第109話
全員がプールに入ったところで、水泳部本来の練習へ。
「みんな、水分補給も忘れずにね」
屋内プールとはいえ、日差しは強い。そんな時こそ魔法の出番。
プールの、ついでにグラウンドの上空にも、すでに『僕』は紫外線を緩和するフィールドを張ってある。ほかのクラブも快適に練習できるはずだ。
水泳部も一年を通して練習できるおかげで、、部員のレベルも上がってきている。
そのはずが、
「P先生~! 今日も平泳ぎの指導、お願いしまぁーす」
どうも平泳ぎを不得手とする部員が多かった。
「あれ? ミキちゃん、まだ苦手?」
「だってぇ、P先生のフォローがないと、スピードが出ないんだもん」
『僕』の補助なしではフォームが崩れるせいだろう。
「あっ、私も! 次ね!」
「ミキとシホばっか、ずるい~! 私もっ!」
平泳ぎの練習を目当てに熱心な部員が続々と集まってきて、前のめりになる。
当然、顧問の『僕』に断る理由はなかった。
「いいよ。ひとり25メートルずつ、僕と一緒に流そっか」
まずは一番手のミキがプールの端に掴まり、水面に身体を浮かせる。そして恥ずかしがりながらも脚を開き、ぬいぐるみの『僕』を挟み込む。むっちりと。
見た目には奇抜かもしれないが、こう支えるのがベストなのだ。彼女とともにコースへ入り、平泳ぎの特訓に励む。
その間、ぬいぐるみの『僕』はフトモモで繰り返し按摩されることに。
(~~~っ!)
おまけにスクール水着の股布に鼻を擦りつける形になる。
不可抗力だった。大事なことなので二度言うが、これは不可抗力。
この練習法は効果てきめんで、ミキは難なく25メートルを泳ぎきった。
「この感じ……そっかあ。ありがと、P先生」
「どういたしまして」
「代わって、ミキ! 今度は私!」
プールサイドを経てスタートの位置へ戻ったら、お次はシホのデルタへ潜り込む。
シホのお尻と押しあいへしあいしながら、さらに25メートル。
「やっぱりP先生、教えるの上手だよねー」
「わかる、わかる! P先生、私にも」
可愛い生徒たちのため、『僕』はコーチとして身体を張った。
しかし『僕』に指導を催促しない部員もいる。SHINYのメンバーは出るに出られない様子で、平泳ぎの練習を眺めていた。
「むぅ~」
里緒奈が頬を膨らませる。菜々留や恋姫も非難めいた視線を『僕』に向けた。
『僕』はこわごわと誘いを掛ける。
「えっと……みんなもおいでよ。教えてあげるからさ」
「じじっ、冗談じゃありません!」
と、声を荒らげたのは恋姫。
ほかの部員は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの? 恋姫。前はよく教えてもらってたじゃない」
「里緒奈と菜々留もそうよね。なんか急に、P先生に遠慮しだしたってゆーか」
それもそのはず、以前の里緒奈たちは『僕』が人間の男子だと知らなかった。そのせいで『僕』の入浴中に風呂場を覗き込むような真似もしている。
しかし今は『僕』が人間だと知っているわけで。
里緒奈の視線がいっそう冷たくなった。
「Pクン……その練習、ほんとは好きでやってるんでしょ?」
「エッ? そ、そんなこと……」
菜々留も意味深に含める。
「好きでもなきゃできないことよね? クラブ活動の顧問なんて……うふふ」
その『好き』の対象はスポーツなのか、それとも女子高生やスクール水着なのか。水泳部の面々は認識阻害の影響もあって、前者と思い込んでいる。
「菜々留までどうしたの? P先生は大会のために教えてくれてるのに」
そんな部員たちの言葉を聞き、恋姫は眉をひそめた。
「ひ、卑怯ですよ? P君! 認識阻害をこんなふうに使って!」
「ちょ、待って? みんな聞いてるから!」
『僕』は慌ててジャンプし、恋姫の口を塞ぐ。認識阻害の影響下にあるとはいえ、魔法について明言されるのはまずい。
その一部始終を、妹の美玖は呆れ半分に見守っていた。
「だから言ったでしょ? 兄さんに水泳を教わるのはやめたほうがいい、って」
里緒奈も、菜々留も、恋姫も赤面し、スクール水着のデルタを押さえに掛かる。
「だ、だって……ねえ? 菜々留ぅ」
「ええ……ナナルったら、前は平気であんなこと……」
「狙ってたんですよね? P君。確信犯だったんですよねっ?」
すでに『僕』は彼女たちに何度も平泳ぎを指導していた。決して疚しい気持ちがあったわけではないが(強調)、あのフトモモの感触を『僕』はよく知っている。
(柔らかかったなあ……じゃなくてっ!)
不埒な妄想を振り払い、名コーチは熱血教師ぶりをアピールした。
「いつだって僕は真剣だよ。アイドル活動も、水泳部も」
ぬいぐるみの顔をキリッと引き締め、大空を仰ぐ。
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