第130話
煩悩を振り切るためにも、変身することに。
「……あれ?」
そのつもりが、『僕』の身体には何の変化もなかった。
もう一度やってみるも、50センチ大のぬいぐるみに変身できない。ただ、何やら圧力のようなものを感じる。
(これはまさか……サイレス?)
サイレス(魔法封じ)で間違いなかった。
この風呂場を包むフィールドが、『僕』の魔法を完全に封じている。
そもそもマギシュヴェルトにおいて、男性は魔法の使用を禁じられていた。あくまで『僕』は修行のため、便宜を図ってもらっているに過ぎない。
当然『僕』の魔法は簡単に封じられるように、特殊な術式が仕組まれていた。母や妹なら、それこそ指先ひとつで『僕』を無力化できる。
(もしかして……)
美玖がさっきの復讐に来たのだろうか。
スモークガラスの向こう、脱衣所に妹らしい人影が入ってくる。そのシルエットが服を脱ぎ出すのを見て、『僕』は背筋を強張らせた。
(き、来ちゃった……!)
折れ戸を開け、スクール水着の女の子が無邪気な笑みを弾ませる。
アイマスク付きで。
「お、に、い、ちゃ、ん! えへへっ」
心の中で『僕』は悲鳴をあげた。
(あ~~~っ!)
嵌められた、と。これはキュートの罠だったのだ、と。
キュートは里緒奈たちに対抗心を燃やし、『僕』との関係を進展させたがっている。そして今日の昼、プリメを撮ることは済ませた。
もちろんキュートは美玖なのだから、『僕』とSHINYのメンバーが夜な夜なニャンニャンを繰り返していたことも知っているわけで。
お湯の中で素っ裸では、こちらは逃げるに逃げられない。
「ちょっ、キュート? お風呂! お風呂だから、あ、あとにして……」
対し、妹はスクール水着を着ている分、余裕があった。湯舟の囲いに手をつき、前のめりの姿勢で『僕』を覗き込む。
「だーめ。今夜はきゅーとがお兄ちゃんの背中、流してあげるの」
白い湯気に包まれながら、紺色の巨乳が弾んだ。
「ねえ……いいでしょ?」
いたいけなまなざしが『僕』の良心と罪悪感を直撃する。
(う……)
『僕』はごくりと喉を鳴らし、お風呂の中で視線を彷徨わせた。
「だ、だめだってば。こういうことは……」
「どうして? 里緒奈ちゃんや菜々留ちゃんとは何回もしてるのに?」
「そ、それは……その」
下手な言い訳で拒絶すれば、妹を傷つけてしまうだろう。かといって、受け入れるにはハードルが高すぎる。目の前の女の子は妹なのだから。
『兄妹だからだめ』とも言えなかった。それはキュートの正体を暴くも同じだ。
そもそも、どうして妹はここまで『僕』との関係に拘るのか。『僕』の中で天使と悪魔が意見を戦わせる。
天使「ここはハッキリ断って、美玖の目を覚まさせてやるんだ。
美玖は何か勘違いしてるだけ……そうだろう?」
悪魔「まあ待てよ。まだ向こうが恋愛対象にしてるって決まったわけじゃねえ。
菜々留や恋姫もそうだったろ」
天使「そ、それはそうかもしれないが……」
悪魔「な? 美玖は単に兄妹っぽいことがしたいだけさ。
お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ってみたい、ってなぁ。
それくらいなら、構わねえんじゃねえの?」
天使「う、うむ。それで美玖が満足してくれるなら、いいような気も……。
こっちのお風呂なら、邪魔も入らないだろうしね」
やはり今回も双方が同じ結論に達してしまった。
恐る恐る視線を正面に戻し、『僕』はキュートに確認を取る。
「せ、背中を流すだけ……だよね?」
「うんっ」
これだけ朗らかな妹が、いかがわしいことを考えているはずもなかった。
どこにでもいる幼い兄妹のように、一緒にお風呂に入りたいだけ。そう判断し、キュートを同じ湯舟に迎え入れる。
「じ、じゃあ……おいで? キュート」
「はぁーい」
キュートは洗面器でお湯を浴び、スクール水着をびっしょりと濡らした。むっちりとしたフトモモも無数の雫にまみれ、危うい色香を漂わせる。
(お、落ち着け……落ち着けっ?)
おかげで、『僕』はのぼせるまでもなく真っ赤になってしまった。
頭の中で『妹! 妹だから!』と繰り返しつつ、前屈みの姿勢で耐える。
「お邪魔しまぁーす」
キュートも一度は尻込みするものの、二度目で湯舟に身体を沈めてきた。『僕』に背中を向け、スクール水着のお尻で飛び込んでくる。
「はうっ!」
「え、なぁに? お兄ちゃん」
そんな『僕』にもたれ、妹は心地よさそうに吐息を色めかせた。
「んはあ……ふたりだと、ちょっと狭いね」
「そ、そうだね。うん」
お湯の中で妹の柔らかさを感じ、『僕』はどぎまぎする。
(だめだ、これ……もう抱き締めちゃいそうで……!)
後ろに下がろうにも、すでに湯舟の端だった。
しかもキュートが『僕』の手を引っ張り、抱っこの形を取らせる。
「お兄ちゃんはこう、でしょ? んもぅ」
(ひ~~~っ!)
薄生地越しに美玖の感触があった。お湯の中でも温かく、張りがあって柔らかい。
「――せ、背中っ!」
危機を察し、『僕』は悲鳴のような声をあげる。
これ以上の密着は耐えられそうになかった。
「ほっほら、せっかくだし? 背中流してもらおうかなあって……」
「いーよぉ。えへへ、きゅーとがキレイにしてあげる」
キュートは頷き、ようやく『僕』を座椅子の体勢から解放してくれる。
『僕』は腰にしっかりとタオルを巻いてから、湯舟を出た。キュートにはなるべく背中を向け、ビーストの存在だけは気取られないようにする。
背後でキュートがボディソープを手に取った。
「そ、れ、じゃ、あ……覚悟してね? お兄ちゃん」
「え?」
肩越しに振り向き、『僕』は目を見張る。
スクール水着にボディソープの原液を垂らしつつ、両手で満遍なくかき混ぜる妹。それを二回、三回と繰り返すうち、白濁がキュートの豊満な身体を包み込む。
そして健気な照れ笑いとともに、自ら巨乳を持ちあげ――。
「今夜はきゅーとがい~っぱい、お兄ちゃんをゴシゴシして、あ・げ・るっ」
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