住民の避難誘導に努める。

「もうすぐ戦闘が始まります! みなさん、急いで離れてください!」

 にもかかわらず、ひとびとは星装少女の登場に沸き立ち、逃げようとしなかった。むしろ喜々として集まり、『僕』にカメラを向ける。

「なあ! あれってユニゾンヴァルキリーじゃね?」

「ユニゾンダイヤだ! ママ、本物のユニゾンダイヤだよ!」

 魔法で認識阻害の障壁を張っているため、映像に残ることはなかった。しかし避難してくれないことには、『僕』らも全力で戦えない。

 メグメグの声が響く。

『まずいわ! シュワルツシルトの崩壊が予想より……出てくるわよ!』

 街の上空に突如、次元サークルが広がった。

 その中から異界の悪魔が現れ、おぞましい雄叫びを轟かせる。

「きっ……きゃあああ!」

「うわあああ! バ、バケモンだ!」

 やっとひとびとは逃げ出すも、アントニウムに背中を晒してしまった。

 ユニゾンダイヤとして『僕』は間に割って入り、力いっぱいフィールドを展開する。

「させないぞ!」

 アントニウムが熱線をばらまいた。

 が、かろうじて『僕』の防壁が間に合い、市民は事なきを得る。

「カラットちゃん、ジュエルちゃん! 僕が守ってるうちに」

「そ、それが……」

 ところが足止めされているのは、『僕』だけではなかった。通信を介して、ユニゾンカラットのほうからも焦った様子が伝わってくる。

「こっちも防御で手がいっぱいなのよ! ジュエル、なんとかならない?」

「踏ん張ってて、カラット、ダイヤ。私がやるわ」

 幸いにしてジュエルが動いてくれた。

 ライオットソードに乗って滑空しつつ、アントニウムの側面へまわり込む。

「ソニックモード! 手間は掛けてられない、これで……!」

 ユニゾンジュエルの二刀流が閃光を走らせた。一閃、また一閃と回数を増やすごとに、インターバルは短くなり、怒涛のラッシュへもつれ込む。

 しかし星装少女が華麗に活躍すればするほど、市民の避難は遅れた。

「チャンスだよ、ユニゾンジュエル! あの必殺技で!」

「あんな怪物、早くやっつけて~!」

 人気アニメの影響が、この状況では悪いほうに働く。

 ひとびとはアントニウムとの交戦をイベント企画のように受け止める傾向にあった。そのせいで避難誘導に従ってくれず、『僕』たちは攻撃に専念できない。

 俄かにメグメグの声色が変わった。

『まさかっ? ……最悪だわ! ダイヤ、もっと離れて!』

「え? 最悪って……」

 さらなる脅威を目の当たりにして、『僕』も戦慄する。

 U市の夕空に次元サークルがもうひとつ浮かびあがったのだ。そこから新たなアントニウムが出現し、身の毛のよだつような咆哮をあげる。

「二体同時っ? 私とダイヤは動けないのよ?」

『と、とにかく民間人の保護を優先して!』

 最初の一体もまだ倒れていない。

 一転して『僕』たちは窮地に立たされてしまった。ユニゾンジュエルは善戦するも、二体のアントニウムに挟撃され、攻撃より回避のほうが多くなる。

「くっ! アニメと同じ超必殺技が使えたら……!」

 『僕』の脳裏にひとつの作戦がよぎった。

(わざとみんなを怖がらせて、走らせるとか?)

 住民の保護が必要なくなれば、『僕』とカラットも攻撃に参加できる。

 しかし彼らの応援ないしイメージがあってこそ、『僕』たちは星装少女ならではの力と技を行使できた。安易にひとびとを怖がらせては、本来のパワーを発揮できない。

『万事休すってやつ……?』

 その瞬間、二体目のアントニウムが奇襲に晒された。背中のほうで爆発が起こる。

「……なんなの?」

「え? ジュエルがやったんでしょ?」

 ユニゾンジュエルも動揺し、攻撃の手を止めそうになった。

「今だよ、ジュエルちゃん!」

「え、ええ!」

 しかし『僕』の声もあって、すぐさま一体目を仕留めに掛かる。

「ライオットソード! ソニックモード!」

 二刀流の乱舞が矢継ぎ早に眩い閃光を炸裂させた。

 だが、とどめには横から別の攻撃が加わる。アントニウムは弾幕に晒され、全身に無数の魔法弾を浴びた。

「図体だけやねー、コイツも」

「遊ぶな、チャーム。次で決めるぞ」

 『僕』たちではない、ふたりの星装少女がアントニウムを取り囲む。

「で……出たあ! ユニゾンブライトだ!」

「ユニゾンチャームもいるわ! 先週出てきたばっかりなのに?」

 アニメでもお馴染みの新キャラクター、ユニゾンブライトとユニゾンチャーム。まさかの登場にひとびとは歓声をあげた。

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