第128話

(本気で言ってるの? あの美玖が……僕とそこまで?)

 キュートは躊躇いながらも、スクール水着の肩紐をずらし始めた。巨乳が多少のゆとりを得て、柔らかそうに弾む。

「ほらぁ……ね? お兄ちゃん。見つかっちゃうから早くぅ」

「じ、じゃあ……」

 その曲線には触れまいとハラハラしつつ、『僕』は彼女を後ろから抱き締めた。

 柔らかいうえ、甘い香りがする。腰の括れなど、力の加減を間違えると壊れそうだ。

「もっと強く抱き締めて? お兄ちゃん」

(限界なんだけどっ?)

 スクール水着のせいで問題だらけのツーショットになってしまう。

 キュートは震える手で筐体を操作し、カウントダウン。

「お兄ちゃんもちゃんと笑ってね?」

 ダブルピースが決まった。

 アイマスク越しでも恥ずかしそうな妹の表情と、挑発的なダブルピースのギャップが、『僕』のアグレッシブ・ビーストをそそる。

「も――もうおしまい!」

 たまらず『僕』はキュートの身体を、腕いっぱいの長さまで離した。

「きゃあっ?」

 その拍子にキュートはバランスを崩し、倒れ込む。

「ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」

 それを抱き起こそうとしたところで、シャッターを切られた。

 まだ回数が残っていたらしい。同時にむにゅうと柔らかい感触が、両手の中に。

「……………」

あろうことか『僕』がキュートの巨乳を、ナマで鷲掴みにする決定的瞬間が、ありありと浮かびあがる。

 大変な証拠写真が出来上がってしまった。

「おっおぉ、お兄ちゃんっ? 狙ってたんでしょ!」

「ち、違う! 本当に違うから!」

 全力で否定するものの、この感触は忘れられそうにない。



 寮へ帰ったあとは案の定、尋問が待っていた。

 もちろん、まさかおっぱいプリメを提出できるはずがない。『僕』は無難なツーショットだけを差し出し、誤魔化し通す。

 だが、おっぱいにばかり意識が向いてしまっていたのは、失敗だった。

 提出分のプリメを目の当たりにして、里緒奈が声を荒らげる。

「ちょっとぉ、Pクンっ? なんでキュートがスクール水着なんて着てるの?」

「エッ? あ……そ、それは!」

 当然、恋姫や菜々留も同じく追及してきた。

「ゲームセンターですよっ? ゲームセンター! そんなところで女の子に学校の水着着せたりして……どれだけ変態なんですか! P君!」

「あらかじめ着せておいたのよね? だったらキュートちゃんは一日中……」

 『僕』は狼狽し、言葉を噛む。

「いやそのっ! 僕が頼んだんじゃなくって、みっみ、じゃない、キュートが……」

「Pクンが指示したんでしょっ!」

 里緒奈たちは聞く耳を持たず、『僕』を変態と決めつけた。

「P君がプロデューサーの立場であの子に強要したんでしょうね、きっと。絶対」

「うっわぁー。そういえば、桃香さんにも似たようなこと……」

「キュートちゃんはPくんをちっとも警戒しないから。ナナル、心配だわ」

 三人の視線がじとっと『僕』をねめつける。

「プリメで……ふぅーん? 相手がスクール水着なら、誰でも抱き締めちゃうんだ?」

「ミキやシホも狙ってるのかもしれないわ。レンキたちで何とかしないと……」

「ナナルたちにはず~っとオアズケにしておいて……ねえ?」

 再び一斉射撃が始まらないうちに、『僕』はリビングをあとにした。

「じ、じゃあ僕はこれで……」

「むー」

 不自然なカニ歩きで廊下に逃げ、ほっと胸を撫でおろす。

(キュートのおっぱいを……なんてことが知られたら、殺されるよなあ)

 ぬいぐるみの姿でいる時よりも、緊張や動揺に制御が利かなかった。やはり感情が肉体の反応を伴うために、生々しく感じてしまうものらしい。

 カニ歩きの理由も実に情けなかった。

 てのひらには今も妹の柔らかさが残っている。

(ほんと柔らかかったなあ……じゃなくて!)

 おかげで『僕』は夕飯の時間まで、部屋で悶々と過ごす羽目になってしまった。

 しかしぬいぐるみに変身はせず、あえて人間の恰好で黙々と考え込む。

(こっちの姿で美玖に会ってみるか……)

 キュートは今日、人間の『僕』とデートをした。

 なら美玖のほうはどうか。デートの直後というタイミングで刺激すれば、何らかの動きを見せるかもしれない。

 やがて夕飯の頃合いになり、寮のメンバーはリビングへ集合。

「僕、今夜は実家のほうで錬金するから。お風呂もそっちで入るよ」

「そお? じゃあ、こっちのお風呂は片付けとくねー」

 ディナーを囲む頃には、里緒奈たちの機嫌も治っていた。

「レンキたちは宿題ね」

「ええ~? 今日学校で出たってやつ?」

「頑張りましょ、里緒奈ちゃん」

 メンバーと課題の分担を相談しつつ、菜々留が『僕』を一瞥する。

「ところでPくん、今夜は男の子のままなのね。そっちのほうがいいと思うわ」

「うん、まあ……変身しっ放しだと、感覚が狂いそうでさ」

 人間の『僕』は居住まいを正し、食事の手を進めた。

 ぬいぐるみではないため、恋姫も『僕』に向かって上目遣いになる。

「美玖はひとりで食べてるんでしょう? P君からも誘ってあげてください。その格好なら、美玖も聞いてくれると思いますから」

「そうかな? 声掛けとくよ」

 心なしか、里緒奈の振る舞いも普段と違って感じられた。さっきから妙に『僕』を意識して、背筋を伸ばそうとする。

「男の子のPクンと一緒にご飯って、新鮮かも……」

「ん? デートの時と同じでしょ?」

 何気なしに答えると、メンバーの表情は一転して苦々しくなった。

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