第113話
一瞬、妹の身体がびくんと跳ねた。
「ひあっ? うん……お兄ちゃん、これなら……」
キュートは恥ずかしがるも、腕と脚で平泳ぎのリズムを取り始める。
(とっとと、とんでもないトコ、触ってるんだけど……?)
なるべく意識しないよう、『僕』は自ら唇を噛んで、その痛みに堪えた。
しかしキュートがしきりに動くせいで、支点がずれそうになる。だからといって、これまた反射的に掴んでしまったのがいけなかった。
「あふうっ?」
スクール水着の股布を引っ張りあげられるや、キュートの声が色めく。
「ごっご、ごめん! キュート!」
「へ、平気だから……お兄ちゃん、そのままでね?」
それでもキュートは懸命に、腕で前をかき分け、脚で後ろを蹴った。『僕』はここが女子校のプールであることを思い出し、怖気を覚える。
(も、もう終わりにしないと……)
しかし美玖に切ないまなざしを向けられると、止めるに止められなかった。
「お兄ちゃん、やっぱり……その、まっすぐ支えてくれる? これだと脚がお兄ちゃんに当たって、動かしづらいし」
「ええっと……まっすぐって、どんなふうに?」
「だからぁ、ミキたちにやってたやつぅ」
妹は何が何でも『僕』にアレをさせたいらしい。
浮き身の股座を顔面で支える、アレだ。
(さすがにそれは……でも、やらないことは終わらないよな? これ……)
あのセクハラを実践するまで、逃がしてくれそうになかった。すでに『僕』の中の天使と悪魔は諦めている。
もはや腹を括るほかない。
「じ……じゃあ、ほんとにやっちゃうぞ?」
緊張で胸を高鳴らせながらも、『僕』はキュートの背後にまわった。そして彼女の受け身を支えるように下半身を持ちあげ――スクール水着の股布に顔を近づけていく。
プールの水で濡れていても、はっきりと温もりが感じられた。
「あ……っ?」
敏感そうにキュートがのけぞり、薬指を甘噛みする。
さらにキュートのお尻を両手で押さえれば、キュートの浮き身も安定した。
(~~~ッ!)
かろうじて水面から鼻が出るおかげで、呼吸はできる。しかしこの体勢での呼吸は、妹のスクール水着ですーはーくんかくんかするのと同じこと。
できる限り息を止め、練習に集中する。
「もごもごっ、もご!」
「あ、うん。練習……だもんね?」
口が水中にあるせいで、まともに話せなかった。そんな『僕』の意図を察し、キュートはおもむろに平泳ぎの動きを始める。
ずぶ濡れのフトモモが『僕』の頭を挟み込んでは、離れた。
(こんなに刺激が強かったっけ? この指導……!)
鼻の奥がどんどん熱くなってくる。噴くのか、『僕』は鼻血を噴くのか。
むしろ『僕』の大きな頭が、キュートの脚の動きを妨げている。その姿勢で強引に繰り返すうち、またもキュートがバランスを崩した。
「ひゃあぁ?」
「み――キュート!」
美玖と呼びそうになった動揺もあって、咄嗟に手が伸びる。
その結果……『僕』は妹の股座に顔を埋めた恰好で、さらに妹の巨乳を両方とも、スクール水着の上から鷲掴みにしていた。
三 点 責 め である。
「おっ、お兄ちゃん?」
さしもの美玖も慌て、じたばたと脚を暴れさせる。
そのたびに『僕』は顔面をフトモモで押し揉まれてしまった。スクール水着越しに美玖の芳香を、心ならずも堪能する。
「んぶっ、キュート? 一旦あがろう、な?」
「やだ、急に動いちゃ……はあっ、きゅーとはまだ練習……」
プールサイドへ運ぼうにも、キュートは平泳ぎの動きを続けたがった。
「い、いいよ? お兄ちゃん……これ、上達しそうだから、はぁ、もう少しだけ」
首で振り向き、アイマスクの脇から横目を『僕』に投げてくる。
嫌がっているのか、欲しがっているのか。妹の扇情的なまなざしに、不覚にも『僕』は何らかの感情をそそられてしまった。
(だめだ! 考えるな……感じもするんじゃないっ! 心を無に……!)
それこそ格闘家のようなことを念じつつ、何とかプールサイドまで辿り着く。
だが、そこで終わらなかった。みっつの人影が窓からの日差しを遮り、『僕』の視界をうっすらと暗転させる。
「楽しそうねぇ、Pクン。学校のお仕事じゃなかったの?」
頭の上から降ってくる言葉に『僕』は戦慄した。
「あらあら……今度はキュートちゃんと? 油断も隙もないわね」
「言い訳は聞いてあげます。許してはあげませんけど」
里緒奈が、菜々留が、恋姫が、プールサイドから『僕』たちを覗き込む。
三人揃ってスクール水着で、極上の冷笑を浮かべながら――。
(死んだあーっ!)
にもかかわらず、キュートはこれ見よがしに『僕』に抱きついた。
「きゅーと、お兄ちゃんに教えてもらってただけだもぉーん。大体みんなだってぇ、お風呂でお兄ちゃんともっとすごいこと、してるんでしょ?」
「うっ。それは……」
里緒奈たちはばつが悪そうに言い淀む。
「お兄ちゃんもSHINYのメンバーをぎゅってするなら、きゅーとにも同じくらいしてくんなきゃ。きゅーともSHINYのメンバーなんだからね?」
「え、えぇと」
『僕』もはっきりとは答えられず、泡を噛んだ。
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