第143話

 なぜなら、ここもリージョン(異界)のひとつだからだ。この世界には数々のリージョンが並行して存在していた。

 普通は余所のリージョンを知覚、認識することはできない。同じ座標の上にあっても、リージョンは決して互いに交わることなく生きている。

 そのはずが事故などによって、まれに繋がってしまうことがあった。

 『僕』たちのリージョン『アストレア・ワン』は、暗黒のリージョン『ニブルヘイム・スリー』と繋がり、危機的な状態にある。

 そういった危機に対応すべく活動しているのが、メグメグの所属するリージョンダイバーズ。メグメグは第六課の司令官を務めている。

「で? 四葉と茉莉花はどうしたのよ」

「部活が一段落したら、来るって」

「もうっ! 世界の平和とポンポン部のどっちが大切なわけ?」

 けれどもメグメグは外見がヌイグルミで、中身はお子様。

(自分はお菓子のほうが大事なくせに……)

とてもお偉い役人とは思えなかった。

 アストレア・ワンはニブルヘイム・スリーの影響を受け、アントニウムというモンスターの脅威に晒されている。

 これに対応するため、メグメグ司令は『僕』たちのアンストレア・ワンへ。

そして素質のある者に力を与え、ユニゾンヴァルキリーへと覚醒させた。

「お待たせ~!」

 地下の秘密基地へ四葉と茉莉花も降りてくる。

「着替えてきたの? あとで部活に戻るんじゃ……」

「その頃にはもう終わってるでしょ。だ、か、らぁ……んふふ」

 『僕』の前で四葉は制服のスカートを捲り、紺色の三角形を見せびらかした。

「わっ? ……な、なんだ。スクール水着じゃないか」

「ね? 準備万端なの」

「そうやって、からかわないで」

 さっきと同じ台詞で茉莉花は四葉を諫める。

 これで星装少女のレギュラーが揃った。

 四葉はユニゾンカラットに、茉莉花はユニゾンジュエルに変身する。そして『僕』は男子でありながら、ユニゾンダイヤを担当していた。

「さあ、こっちで訓練よ。特にダイヤは気合を入れなさい?」

「そんなこと言われたって……また、あの恰好で?」

 『僕』たちは例のアニメの設定通り、スクール水着でなくては戦えない。

 リージョンダイバーズの力は強力無比ではあるものの、それを引き出すには明確なイメージを必要とした。ただし、そのイメージは個人的なものでは不十分。

 大勢の人間が共通認識として持つほどの『強者のイメージ』が、『僕』たちに同等の力を与えてくれるのだ。

 かつての戦士は歴史上の人物になりきって、活躍したという。

 そこでメグメグは今回、『星装少女ユニゾンヴァルキリー』に目をつけた。

そして戦士として素質があり、かつ星装少女のイメージに近しい者を選出した結果、四葉や茉莉花、それから『僕』も選ばれている。

「四葉ちゃんたちは慣れてるんだろーけど……コスプレ」

「そういうわけじゃないったら。前はほら、まだ小学生だったし?」

四葉と茉莉花は五年前にも同様の案件に巻き込まれたらしい。その時は女児向けの人気アニメ『魔法少女プリティー&キュート』をモチーフにして戦ったとか。

「あの頃は不思議に思ったりしなかったけど、今は私も……」

「そうよね……K等部生にもなって変身ごっこだもの」

かくして『僕』たちはアニメさながらの『星装少女』となった。

ただひとつ――『僕』の性別を除いて。

「ねえ、茉莉花。先週の放送でダイヤが着てたの、王子クンにも着せてみない?」

「面白そうね。王子くんが着たいっていうなら、それで」

K等部生で先輩のふたりに対して、『僕』は今日も頭が上がらなかった。

「お手柔らかにお願いします……」

「ちゃあんと可愛くしてあげるから。ねっ、茉莉花」

「ええ」

 長らく運命をともにしてきただけあって、四葉と茉莉花はツーカーで通じあえる。

 ところが、これでも五年前は敵同士だった。『僕』は詳しく知らないが、茉莉花の暴走を四葉が食い止めた、とメグメグから聞いている。

「それじゃあ、着替えて訓練ね」

「うん。僕も……」

「きみはあっちの更衣室でしょ? 男の子」

 とりあえず『僕』は別で更衣室に入り、スクール水着に着替えた。

 L女学院指定の水着なのだから当然、女の子用。『僕』が着用すると、上はまだしも、下は学院の風紀から逸脱してしまう。

(女の子の水着なんて……これじゃ僕、変態だぞ?)

 見苦しいので、特別にスカートで隠すことが許されていた。

 四葉や茉莉花も着替えを済ませて、メグメグの司令室へ戻ってくる。

「これ一枚だと、さすがに恥ずかしいわね」

「ユニゾンしてしまえば、私も割りきれるんだけど……」

 ふたりともK等部生の水準を軽く超え、抜群のプロポーションを誇った。名実ともに星装少女となったことで、アニメの設定がスタイルにも反映されたのだろう。

 それこそアニメでしかお目に掛かれない爆乳が、紺色のスクール水着を圧迫する。

スクール水着の薄生地は後ろでお尻にもみっちりと食い込んだ。

(うっ? しまった……まただよ)

 おかげで『僕』のスクール水着も一部が苦しくなる。

 司令官のメグメグは満足そうに頷いた。

「うんうん! それじゃトレーニングを始めるわよ。まずは実戦形式で……」

 ところが、そのタイミングでアラームが鳴り響く。

「っ! アントニウムのお出ましね」

 メグメグとともに『僕』たちも正面のモニターを見上げた。

「魔力の収束を確認! 二十分後に次元サークルが開くわ」

「規模はどうなの?」

「C級……今のあなたたちなら、苦戦はしないはずよ」

 出撃の時が来る。

 司令室にメグメグの号令が響き渡った。

「星装少女ユニゾンヴァルキリー、出撃よ! ちゃんとアニメみたいに変身しなさい!」

 アニメを踏襲すればするほど、『僕』たちは力を発揮することができる。

 本物の変身ヒロインなのに、原動力はコスプレ――疑問は拭いきれなかった。

「いくわよ、ふたりとも! ユニゾン・エンゲージ!」

 四葉が星装の力と同調(ユニゾン)しつつ、とっておきのバンクシーンに入る。聖なる光が彼女を包み込んで、スクール水着を輝くような純白に染めあげた。

 裾の短いセーラー服が巨乳に重なり、中央でリボンを結ぶ。

 グローブに続いてシューズも瞬く間に生成され、四肢の動きに星を添えた。

 スクール水着のサイドから透明のパレオが伸び、お尻をくすぐる。正面は開け、スクール水着のデルタは丸見えとなった。

「ユニゾンカラット、華麗に参上! なんてね」

 茉莉花も細部に差異をつけながらも、ユニゾンジュエルに変身を遂げる。

「ユニゾン完了。王子くん……ダイヤは?」

「な、なんとか……」

 ただ、『僕』のコスチュームは正面にスカートが追加された。

 変身するとスクール水着が魔法障壁を張るせいか、フィット感が高まる。おかげでモモモが圧迫され、苦しくてならなかった。

 勃起しようものなら、最悪の事態にも――。

(変なこと考えるなよ? 僕……平常心、平常心……)

 準備を終え、『僕』たちはL女学院の上空へテレポート。

「ユニゾンヴァルキリー、ゴー・ファイ・ウィン!」

 そこから一直線に現場へ向け、戦闘機のような勢いで出撃する。

『そっちじゃないわよ! バカ!』

「え? ……あっ、ごめん」

 どうにもアニメのようには行かなかった。

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