第114話

 現に『僕』は幾度となくSHINYのメンバーとニャンニャンを経験している(R15の範疇で)。そして、そのスキンシップこそが彼女たちの魅力を最大限に引き出し、アイドル活動を大成功へ導いた。

 ひょっとしたら、これも魔法の一種なのかもしれない。

 また困ったことに――里緒奈たちにとって、『僕』とのニャンニャンはとても気持ちいいものらしい。機会を窺っては、スクール水着で濃厚なハグを要求してくる。

 その一連の情事を把握したうえで、キュートはメンバーを挑発した。

「みんなはお風呂でお兄ちゃんと一緒なんだから、プールでぎゅっとしてもらうの、ナシね? お兄ちゃんもこうやって教えるの、きゅーとだけにして?」

「で、でも……」

 キュートの大胆な宣言に『僕』はたじろぎ、菜々留や里緒奈は面食らう。

 そんな中、恋姫が怒り心頭に声を張りあげた。

「いいっ、いけません! P君っ? 新メンバーだからって、キュートだけ特別扱いするのはだめです! キュートにするなら……レ、レンキにだって!」

「え……えええ~っ?」

 ブレーキのない車でアクセルを踏んだら、どうなるか。

 今の恋姫のようになる。本人にも自覚はあるらしく、可愛い顔を真っ赤にして。

「同じようにしてもらいますよ? レンキにも」

 引っ込みがつかないのか、恋姫は勢い任せに押しきってきた。

「レンキにもっ!」

「ま、待って、待って! 落ち着い……」

 里緒奈と菜々留も負けじと加わる。

「次はリオナでしょ? Pクン!」

「あらぁ、ナナルよ。Pくんはナナルにいっちば~ん、夢中なんだもの」

 今ほど『僕』は自分の業の深さを思い知らされたことなかった。

(なんでこんなことに……?)

 ただでさえ女子校という男子禁制の聖域で、女の子たちに囲まれては、いよいよ逃げ場がない。自分より小さな妹を盾にして、恐る恐るメンバーの顔色を窺う。

「あ、あのぉ……里緒奈ちゃんも恋姫ちゃんも、菜々留ちゃんも……ほ、本気で?」

 里緒奈も恋姫も自ら胸を叩いて、言いきった。

「キュートにできて、リオナにはできないわけっ?」

「セ、セクハラするなら、最後まで責任持ってしてください!」

「ナナルが証明してあげるわ。Pくんと相性が抜群なのは、ナナルだってこと」

 柔和な菜々留まで一緒になって、『僕』に欲求をぶつけてくる。

(こういうのって、普通は男子が女子に迫るんじゃ……)

 男女の価値観はさておき、三対一では勝ち目などなかった。

 ぐずぐずしていては、女子校の誰かに目撃される恐れもある。『僕』は覚悟を決め、SHINYのメンバーにひとりずつ平泳ぎを教えることに。

「わかったよ。じゃあ……ジャンケンで順番を」

 里緒奈たちは正々堂々と火花を散らした。

「オッケー。誰が一番でも恨みっこなしよ? 菜々留、恋姫!」

「レ、レンキは別に……あとでも」

 今になって恋姫は逃げたがるものの、キュートの参戦で有耶無耶にされる。

「待って待って、キュートも! まだ25メートル泳いでないんだもん」

「最初はグーね。いくわよ? ジャーン、ケーン……」

 そして――『僕』にとって過酷な百メートルが幕を開けた。

 25メートルずつ、まずは里緒奈から。頭を股間に潜り込ませて胸を押し掴む、いかがわしい『水中抱っこ』で突き進む。

「Pクン、ちゃんと支えて……あっ? やだ、水着がずれ……くふうぅん!」

 さしもの里緒奈も頻繁に腰をくねらせ、悩ましそうに色悶えた。それでも25メートルを泳ぎきろうと、拙いなりに平泳ぎを始める。

 おかげで『僕』はスクール水着の股布に顔面を押しつけ、さらにフトモモで挟まれて。

「んむむっ、ぐむぅ?」

 息苦しさのあまり両手に力を込めると、柔らかいものがむにゅうと。

 同時に里緒奈が背を伸びあがらせて、甲高い声を震わせる。

「へあぁああっ? Pクン、そんな強くしちゃ……えはっ、らめ……なんだからぁ」

 プールサイドへ乗りあげても、彼女は身体を起こせずにいた。豊かな胸を下敷きにして突っ伏し、丸いお尻を力なく痙攣させる。

「Pクンの……ばかぁ」

 是とも非とも取れない曖昧な囁きも、『僕』を刺激した。

(やばい……こんなのを、あと三回も?)

 ただ、里緒奈たちとは何度かニャンニャンの経験があるため、妹の美玖よりは多少の余裕がある。――と、そう思うことにする。

 二番手の菜々留も『僕』に身体の三点を預け、浮力に身を任せた。

「練習だってこと忘れないでね? Pくん。ナナルの脚の動き、はあっ、よぉく見て?」

 スクール水着のお尻が『僕』の顔に目掛け、突進してくる。

「#$%&~ッ!」

 また鼻の奥が熱くなってきた。

 女の子の甘い香りがダイレクトに『僕』の呼吸器官を循環、かつ充満する。

(変な気分になりそうだ……は、早く終わらせないと)

 ぎりぎりの理性で耐えながら、『僕』は何とか菜々留を前方へ運んでいった。しかし胸に添えるだけのつもりの手に不意の力が入ると、菜々留も危なっかしい嬌声を響かせる。

「あっああぁ? Pくんったら……んはぁ、ン、これも指導なの?」

「んむむむっ(違うよ)!」

 菜々留との25メートルも案の定、苦悶する羽目になってしまった。

 里緒奈はまだしも、菜々留は色仕掛けの度合いを自覚していない分、享受と拒絶のボーダーラインがはっきりしない。だから『僕』も遠慮せざるを得なかった。

(ごめん……ごめんね? 菜々留ちゃん)

 それでも前進すべく顔面で股間を、両手で胸を押す。

「――ぷはあっ! はぁ、はあ……」

「とても気持ち……ううん、いい練習になったわ。ありがとう、Pくん」

「ど、どういたしまして……」

 やっとのことでふたりに平泳ぎの指導を終えたものの、ここからが本番だった。

 次の恋姫は明らかに腰が引けている。

「い、いやらしい気持ちで触らないでください? これは練習! 練習ですからっ」

 『僕』としても女の子に三点責めは、心臓に悪い。相手が潔癖症の恋姫となっては、訴訟を受ける可能性もあった。

「じゃあ、その……普通に引っ張ろうか?」

「え?」

 だからこそ、『僕』のほうから妥協案を提示するものの。

 恋姫はキュートや里緒奈、菜々留を一瞥し、かえって覚悟を決めてしまった。

「お、同じで構いません。お願いします……!」

 かくして『僕』は彼女にも過度のスキンシップを強要することに。

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