第141話 作中劇『星装少女ユニゾンヴァルキリー』

 異界との交信――それは古来より秘密裏に研究が積み重ねられてきた。

 時に錬金術、占星術と姿や名前を変えながらも、それは存在する。そして今、この世界はある『交信』によって異界と繋がりつつあった。

 夜は星々の力が強くなる。だからこそ、魔導の力も最大限の威力を発揮した。

 突如として夜空に巨大な次元サークルが浮かび、怪しい光を放つ。

「シュワルツシルト、崩壊……来るわよ!」

「概ね予想の通りね」

 魔方陣を境として、『こちら』の夜空へ禍々しい怪物が身を乗り出してきた。悪魔のような羽根を広げ、奇声を轟かせる。

 その名をアントニウム。

「C級ってところ? あれくらいなら、私とジュエルで」

「油断はしないで。カラット」

 そして、対するのはうら若い美少女戦士たち。

 星装少女ユニゾンヴァルキリー。――『僕』を含め、彼女らはそう呼ばれた。

「街のほうは僕に任せて! ふたりは一気にあいつを」

「了解!」

 ユニゾンカラットが時計塔から飛び降りる。

「エーテルブラスト、リバレート!」

 ロッドの先端が展開し、宝玉をせりあがらせた。エネルギーが噴出しつつ、さながら翼のごとくはためいて、ユニゾンカラットを夜空へと運ぶ。

「……ライオットソード、ダイバーモード!」

 ユニゾンジュエルもサーフィンの要領で大型の剣に乗り、猛然と風を切った。

 ふたりの美少女戦士がアントニウムの巨体へどんどん距離を詰めていく。悪魔が気付いた時には、ユニゾンカラットの先制攻撃が決まった。

「このまま押しきってあげるっ!」

 両翼にビット(支援機)を呼び出し、ともに一斉射撃を仕掛ける。

 アントニウムはまだ次元サークルに胴が使え、動けない。そこを狙って、ユニゾンジュエルも奇襲に打って出た。

「ライオットソード、ソニックモード。……これで!」

 大剣を二本に分離させての、鮮やかな二刀流。

 すれ違いざまに連撃を放ち、アントニウムの巨体を切り刻む。

 さしもの悪魔も星装少女らの猛攻をもろに受け、苦悶した。苦し紛れに暗黒魔法の炎をばらまくも、そこは後衛のユニゾンダイヤ――『僕』が見逃しはしない。

「フィールド全開っ! ふたりとも、今のうちに!」

「オッケー! やるわよ、ジュエル!」

 カラットとジュエルは頷きあうと、再び攻撃の体勢に入った。

 アントニウムに挟み撃ちを仕掛け、先にジュエルがライオットソードを唸らせる。

「この程度の障壁、問題ないわ。カラット、あとはお願いね」

 悪魔の耐魔導フィールドに亀裂が走った。

 そこに目掛けて、カラットが渾身の波動を放つ。

「エーテルブラスト……最・大・出・力! フォーリンシュート!」

 ユニゾンカラットの一撃は障壁もろともアントニウムの巨体を貫いた。聖なるエネルギーが勢い任せに悪魔のコアを消し飛ばす。

「仕事は終わったわ。引きあげましょ、カラット、ダイヤ」

「そんなに急がなくっても、まだギャラリーも少ないんだし……ねえ?」

 真夜中とはいえ、上空の激戦をひとびとは少なからず目撃していた。噂の美少女戦士を見つけ、口々に歓声をあげる。

「やっぱりユニゾンヴァルキリーだ! 本物だよ、あれ!」

「もうやっつけちゃったの? すっごーい!」

 ケータイのカメラを向けられるのも、いつものこと。

 それを魔法でシャットアウトするのは『僕』の役目だった。

「認識阻害は掛けてるけど、念のため顔は見せないでね。カラットちゃん」

「わかってるってば。ジュエルには言わないの? ダイヤくん」

 そんな『僕』もれっきとした『美少女戦士』で、ユニゾンヴァルキリーの一員。

「まだ慣れないの? その恰好……」

「慣れるわけないよっ!」

 なのに真っ白なスクール水着は女子用だった。


 今週も『星装少女ユニゾンヴァルキリー』の放送は好評を博する。

 いわゆる変身ヒロインものの定番として、今や『星装少女ユニゾンヴァルキリー』は不動の地位を確立しつつあった。毎月のようにアニメ雑誌の表紙を飾り、ファンも多い。

 凛々しくも可愛いヒロインたち、練り込まれたSF設定、大河にも引けを取らない重厚なストーリー。美少女ものだからと敬遠していた層も、徐々に『星装少女ユニゾンヴァルキリー』の虜となっていった。

「私はユニゾンカラットかな? 百合にはちょっと腹黒いとこが、逆に新鮮でー」

「ジュエルだよ、ユニゾンジュエル! カッコよすぎるじゃん」

「ユニゾンダイヤじゃないの? 守ってあげたくなる感じが、さあ」

 フィギュアはもちろん、星装武具のプラモデルまで発売され、その人気は留まるところを知らない。先日はアニメの二期も決定し、さらなる盛りあがりを見せていた。

 ところが大人気作『星装少女ユニゾンヴァルキリー』に、常識では考えられないような転機が訪れる。

 なんと『本物の星装少女』が現れたのだ。

 彼女らはアニメと同じ姿で登場し、八面六臂の大活躍。瞬く間に一世を風靡し、『星装少女ユニゾンヴァルキリー』をアニメ界の覇権へと導いてしまった。

 名門と名高いL女学院も『星装少女ユニゾンヴァルキリー』の話題で持ちきり。

「昨夜も出たんだって! ユニゾンヴァルキリー」

「いつもこのへんに出てくるよね。あの、えぇと……アントーム? ってやつも」

 もとは男性向けのアニメのはずが、美少女戦士の実在を皮切りとして、女性にも広く受けている。今となってはむしろ女性人気のほうが高いかもしれない。

 それもそのはず、ブームを作るのは『女性』であることが多々あった。何より女性ファンを味方につけることが、昨今では重要視されつつある。

 ただし『星装少女ユニゾンヴァルキリー』はもともとお色気アニメの要素も多分に含んでいるため、大きな問題があった。変身コスチュームがスクール水着なのだ。

 しかも白色というエロゲー仕様。

 そのせいで、コスプレ方面にはどうしても規制が掛かった。アニメの二期はスパッツに変更されるのでは、などという憶測も流れている。

 にもかかわらず、『本物』は純白のスクール水着で登場した。

「あの水着ってさあ、うちのガッコのって噂だけど……」

「じゃあじゃあ! ユニゾンヴァルキリーの正体って、L女の女子だったりするわけ?」

 スクール水着で勇敢に戦う美少女戦士、ユニゾンヴァルキリー。

 彼女らの活躍は今、皆の注目を集めている。

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