第127話
幸いにして三人とも事情を酌んでくれた。
しかし何やら不満げに『僕』たちのツーショットを一瞥し、シホが口を尖らせる。
「でも、ちょっとショックぅー。シホ、お兄さんのこと狙ってたのに……」
(あいてっ?)
キュートに思いきり爪先を踏みつけられてしまった。
「ええー? お兄さんにはミキが目ぇ付けてるんだってば」
(あだっ?)
二発目。
「相手がアイドルだと色々と我慢しなきゃ、でしょ? その時はマコが……なーんて」
(だからなんでっ?)
さらに三発目。
キュートは三人に見せつけるように、『僕』の左腕にひしと抱きつく。
「だーめっ! お兄ちゃんはきゅーとのなんだから」
「アハハ、冗談だってば」
「じゃあね~。キュートちゃん、お兄さん」
水泳部のトリオはひとしきり笑うと、レジへ向かっていった。女子校ではろくに男性との接点がないため、からかい甲斐のある相手が面白いだけだろう。
キュートはむすっと頬を膨らませる。
「お、に、い、ちゃ、ん? ミキたちに変な気起こしたら、怒るからねっ?」
「し、しないってば」
迫られた分、『僕』はあとずさって冷や汗をかく。
「でもキュート、どうしてミキちゃんの名前を知ってるの?」
「エッ? そ、それは……ほら、あの子が自分で呼んでたでしょ?」
あからさまに動揺する妹。
しかし『僕』はまた別の意味で動揺していた。冷や汗の理由もキュートではない。
キュートの背後を、SHINYの三人が通り掛かったために。
(ふぅ~ん? いつの間にミキたちと仲良くなってたわけ?)
(Pくん……帰ったら、お、し、お、き、よ?)
(あとでお話があります。覚悟しておいてくださいね?)
しかも極上の薄ら笑みを浮かべながら。
「お兄ちゃ~ん、これとこれ、どっちが好き?」
「えぇと、左……かな」
しばらくの間、『僕』は後ろを気にしてばかりいた。
買い物を済ませて、いよいよゲームセンターへ。
女子に人気のプリントメートは運よく空いていた。『僕』とキュートはカーテンの中へ直行し、筐体にコインを投入する。
(里緒奈たちは……さすがにもういないか)
帰ってからのことは恐ろしいが、割りきることにした。
スクリーンに『僕』とキュートが並んで映る。
「フレームとかはキュートに任せるよ」
「うん。じゃあねぇ……ハートのやつで!」
妹とは撮ったことのないプリントメートに、心ならずも胸が躍ってしまった。
(美玖もこんな顔するんだなあ……いや、キュートだっけ?)
可愛い彼女と一緒にプリメ、という恋人らしいシチュエーションも、実のところ嬉しかったりする。どうも『僕』は年下の女の子に甘えられると、弱いらしい。
プリントメートを前にして、キュートがもじもじと指を編んだ。
「ね、ねえ……お兄ちゃん? 魔法で誰も近づけないようにって、できる?」
「できなくはないけど……ちょっとマズい、かな」
カーテン越しに人気がないのを確認しつつ、『僕』はキュートに説明する。
アイドル活動以外での魔法は原則としてNGだということ。ただ、アイドルが外出する際の認識阻害などは許容される。
「でもまあ、撮影中のプリメを覗き込むひとはいないよ。多分」
「あ、そーだよね? じゃあ……ここで脱いじゃっても」
「……は?」
思わず『僕』は目を疑った。
キュートがブラウスのボタンを外し、巨乳を開放的に弾ませたからだ。その膨らみが紺色の薄生地で包まれていることに、ほっとするとともに驚く。
「キュ、キュート? それって学校の……」
「スクール水着だよ。水泳部のじゃないほうの」
伝統的なローレグのスクール水着だった。
キュートはスカートも脱ぎ、足元のカゴへ放り込む。そして恥じらいたっぷりに『僕』を見上げながら、瞳を潤わせて。
「お兄ちゃんは後ろから、ぎゅってして? そうやって撮りたいの」
「え……と」
すぐには返事を返せなかった。『僕』は妹の水着姿に目を見張り、生唾を飲む。
「――ご、ごめん! じっと見るつもりは……」
焦ってそっぽを向くものの、顔中に熱が集まってきた。
(美玖とプリメを……え? 水着で?)
場所が場所だけに心拍数も跳ねあがる。胸を内側から叩かれるみたいだ。
それでもキュートは『僕』をまっすぐに見詰め、懇願する。
「里緒奈や菜々留に負けないプリメにしたいのっ! だから、お兄ちゃん……ね? キュートのお願い、聞いて?」
ここで拒絶して、妹を傷つける度胸はなかった。
(やばいって! そんなの、誰かに見つかりでもしたら……)
しかし判断に時間を掛けてもいられない。筐体の脇を誰かが通り掛かるたび、心臓がきゅっと縮こまる。
この状況では腹を括るほかなかった。
「わ……わかったよ。じゃあ……」
緊張しつつ『僕』はキュートの背後にまわり、華奢な肩に触れる。
なるべく遠慮がちに。なるべく無難なところを。
それでは物足りないらしいキュートが、肩越しに意味深な視線を返してきた。
「お兄ちゃん……あのね?」
「な、何かな」
「肩の紐はずらしたほうがいーい?」
妹の大胆な発言にどぎまぎする。
「え? ええと……」
水着のストラップをずらして欲しい、と桃香のグラビア撮影で指示を出したことはあった。天然と巨乳ゆえに何度かポロリも起こっている。
そんなピンクシーンを撮ろうものなら、『僕』は今夜のお仕置きで死ぬだろう。
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